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零華に降る雨  作者: さらに、さららに
2/2

第二話 血の匂い

世界観の説明って難しいですね。


湿度を纏った滑りのある暑さが身体を蝕み始める季節


零華町朱雀地区三番街に建つ1件のボロいアパートが朝日に照らされ、より一層ボロさが際立っていた。

煩わしい熱気を活力に変えて猛り狂う蝉の絶叫に目を覚ます女性。


「何度目の朝かなぁ」

あをいが重たいまぶたを擦り

「痛っ!」

僅かに動かした身体がまだ痛む

「ふぅ、まだかなり痛むけど秘術を使う程ではないかな。

トイレに行くたびに秘術を使うのは、しんどいから良かったわ」

あをいは安堵して痛む体を抑えながらベットから体を起こす。


「あの妖は何故私を助けたのかな?

それと気になる事が他にも……

あの妖たまに血の匂いがするのよね…」


幾度も繰り返す疑問

辿り着けぬ答え

新たな疑惑


トントンッ

扉を叩く音

そちらに視線を移し


「起きてるよ」

扉の向こうに声をかける


黒い妖 クロノが朝食をもって入ってくる


「体調はどうだ?」


「今日はだいぶ良いから

そっちで食べるわ」

立ち上がろうとしてふらつく


「大丈夫か?無理するな」

片手で朝食の皿を持って器用にあをいを支えるクロノ

近づかれて感じる微かな


…血の匂い……

また、血の匂いがする…


部屋を出て

リビングのテーブルにつく。


「ねぇ?聞きたいんだけど」

尋ねるあをいの目に疑いの色が灯る。


「どうした?」


「あなた人を襲ってるの?」

あをいは疑問をしまわず、そのままぶつけるタイプだった。


「……だとしたら」

意外にも素直に答えるクロノに


「私も襲うの?」

ストレートに聞くあをい


クロノは苦笑して

「君は襲わないよ」

答える


「なら…」


「仕事だよ」


「人を襲うのが仕事?」


「軽蔑したかい?」

苦い笑みの中に微かな憂いを帯びた顔でこたえるクロノ


「別に…」

目線を外し

何となく目玉焼きを見つめつつ

「そんな事をしてたら消されるよ」


「大丈夫だよ」

あをいの心配をよそに素っ気なく答える。


「え?」

意外な返答に驚くあをい


「上も知ってることだ」


「なっ!」

予想外の答え


ガタッ

椅子をひく、あをい

急な動きに身体が痛み

顔に苦悶を浮かべる


「大丈夫?」


差し伸べられた手を払い

「あなたマフィアと繋がりがあったの!

でもなぜ?」

点と点を線で結ぼうとするも、うまく結べない


「繋がりはあるけど関わりはないよ」


「っ!?」

困惑するあをいに言葉を続けるクロノ


「それに、もしそうなら君は生きてはいない。

そうだろ?」

少し意地悪な言い方だったかな…


猜疑心を込めた眼差しを向けて

「そう、納得はできないけど一応信じとくわ」

…どうせ、今の私には何も出来ないしね……

不満そうなあをいが椅子に座り直し

クロノをきつく睨む


お互い無言で朝食を食べ始める

沈黙に耐えきれずあをいが口をひらく

「ねぇ、下の階に喫茶店があったよね

行きたいな

部屋にこもってばかりじゃ退屈だもん」


「分かった

お昼は喫茶店で食べよう。」






朱雀地区三番街のはずれにある古びたアパートの1階に併設された喫茶店

一番街に比べヒトの出入りも少なく立地も悪いが料理の味が良いため、地元客多めの隠れた名店といわれている。


カラン~


クロノに支えられ喫茶店に入るあをい。

喫茶店は昼には少し時間が早いのか

客はまばら

妖だけでなく人間もちらほらといる。


「いらっしゃい!」

野太い声が店内に響く

出迎えたのは毛むくじゃらの大柄の妖


「おっ若いの!珍しいな!!

もっと顔出せやサラシャが寂しがってるぞ!」


「ちょっと!おじぃちゃん!!!」

奥から愛らしい声が店内に響き渡る


「おっ!!お嬢さん生きとったか。

もう動いても大丈夫なのか」


「ん?」

あをいの顔に、はてなマークが浮かぶ


「覚えてないか、君を手当てしたのはマスターだよ」


「えっ?そうなの…ありがとうございます。」

頭を下げ礼を言うあをいに


「いいんじゃよ!」

言ってカラカラ笑うマスター


2人はカウンター近くの隅の方のテーブル席に座る


「何か聞きたいことはある?」


「ん?」


祓魔師(きみたち)は妖と話しをしないだろ」


クロノの皮肉を睨みで返すあをい


「気になってる事なら……あるよ…

少し言いにくそうに言うあをい


「なに?」


「何故あなた達は人間を食べるの?」


一瞬にして空気が変わった。


暫しの間

昼時の喫茶店、和気藹藹(わきあいあい)とした雰囲気の中、2人の座るテーブル席にだけ重たい沈黙が鎮座する。


人間がまだ隆盛を誇っていた時代に人類の過ちによって産まれたのが魔族、魔族が世界に蔓延し数多くの生き物が犠牲になって産まれたのが妖。

妖とは1つの種族の事では無い。

様々な事象や現象の総称

言わば怪異の実体化。

始祖の妖は死んだ人や獣、器物や想いそのものが魔に魅入られ妖と化した。


クロノが重たい沈黙を破り口を開く

「妖は想いの力に呼応して力を得る。君たちは力のことを霊力と呼ぶだろ。俺たちは妖力、魔族、君たちの言うところの悪魔は魔力と呼ぶ、だがその本質は同じ

ただ種族で呼び名が違うだけで、根本的には全て同じものだ。」


コトッ

目の前に水の入ったグラスが置かれる。

水を持ってきたマスターがあをいを見つめ、口を開く

「妖は想いの残滓の結晶。故に想いに依存する。

それゆえ強い想いに固執する。

妖はな魔族と違い実態を持っておるが、本質的には魔族に近いんじゃ。せやから強い想いに自らの妖力が呼応して力となるのじゃよ」

注文を聞きに来たマスターが話に割って入ってきた。


注文を聞き終え立ち去るマスターを見つつ言葉を続けるクロノ

「古き時代、妖が産まれたばかりの頃は、自我も朧気で己が何故産まれたのかも分からず、ただ力を求め暴れるだけの化け物だった。そのため力を得るために同種喰いと言われる妖同士の共食いも横行していた。時代が進むに連れ妖も知識ある者や想いに記憶を引き継いで産まれる者が現れ、いつしか同種喰いは過去の忌まわしき記憶、禁忌とされ行われなくなった。」


「随分古い話ね」


「あぁ、そうだね日本が壊滅して、ヴァチカンが九州地方に首都を移してヴァチカン和国が建国する以前の話だからね」




「君も知ってると思うけど妖の長達、今の妖政府【九禍桾(くまがつくぬぎ)】の全身となる九人の妖達が人間の統一政府 Virtual vaticancathedral 通称【ヴァヴァチ】と 和平条約を結ぶ前まで妖と人間の熾烈な覇権争いは続いていた。人間は種族を護るため妖を殺し、妖は力を得るため人を喰らう。」


「人間の中にも強力な力を持った者もおるからな」

言ってマスターがあをいの前にデミグラスソースのかかったオムライスを置く


「当店自慢のオムライスじゃ!ゆっくり食べなさい」


ふわふわのオムレツに包まれたガーリックバターライス、その上にゴロゴロと肉厚に切られた牛肉とお野菜達を長時間コトコト煮込んで作られたデミグラスソースがかけられていた。


パクッ


「うまっ!」


ニカッと笑うマスター


「人間の中にはな修行により力を強くした者がおる。

今じゃ少なくなった修験者や陰陽師。それに祓魔師などじゃよ」

あをいの美味しそうに食べる顔に満足そうな顔で語る。


あをいはマスターを見つめて

「あなたも私を食べたい?」

いたずらっぽく、それでいて何処か悲しげに聞く


豪快に笑うマスターは、あをいの頭に毛むくじゃらで厳つい手を起いてポンポンッと軽く弾ませ

「過ぎた力は身を滅ぼす。

それにワシにはもう力など要らぬよ」

そう言って笑いながら去っていくマスター


「和平条約が結ばれる前だから、今から500年も昔の話だけどね」

去っていくマスターを眺めながらクロノが語りだす


「500年…あなた達にとってはつい最近でしょ?」

何気ない、あをいの問いにクロノが思わず笑い出す


「何がおかしいの?」

ムッとしながらあをいは素直に疑問を示す


「あははは、

ごめん、ごめん、

君はほんとに妖の事をしらないんだね」


「えっ?」


「種族にもよるけど妖の寿命は人間の2、3倍くらいだよ。ちなみに俺は40を少し超えたあたりだ」


「そ、そうなの…」


「500年以上生きるとか

伝説の存在だよ」

笑い続けるクロノに顔を赤らめるあをい


クロノが急に真剣な顔で言う

「周りを見てご覧」


昼を少し回った時間

喫茶店は人間と妖で賑わっていた


「妖もなかには文明を嫌い、未だに森とかで暮らす奴らもいるけど、今はほとんど人間に習い街を作り文明を築いている。

遥祝(とおの)の地には河童達が暮らす国もあるんだよ」


「知ってるわ。聞いたことがある、久仙坊の国でしょ」


「そう、綺麗な水の都だ、一度行ってみるといい。

もう力を求める時代は終わったんだよ」

そう言って遠くを見るクロノ


「じゃぁ…」


「あぁ、人間を喰らう理由は他にある。人間から力を得るときに快楽を得ると言われているんだ。これは同種の妖では起きなかった事だと言われている。君たちの言うところの麻薬のようなものだね。快楽の味を知って依存する妖は多い、だから裏ルートで高く売れる。」


「結局はお金…」

あをいの軽蔑の視線を真っ向から受けて、答える。


「そうだよ、

人間(きみたち)(おれたち)を襲う理由と同じだよ」


「…そう……」

あをいが力無く答える


コトッ

「1輪の青い薔薇じゃよ」

マスターが一言告げてアイスコーヒーとデザートのチーズケーキをあをいの前に置く。


「えっ?」


意味がわからず困惑するあをいを気にせず言葉を続けるマスター

「1輪の青い薔薇が全て解決してくれる。

そうじゃろ?」


「うるさい」

クロノが顔を背け悪態をつくわ


「わしもそうじゃ!」

無駄にでかい声で言って、豪快に笑って去っていくマスター


「ねぇ?」


「知らん」

あをいの問いかけを最後まで聞かず、そっぽを向て答えるクロノ


疑問を晴らせず問い続けるあをいを無視してデザートのチーズケーキを堪能するクロノ

その光景をマスターは、にこやかに眺めていた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




夜も深まり始めた頃

朱雀地区一番街の中央の一等地にある

妖だけの歓楽街 通称 【濡れ烏】

朱雀地区で唯一人間の立ち入りが制限されている場所で、多くの妖達が快楽を求め今日もごった返している。

濡れ烏で一際目を引く豪奢な建造物 会員制高級クラブ〖イフリート〗の最奥で5人の妖が目の前に立つ妖に頭を垂れている。


「まだ!見つからねぇのか!!!」

怒号を撒き散らすのは巨大な火炎を纏った片輪の車に大男の上半身が乗った姿をした妖


「す、すいませんボス!でもですね、もう死んでるじゃないですかね、へへっ」

杖を持ち、目がギョロっとした等身の低い妖が甲高い声を上げる。


「なら死体はどこだ!死体もねぇのはおかしいだろ!」

ボスの怒号が、更に強まる。


「ボッス!!朱雀地区以外に逃げちまったとかでは、ねぇですか?」

真っ赤な顔をした、身体に比べて、やたらめったらにでかい角の生えた頭を持つ妖が声を上げる


「おい!いい加減なことを言うなよ!

朱雀地区から他の地区へ抜けるルートは裏道含めて全てチェックしているんだ!

別の地区に行った可能性は微塵もないわ!!!」

体長4、5メートルはあるクソでかい妖が天井ギリギリのところで窮屈そうに岩を擦り潰したような声を上げる


ボスは更に声を荒らげ

「三番街に逃げ込んだことはわかっているんだ!

アラカシ!三番街はお前の担当だったな!」


眠たそうに他の妖幹部達の話を聞いていた妖が細い糸目をマフィアのボス飫慈に向けて

「一生懸命探しているんですけどね~

なかなか手がかり掴めないんですよね~」

淡いライトブラウンの毛並みにボルゾイに似た顔の細い獣のような妖は飄々と答えた


「三番街を虱潰しに探せ!」


「ボス!三番街は妖解(あやかし)放戦線かいほうせんせん朱華纏衣(ハネズマトイ)の残党が多く潜んでるとこです

いくら俺たちとはいえ好きなようには出来ませんよ」

目がギョロっとした妖幹部の言葉に顔を曇らせ

「アラカシお前妖解放戦線 朱華纏衣だったんだろ」

叫ぶボス


「嫌だなそれが残党達にバレだら僕はフルボッコですよ」ハハハと笑いながら言うアラカシ


アラカシの言葉に苦虫を噛み潰したよう顔で

「いいか!早く見つけ出せ!これ以上玄武の珱牙ファミリーとの仲を拗らせる訳には行かねぇぞ!!」

叫ぶボス


「ボシュ!!今日人肉渡しゃしゃたっしょ!」

やたらめったらに滑舌の悪いシャクレた妖幹部が無駄にでかい声で叫ぶ


「あんなカスの肉で満足される訳ねぇだろがあぁぁ!!!」つられて更にでかい声で叫ぶボス

片輪が纏う炎が勢いを増し高級な絨毯(防炎仕様)がチリチリと焦げ始める


「分かったらオメェら!とっとと探しにいけ!」


「ハイ!ボス!へへっ」

「へい!ボッス!」

「あ~い、ボス」

「ういっ!ボス!!」

「しゃい!ボシュ!!」

5人の妖幹部がそれぞれ独特に答える

それを聞き

荒い息を整えながら頭を抱えるマフィアのボス飫慈


零華町の夜の色は更に深みを増していく。



読んでいただき、ありがとうございます。

評価とかコメントとか頂くとモチベ爆上がりで小躍りしますよ◝꒰´꒳`∗꒱◟◝꒰´꒳`꒱◟◝꒰∗´꒳`꒱◟

( ˙-˙ )

あっ、オリジナルも今執筆中です。

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