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王家の地下牢と狼 4


 バチンッと何かが破裂するような音がした。

 倒れ込んだはずの身体は、誰かに支えられて痛みを感じることはなかった。


 それが誰かなんてわかりきっている。

 ウェルズ様は私の下敷きになっているのだから。


「ウェルズ様……!」


 慌てて抱きしめるように背中に手を回す。上衣が破れているけれど、そこに傷はない。


「夢だった……?」


 勢い良く顔を上げると、ウェルズ様が私を見つめていた。そして甘い微笑みが向けられる。


(夢じゃない……)


 急に涙が溢れかえってウェルズ様の胸元を濡らしていく。

 その胸元にすがりつけば、確かな心臓の鼓動が聞こえてくる。


「ウェルズ様がいなければ、この場所に戻ってくる意味がないです」

「……そうか、すまない」

「一緒にいてくれなくては、意味がないんです」

「俺もだ……君を諦めることができない」


 ガバリと上半身の力だけで起き上がったウェルズ様に再び強く抱きしめられる。

 首筋に顔を埋めてくるのはやめてほしい。くすぐったくて身体をよじろうとするのに、ますます強く抱きしめられる。


「……死を覚悟したあの瞬間、目の前に君の幻が現れたんだ」

「そうだったのですね……」

「痛みが少しの間消えて、気が付いたときには友軍に救助され天幕の中だった」


 ウェルズ様を助けたそれは、精霊の力だったのだろう。


「あのとき泣いていた君の幻を捕まえなければ取り返しがつかなくなるという焦燥感で必死に手を伸ばしたんだ。その手は空を切ってそのあと意識を失ったが……間違ってなかったな」


 ウェルズ様の太腿の間に膝立ちをしてその緑がかった青い瞳を見つめる。確かにウェルズ様は『捕まえた』と言った。


「どうやってあの場所に」


 時間の流れがごっちゃになったあの場所には、魔力のない私しか入れないはずだ。


「君の元への転移魔法の魔法陣が刻まれたこの精霊石に、全ての魔力を流し込んだ」


 ウェルズ様が手にしているのはいまだ眩く光る青い宝石だ。胸元を見れば、私のブローチも眩く輝いている。


「……マークナル殿下から賜ったブローチとカフスボタンが精霊石?」

「これは、先々代の国王陛下が精霊に賜ったものらしいな」

「国宝級じゃないですか」


 そのとき、ブローチとカフスボタンが音を立てて粉々になった。


 驚き顔を上げる。マークナル殿下と目が合う。こちらを見つめているマークナル殿下の瞳は、先ほどまで一緒にいた狼と同じ色をしている。


 なぜかその瞳は大きく見開かれ、呆然としたままこちらをただ見つめている。


(――狼の精霊はあの場所にまた取り残され孤独に過ごしていくのかしら)


 耳に残る悲しげな遠吠え。美しい男性の姿は、魔力がなかったという乙女と恋に落ちたときの姿に違いない。

 そのとき、身体の横に温かい感触。そしてカチャンと落ちる何かの音がした。それと同時に聞こえてくる短い息づかい。


「は、まさか……」


 私から視線を逸らしたウェルズ様が、珍しく動揺したような声を出した。私のこと以外でウェルズ様が動揺を表に出すのはとても珍しい。


「いったいどうしたのですか……」


 ウェルズ様から視線を逸らせば床にはキラキラ輝く大きな青い石が落ちていた。

 そしてふわふわの感触に視線を向ければそこには白い毛並み。


「せ、精霊様!?」

『ガウ!』


 驚きとともに大きな声で呼びかければ、白い狼は首をかしげて尻尾をぶんぶんと勢い良く振ったのだった。

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