脱出の始まり
あの暗い洞窟の眺めから1週間後、ハーキンス王国の鉱山では、ロイの一日がいつものように始まっていた。鉱石を削り、ツルハシを振るう。体中の痛みが日常となった今、ロイはその重さに慣れていた。
だが、今日の空気はどこか違っていた。鉱山の中を漂う不穏な風が、何か異常を予感させている。
昼食の時間が近づくと、鉱山で働く奴隷たちは鉱山の外に出て、薄暗い空の下で一息ついていた。灰色の雲が低く垂れこめ、重い風が吹いている。ロイも他の奴隷たちと同じように、地面に座り込んで肩で息をしていた。
「今日は…なんだか変な感じがするな…。」
ロイは顔を上げ、空を見上げた。冷たい風が肌を刺し、空気が張り詰めたように感じられる。
奴隷たちは皆、疲れ果てた表情で食事を取っているが、ロイは何か不安なものを感じ取っていた。
「おい、ロイ」
隣に座っていた年上の奴隷が声をかけてきた。彼もまた、空を見上げて眉をひそめている。
「お前も感じているのか?なんか、いつもと違うよな」
「うん…なんだろう…」
ロイがそう言った瞬間、遠くの山の向こうから低い唸り声のような音が聞こえてきた。その音は徐々に大きくなり、重い空気と共に周囲に広がっていく。
「何だ…?」
ロイは目を凝らし、音のする方を見つめた。すると、大きな影がいくつも山の向こうから現れた。最初は一つの影だったが、それが次第に分かれていく。
「まさか…」
奴隷たちの間にざわめきが広がる。影がどんどん近づいてきて、やがてそれが何であるかが明らかになった。
「ワイバーンだ!ワイバーンの群れが来るぞ!」
誰かが叫んだ。その瞬間、鉱山全体が一気にパニックに陥った。
「キィシャァァァァァーー!」
鉱山にいるロイたちに、ワイバーンの声が大きく響く。
そのワイバーンの声に奴隷たちは立ち上がり、あちこちへ逃げ出そうとするが、どこに逃げれば安全なのか分からずに混乱している。
(どうしてこんなところに…)
俺は心の中で叫びながら、空を見上げた。五体のワイバーンが鉱山の上空を旋回し、鋭い眼光で地上を睨みつけている。ワイバーンたちの巨大な翼が風を切り、耳をつんざくような音が響き渡る。
「逃げろ!皆、逃げるんだ!」
一人の奴隷が叫んだが、彼自身も恐怖に怯えているのが見て取れた。奴隷たちはその指示に従おうとするが、鉱山の外には逃げ場がない。ロイもまた、どちらに逃げればいいのか分からず、その場に立ち尽くしていた。
そんな時に監督者達は、奴隷たちを逃がさないために、叫ぶ。
「お前らぁ!逃げるんじゃねぇ!」
「ふざけるな!奴隷の分際で、勝手に逃げれるとおもうなぁぁー!」
しかし、奴隷たちは監督者達の話も聞かずに逃げようとする。
また、監督者達も奴隷たちに叫びながらもワイバーンの脅威に怯えているのだ。
「どうする…どうすれば…」
そんな中、ロイは必死に考えたが、答えは見つからない。その時、一体のワイバーンが急降下し、鉱山の入口付近に着地した。地面が揺れ、岩が砕け散る。その衝撃で倒れ込み、必死に体を起こした。
「くそっ、なんて力だ…」
恐怖で体が震えるのを感じながらも、頭の中で生き延びる方法を探していた。
奴隷たちの悲鳴と怒号が飛び交い、鉱山の周囲は混乱の渦に包まれている。
「今だ!今しかない…逃げるんだ!」
ロイはそう決意し、一人で駆け出した。周りの奴隷たちはまだパニック状態で、誰も気づいていない。ワイバーンが次々と襲いかかり、地面を踏みしめるたびに岩が砕け散る。
「洞窟の中だ…あそこなら…」
ロイは鉱山の奥にある小さな洞窟を目指して走り出した。ワイバーンが別の方向に向かっている間に、何とかその洞窟に逃げ込むつもりだった。全身が恐怖で震えているが、彼の足は止まらない。
洞窟の入口にたどり着いたロイは、振り返って後ろを見る。ワイバーンたちは依然として鉱山周辺で暴れ回っており、奴隷たちの逃げ惑う姿が見える。
「みんな…ごめん…」
俺は一瞬だけ目を閉じ、仲間たちのことを思った。
しかし、この状況ではどうすることもできない。
自分が生き延びるためには、この混乱を利用して逃げるしかなかった。
「俺は…生きるんだ」
ロイはそう呟き、洞窟の中へと飛び込んだ。暗闇の中を全力で走り、岩壁に手をついて進んでいく。洞窟の中は真っ暗で、先が見えない。だが、ロイは止まるわけにはいかなかった。
「ここを抜ければ…」
自分に言い聞かせながら、さらに奥へと進んでいく。
背後ではまだワイバーンの咆哮が響いているが、その声が少しずつ遠ざかっていくのが感じられた。
「あと少し…もう少し…」
必死に自分を奮い立たせながら、前に進み続けた。
足元が不安定で、何度もつまずきそうになるが、転ばないと心に決めていた。
しばらく進んでいると、前方に微かな光が見える。
ロイの胸に希望の光が差し込む。
「出口だ…!」
その光に向かって全力で走る。
洞窟の出口にたどり着くと、外の光が目に飛び込んできて、一瞬目がくらんだ。
「外だ…!」
ロイは外の光を浴びながら、息を切らして喜びをかみしめた。だが、その瞬間、背後から再びワイバーンの咆哮が響いた。彼は恐怖で背筋が凍りついたが、それでも振り返ることなく走り続けた。
「もっと遠くへ…」
ロイはさらに速度を上げた。彼の頭の中にはシアとの約束が浮かんでいた。
「俺は…諦めない!」
全力で駆け抜け、ついに開けた谷間へとたどり着く。
「助かった…のか…?」
息を切らしながら、鉱山の方を振り返った。
遠くでワイバーンがまだ暴れているが、その姿は次第に小さくなり、やがて見えなくなった。
「..自由だ…」
俺はそう呟きながら、涙を流す。
シアとの別れから一年、ついに鉱山を抜け出し、自由を手に入れたのだ。
「これからだ…俺の冒険は」
ロイは新たな決意を胸に、自由の道を歩き始める。
そんな彼の心には、新たな希望と決意が満ちていたのだった。
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自身の創作小説です。
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