婚約破棄が流行ってる
「流行ってるんですよ。婚約破棄」
午後のティータイム。ベアトリスは、メイドのその言葉に、眉を顰めてティーカップを置いた。
「何が流行ってるですって?」
「だから婚約破棄ですよ。学生の間で流行っているんです。まぁ、若いうちに適当な学友と恋仲になるなんてよくある話じゃないですか。でも家の位が高いと、婚約者がいて邪魔になる。だから適当な罪でパーティーとかで断罪して、それを理由に婚約破棄するんですよ。私が知る限りでもその流れで学園を追放された生徒が数人、悪役に仕立て上げられて……まあ、中には本当に悪さした令嬢や令息もいるみたいですけど。大抵は冤罪らしいですよ」
「何故それを学園側は放っておいているのかしら」
「相手はお貴族様たちですから。中には王族の方もいるみたいで……そりゃ、強くは出られませんって」
冷めた紅茶を入れ直しながらメイドは苦笑いをする。ベアトリスはしばらくそれを眺めてから、ため息をつくと席を立った。
「どうしましたか?お嬢様」
「いえ、やらなければならないことを思いたの」
ベアトリスが学園を去ったのは、それから半年後のことだった
そして彼女はすぐに学園に戻ってきた。
飛び級によりあっという間に優秀な成績で学園を卒業した彼女は、教員として戻ってきたのである。
彼女は婚約者に邪険にされていたり意地の悪かったりする我儘な令嬢や令息を集め、様々な教養を身につけささた。友人を作る大切さを教えた。それでも彼らの中には言われもない罪で糾弾を受けそうになった者もいた。それを庇い、彼らは仲間同士で無実を証明した。横行していた婚約破棄は、次第になくなり、過去、糾弾されたものたちの救済も行われ始めた。
法までもが改訂され、婚約破棄に関するガイドラインがしっかりと整備された。これにより理不尽な婚約破棄から、多くの人々が救われたのだ。
午後のティータイム。女性が紅茶を淹れる。
ベアトリスはそれを不思議そうに見つめていた。
「もう、貴方は私に紅茶を淹れる必要はなくてよ」
「私が淹れたいの。だめかしら」
かつて、ベアトリスには唯一無二の友がいた。彼女は、無実の罪で、学園を追放され、愛した人にも婚約破棄された。身分も取り上げられた彼女を、ベアトリスはメイドとして雇い、そばにおいた。
今や、身分も取り戻した彼女だったが、変わらずベアトリスに紅茶を注ぐ。
ベアトリスは少し困ったように、それでも嬉しそうに彼女を見つめた。
「いえ、貴方の紅茶は美味しいもの」
女性は微笑み返すと、彼女の横に座り、二人は午後のティータイムを続けた。