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幸せ夫婦と精霊石 2


 マークナル殿下の執務室を訪れる。

 いつも以上にマークナル殿下の執務机には書類が積み上がっていた。


「さて、精霊と契約した、あるいは精霊石を手に入れた王族についての検証はもちろん急ぎたいが……」


 マークナル殿下は二回手を叩いた。

 すると天井からスルリと男が一人降りてくる。


「……っ、ウェルズ様!」


 その姿を見た私は驚愕し、慌ててウェルズを庇おうとその前に立って手を広げた。


「……たぶん」


 口を開いたのは黒い服を着た男性だ。

 そう、彼は以前マークナル殿下のお命を奪おうとした張本人に違いない。


 彼は顔を覆っていた覆面をとった。

 驚くべきことに彼の瞳はマークナル殿下と同じ紫色をしていた。


「たぶん、その行動は逆にフリーディル卿の初動を邪魔するからやめた方が良いと思うよ」

「……それは」


 それはそうだ、とその言葉に納得する。けれど身体がウェルズ様を守ろうと勝手に動いてしまったのだ。


「それに俺はもう、君たちの敵じゃない。そちらにいらっしゃる第三王子殿下が王位継承権を持つことを憚ることなく主張し始めたからね」

「……え? でも、マークナル殿下は元々」

「いや、第三王子殿下は王位継承争いに参加するつもりはなかった。けど気が変わったようだね……どんな心境の変化があったのか」


 男性の愉快そうな視線は、誰でもなく私に向いている。

 けれど、なぜマークナル殿下が王位継承権を主張することと、目の前の男性が敵でなくなることが繋がるのか、私にはわからなかった。


「まさか、王妃に雇われた刺客の俺を自身の王家の影に指名してくるとは」


 私はゴクリと渇いた喉を上下させる。『王家の影』それは秘書官の権限で読める資料の中、時折登場する王族の直属の配下であり……枷だ。


 王位継承権を主張すれば、自ずと王家の影がつくということなのだろう。

 男性はこの状況がいかにも楽しいようだ。


「秘書官が知の盾だとすれば、王家の影は武の剣だ。ときにその命を守り、道理をはずれればその命を奪うための……」


 なぜマークナル殿下はよりによって彼をそばに置いたのか。不思議に思い視線を向けると、そこにはよそ行きの王族としての笑顔があった。


「監視するにはいっそそばに置いた方が良いからね」

「おやおや、熱烈な求めに応じたつもりだったのに」


 ニッコリと微笑み合う二人は、妙に息が合っているようにも見えた。


「君が力を貸さなければ、王妃が俺たちを害するのは難しい……ましてや俺たちは」


 マークナル殿下が、ベルを大きく鳴らした。

 ドアを開けて現れたのは、女性騎士のフィラス様だ。


「フィラス、少しの間休みをあげよう」

「はあ……お役御免ということですか?」

「いや、とりあえず隊長級の騎士たちを全員集めてきて」

「それは」

「命令だ」

「……は」


 今までであればマークナル殿下は多数の人と関わることを避けていた。

 それはもちろん彼の魅了の力のためだけれど……。


(マークナル殿下は魅了の力をある程度コントロールできるけれど、幼いアイリス殿下はまだ……)


「大丈夫よ、カティリア」

「え……」

「精霊様が助けてくださるもの」


 精霊様と一緒に座っていたアイリス殿下が顔を上げる。隣に座る美貌の少年がどこか自慢げに胸を反らした。


 ほどなく騎士たちが現れる。

 臨戦態勢のごとく緊張して入ってきた騎士たちは、部屋に入るやいなや呆然とマークナル殿下を見つめた。


 そして一斉に彼の前で敬礼をしたのだった。

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