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旦那様には理由があったのかもしれません 2


 ここは夫婦の部屋だ。

 ゆっくり近づいてきたウェルズ様に抱きしめられる。

 頬を撫でられてそっと上を向かされた。


 暗闇になれてきたせいか、闇夜に染まらずに輝いているウェルズ様の瞳の色がはっきりと見える。


「……ウェルズ様、私、聞きたいことがあるんです」

「……わかった」


 腕の力が緩んで距離が離れれば、急に部屋の寒さを感じる。


「風邪を引かないでくれよ」


 私が寒そうなそぶりをしたことに気が付いたのだろう。まだ騎士団の制服姿だったウェルズ様が、マントを外して私の肩にそっとかけてくれた。


 そして手を引かれ、二人でソファーに並んで座る。


「ありがとうございます」

「……ああ」

「3年前、何があったのか話してくれますか?」

「……3年前、か。ひどく昔のことのようだ」


 ウェルズ様は天井に向けていた視線を彷徨わせ、どこから話せば良いか悩んでいるような様子だ。

 大きな手が強く握りしめられていたから、そっと手を重ねる。

 

「そうだな……。結婚を申し込んだあの日、君は了承してくれたな」

「ええ……」


 あの日のことは鮮明に覚えている。

 それは王家主催の夜会での出来事だった。


 ***


 王家主催の夜会は、王都に在住の貴族全てに参加義務があった。

 魔力を持たずに生まれたことで実家にないがしろにされていた私も、唯一持っていたドレスを着てその日夜会に参加していた。


 壁の花で終わるのだろうという予想は覆され、なぜか騎士の中でも出世株、しかもすでに若くして侯爵の地位にあったウェルズ様が会場の端にいた私に歩み寄った。


「俺と踊ってくれないか」


 下級事務員としてウェルズ様と交流はあった。

 一人きりの知り合いを見つけて声をかけてくれたのかと思った私は丁重にお断りした。

 けれど、強引に手を引かれダンスの輪の中に連れ出されてしまったのだ。


 ウェルズ様のダンスのリードは完璧で、まるで急にダンスが上手くなったように錯覚しながら美しいシャンデリアの下で踊った。

 緑がかった青色の瞳には会場の光が映り込んで、ただその美しさから目が離せなかった。


 ダンスが終わると、ウェルズ様は国王陛下に呼び出されて去って行ってしまった。


(夢のような時間だった。一生の思い出にしよう)


 私はそんなことを思いながら、火照った頬を冷まそうとテラスから夜の庭に降り立った。


 薔薇が咲き乱れる庭園には人気がなかった。甘い香りに誘われるように歩き、戻ろうとしたときに月が雲に隠れた。


 ――急に真っ暗になってしまい道を間違ったのだろう。


 私は白い薔薇が咲き誇る見知らぬ小さな庭に出てしまった。

 

 そこには一人の男性が立っていた。

 暗闇の中で紫色の瞳が妖しげに輝いている。

 男性は驚いたように目を見開くと、私から視線をそらして去ろうとした。


 夜会に参加することもなく夜の庭園で一人過ごしていたのは、第三王子マークナル殿下だったことをのちに知る。もちろん王族だなんて知っていたら不敬を恐れて声を掛けなかったに違いない。

 けれど、そんなことを知らず、私はその人に道を尋ねた。


「……あの、夜会の会場に戻りたいのですが道を教えていただけませんか?」


 振り返った男性は、しばらくの間呆然と私を見つめて、その後驚いたように目を見開いた。


「……俺を見てもなんともない?」

「え……?」


 衝撃を受けたような言葉。のちに知ったのは、マークナル殿下と目が合った異性は多かれ少なかれ魅了の影響を受けるということだった。


「……やはり、効いていない」


 妖しげに輝く瞳で私の瞳をのぞき込んだ男性のあまりの剣幕に後退った私は、誤って薔薇のトゲで手の甲を傷つけてしまった。


「痛っ……」

「ああ、棘で傷つけたのか……。手を貸して」


 それは真っ暗な庭園を輝かせる美しい光だった。金色の光の粒がキラキラと輝き、白い薔薇が闇夜に浮かび上がる。


「……治らない。まさか、魔法自体が効かないのか」

「……あの?」


 実家でないがしろにされていた私は、怪我をしても治癒魔法を使ってもらえなかった。

 一部の強い魔力を持ったものしか使えない治癒魔法はとても高価なものだったから。


 ――だから、私の父も、義母も、私が魔法が効かない体質であることに気が付かなかったのだ。


「――君の名は」

「シーズベル子爵の長女、カティリアと申します」

「そうか……」


 微笑んだ男性は、妖精のように美しかった。

 一瞬だけ見惚れた私を親切にも夜会会場近くまで案内したあと、その男性は去って行った。


「カティリア嬢!!」


 そのときだ。ひどく慌てた様子でウェルズ様が私の元に駆け寄ってきたのは……。

 なぜか抱きしめられる。ウェルズ様の胸元にたくさんつけられた勲章が私のドレスのビーズに触れてカチャリと音を立てた。


「良かった……。会場のどこを探してもいないから、攫われたのではないかと心配した」

「えっと、迷子になってしまいまして……」

「結婚してくれ!!」

「はあ……。はい!?」


 満月にかかっていた雲が急に晴れて、ウェルズ様の顔がはっきりと見える。

 驚いた私よりもウェルズ様のほうがなぜか驚いた顔をしていた。

 

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆☆☆☆☆を押しての評価やブクマいただける創作意欲に直結します!


応援よろしくお願いします(*´▽`*)

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