表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/48

脱出の始まり

 あの暗い洞窟の眺めから1週間後、ハーキンス王国の鉱山では、ロイの一日がいつものように始まっていた。鉱石を削り、ツルハシを振るう。体中の痛みが日常となった今、ロイはその重さに慣れていた。

 だが、今日の空気はどこか違っていた。鉱山の中を漂う不穏な風が、何か異常を予感させている。


 昼食の時間が近づくと、鉱山で働く奴隷たちは鉱山の外に出て、薄暗い空の下で一息ついていた。灰色の雲が低く垂れこめ、重い風が吹いている。ロイも他の奴隷たちと同じように、地面に座り込んで肩で息をしていた。


「今日は…なんだか変な感じがするな…。」


 ロイは顔を上げ、空を見上げた。冷たい風が肌を刺し、空気が張り詰めたように感じられる。

 奴隷たちは皆、疲れ果てた表情で食事を取っているが、ロイは何か不安なものを感じ取っていた。


「おい、ロイ」


 隣に座っていた年上の奴隷が声をかけてきた。彼もまた、空を見上げて眉をひそめている。


「お前も感じているのか?なんか、いつもと違うよな」


「うん…なんだろう…」


 ロイがそう言った瞬間、遠くの山の向こうから低い唸り声のような音が聞こえてきた。その音は徐々に大きくなり、重い空気と共に周囲に広がっていく。


「何だ…?」


 ロイは目を凝らし、音のする方を見つめた。すると、大きな影がいくつも山の向こうから現れた。最初は一つの影だったが、それが次第に分かれていく。


「まさか…」


 奴隷たちの間にざわめきが広がる。影がどんどん近づいてきて、やがてそれが何であるかが明らかになった。


「ワイバーンだ!ワイバーンの群れが来るぞ!」

 誰かが叫んだ。その瞬間、鉱山全体が一気にパニックに陥った。


「キィシャァァァァァーー!」

 鉱山にいるロイたちに、ワイバーンの声が大きく響く。


 そのワイバーンの声に奴隷たちは立ち上がり、あちこちへ逃げ出そうとするが、どこに逃げれば安全なのか分からずに混乱している。


(どうしてこんなところに…)


 俺は心の中で叫びながら、空を見上げた。五体のワイバーンが鉱山の上空を旋回し、鋭い眼光で地上を睨みつけている。ワイバーンたちの巨大な翼が風を切り、耳をつんざくような音が響き渡る。


「逃げろ!皆、逃げるんだ!」


 一人の奴隷が叫んだが、彼自身も恐怖に怯えているのが見て取れた。奴隷たちはその指示に従おうとするが、鉱山の外には逃げ場がない。ロイもまた、どちらに逃げればいいのか分からず、その場に立ち尽くしていた。


 そんな時に監督者達は、奴隷たちを逃がさないために、叫ぶ。


「お前らぁ!逃げるんじゃねぇ!」

「ふざけるな!奴隷の分際で、勝手に逃げれるとおもうなぁぁー!」


 しかし、奴隷たちは監督者達の話も聞かずに逃げようとする。

 また、監督者達も奴隷たちに叫びながらもワイバーンの脅威に怯えているのだ。


「どうする…どうすれば…」

 そんな中、ロイは必死に考えたが、答えは見つからない。その時、一体のワイバーンが急降下し、鉱山の入口付近に着地した。地面が揺れ、岩が砕け散る。その衝撃で倒れ込み、必死に体を起こした。


「くそっ、なんて力だ…」


 恐怖で体が震えるのを感じながらも、頭の中で生き延びる方法を探していた。

 奴隷たちの悲鳴と怒号が飛び交い、鉱山の周囲は混乱の渦に包まれている。


「今だ!今しかない…逃げるんだ!」


 ロイはそう決意し、一人で駆け出した。周りの奴隷たちはまだパニック状態で、誰も気づいていない。ワイバーンが次々と襲いかかり、地面を踏みしめるたびに岩が砕け散る。


「洞窟の中だ…あそこなら…」


 ロイは鉱山の奥にある小さな洞窟を目指して走り出した。ワイバーンが別の方向に向かっている間に、何とかその洞窟に逃げ込むつもりだった。全身が恐怖で震えているが、彼の足は止まらない。


 洞窟の入口にたどり着いたロイは、振り返って後ろを見る。ワイバーンたちは依然として鉱山周辺で暴れ回っており、奴隷たちの逃げ惑う姿が見える。


「みんな…ごめん…」

 俺は一瞬だけ目を閉じ、仲間たちのことを思った。

 しかし、この状況ではどうすることもできない。

 自分が生き延びるためには、この混乱を利用して逃げるしかなかった。


「俺は…生きるんだ」


 ロイはそう呟き、洞窟の中へと飛び込んだ。暗闇の中を全力で走り、岩壁に手をついて進んでいく。洞窟の中は真っ暗で、先が見えない。だが、ロイは止まるわけにはいかなかった。


「ここを抜ければ…」

 自分に言い聞かせながら、さらに奥へと進んでいく。

 背後ではまだワイバーンの咆哮が響いているが、その声が少しずつ遠ざかっていくのが感じられた。


「あと少し…もう少し…」


 必死に自分を奮い立たせながら、前に進み続けた。

 足元が不安定で、何度もつまずきそうになるが、転ばないと心に決めていた。


 しばらく進んでいると、前方に微かな光が見える。

 ロイの胸に希望の光が差し込む。


「出口だ…!」


 その光に向かって全力で走る。

 洞窟の出口にたどり着くと、外の光が目に飛び込んできて、一瞬目がくらんだ。


「外だ…!」


 ロイは外の光を浴びながら、息を切らして喜びをかみしめた。だが、その瞬間、背後から再びワイバーンの咆哮が響いた。彼は恐怖で背筋が凍りついたが、それでも振り返ることなく走り続けた。


「もっと遠くへ…」


 ロイはさらに速度を上げた。彼の頭の中にはシアとの約束が浮かんでいた。


「俺は…諦めない!」

 全力で駆け抜け、ついに開けた谷間へとたどり着く。


「助かった…のか…?」

 息を切らしながら、鉱山の方を振り返った。

 遠くでワイバーンがまだ暴れているが、その姿は次第に小さくなり、やがて見えなくなった。


「..自由だ…」

 俺はそう呟きながら、涙を流す。

 シアとの別れから一年、ついに鉱山を抜け出し、自由を手に入れたのだ。


「これからだ…俺の冒険は」


 ロイは新たな決意を胸に、自由の道を歩き始める。

 そんな彼の心には、新たな希望と決意が満ちていたのだった。



読んで頂きありがとうございます。


自身の創作小説です。

面白かったらいいね!をください。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ