王家の地下牢 2
王家の地下牢。
言葉から想像していた湿った薄暗い空間とは違い、その場所はとても煌びやかだ。
燭台の上には色とりどりの魔石が置かれ、ほのかに光っている。燭台の足下には魔石と同じ色の魔法陣が描かれやはり光っていた。
魔力を感じられない私にはわからないけれど、これだけの魔石と魔法陣に埋め尽くされているのだ。
何かしらの魔法が働いていると考えて良いだろう。
その場所に豪華な椅子が一つ置かれている。
そこに座る少女の周りには跪く騎士たち。
彼らは皆、少女に心酔しているようだ。
「彼女は王座にふさわしいと思わないか?」
「……アイリス殿下」
紫色の瞳は魔石の光を反射して怪しく輝いているようだ。いつもの無邪気な笑顔を消し、感情の読めない笑みを浮かべたアイリス殿下はまさに王族そのものに見える。
「……カティリア」
アイリス殿下が私の名を呼び、ほんの一瞬だけ不安げな表情を浮かべた。けれどそれはすぐに消えてしまう。
(そうよね。いくら王族としての教育を受けていたってまだ5歳の子どもなのだから……)
唇を噛みしめ、駆け寄ると騎士たちが抜剣した。
「やめなさい。危害を加えるのは許さないわ」
その言葉を発した瞬間、騎士たちが剣持った手をだらりと下げた。魅了というのは恋に落ちるようなものだと思っていたけれど、まるで傀儡のようだ。
「さて、役者も揃ったことですし、早速」
「その前にアイリス殿下を自由にしてください」
震えを抑えて叫ぶ。けれど、男性は首を振った。
「――それはできません。この場にいることに耐えられるほどの魔力を持つのは今の王族には二人しかいませんから」
「……それなら俺でもかまわないだろう?」
息を切らせているその声は、マークナル殿下のものだ。男がクッと短い笑い声を上げた。
「いくら妹姫が大事だからと無謀ではありませんか? ……ああ、それとも彼女を助けにいらしたのでしょうか?」
マークナル殿下がチラリと私を横目に見て、口元を歪める。
「彼女の身の安全は保証されているだろう?」
「そうですね。あの場所に入れるのはフリーディル夫人だけですから」
指し示された場所は、ぐるりと燭台に囲まれている。あの場所がアイリス殿下が教えてくれた、精霊と王位を示す指輪が封印された場所なのだろうか。
「……妹を解放してくれないか? 妹はまだ幼いし、女王は建国以来一人もいない。反発を受けるだろう」
「あなたがその身を捧げると?」
「アイリスを逃がしてくれるなら」
「そうですね。王女に比べると魔力では少々劣りますが、悪くない」
……マークナル殿下は、アイリス殿下を囲む騎士たちに近づいた。騎士たちが再びアイリス殿下を守るように剣を向ける。
「はは、騎士ともあろう者が王族への忠義を忘れたか」
その声は震えそうになるほど冷たい。
次々と騎士たちが剣を収めてマークナル殿下に膝をついていく。
「アイリスを連れてここから去れ」
「嫌です、お兄様!!」
「……足手まといだ。わかるな? アイリス」
「お兄様! やだ、あなたたち、私の言うことが聞けないの!? やめなさい、私はこの場所に」
騎士たちはマークナル殿下の命令に従い、アイリス殿下を抱き上げてフラフラとした足取りで去っていく。
「……カティリア、君は俺と結婚するべきだったんだ」
「マークナル殿下?」
「陛下は魔力が低く、この場所に入ることが出来ない。それゆえに精霊との繋がりより、隣国との戦を3年以内に終わらせるというウェルズの誓いを選び彼と盟約を結んでしまった」
3年前の盟約とこの場所は繋がっているようだ。
「君は元々俺のもの。……今それが叶うだけのことだ」
「そうですか、ところで王位に就いた暁には」
「……そうだな、君の願いを叶えよう」
「やはり私が誰なのかお気づきでしたか」
「当然だ」
マークナル殿下は男性と言葉を交わすと私の手首を掴み燭台の近くに歩み寄った。
「マークナル殿下」
「魔力がない乙女は、王の妃となる。それは建国以来の王家の慣わしだ」
けれどマークナル殿下は、私の耳元に口を寄せる「ウェルズが来るまで出てくるなよ」とささやき私を突き飛ばしたのだった。
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