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ランフォ衝撃小劇場

ランフォ衝撃小劇場VOL.2 こちらローソマート阪急三国駅前交番店!

作者: 蘭芳琳楠
掲載日:2023/03/13

ランフォが描く衝撃の短編ストーリー第二弾!


「いらっしゃいませ、こんばんはー」

 お決まりのセリフが響く光景は全国統一のものだ。

 しかし、ここ大阪府下では声の主には特徴があった。

「あ、あの!」

 自動ドアが開いて駆け込んできたのは、血相を変えた常連客の若い女性だった。

「ど、どうかしたんすか!」

 奥のレジを担当していたアルバイトのタカハシくんが慌てて対応する。

「え、駅からヘンなヒトにあとをつけられてて……」

 しかし女性の求めに応えたのは、入り口手前のレジを担当していた大柄の店員の方だった。

 携帯を許可されている特殊警棒を構えると、落ち着いた足取りで自動ドアの前まで進んだ。 

「特徴は?」

 後を追って店を出た若い女性に尋ねると、彼女は水銀灯の照らし出す駅前広場を見渡した。

「あ、あそこ! あのヒトよ!」

 彼女の指差す先に、たしかに挙動不審の太った男がいた。

 躊躇せず大柄の店員が歩を進める。

「あ、アブないわ」

 逃げ込んできた女性が言った。

「だいじょうぶ。私は職務に忠実です」

 ややかみ合わない返答を残して、大柄な店員がまっすぐに男のもとへ向かった。

「もしもし」

 大柄な店員が声をかけると、手にした特殊警棒を認めて一目散に逃げ出した。

 しかし脚力の差は歴然で、バス停前で男の腕を掴んだ。

「職務質問です!」

 大男の店員に観念して太った男が泣きながら叫んだ。

「ち、違うんです! た、ただ、どこに住んでるのか調べたかっただけなんです!」


 自動運転のパトカーが男を拾い上げていった。

 後の取り調べは本署の事情聴取ロボットに任せればいい。

「大事にいたらなくてよかったっすね」

 アルバイトのタカハシくんが言ったけれど、被害者で常連客でもあるレモンさんの感謝は大柄な店員に向けられていた。

「ありがとう、ノブナガさん! 頼りになるわ」

「礼にはおよびません。私は職務に忠実なだけです」


 財政難で破綻状態の大阪府は、一昨年、警察本部と消防本部をいったん解散し、全面的に外部移管する条例を可決した。

 警察機能の一部はベンチャーロボットメーカー『エクステック』とセキュリティ会社、それにコンビニエンスストアの大手事業者であるローソマートの合弁事業体が落札したせいで、府下千店に及ぶコンビニ店にロボット店員が警察権を移管された形で常駐するようになり、交番廃止により懸念された治安状況の悪化は免れた。

 おまけに疲れ知らずのロボット店員を安価なメンテナンス費用のみで配置できたことでコンビニ店にも大きなメリットが生まれた。

 コンビニ店には早くから行政文書の発行代行などのサービスがあり、また気軽に道を聞くなどの機能はもともと備えていたら、交番にとってかわるサービスステーションとしては、市民生活への溶け込みは早かった。

 そしてなにより、エクステック社製警官ロボットSR-P4000系の頑強そうな見た目と、決して揺らぐことのないAI由来の強い正義感はあらゆる犯罪の抑止につながった。

 コンビニ強盗は言うに及ばず、ひったくりから銀行強盗、婦女暴行や薬物の密売に至るまで、防犯カメラのネットワークに常時アクセスしながら、大阪府庁地下三階のホストコンピューターと連携して犯罪者の動向に目を光らせ、強化複合装甲を持ち、催涙弾とスタンガンを体内に標準装備しているロボットが絶えずコンビニ店にいるのだから、犯罪に手を染めようという輩も減るわけだ。

 おかげで失業者と低所得者がこの国でいちばん多いにも関わらず、大阪の犯罪発生率は全国一低くなった。


騒ぎが収まりかけたころ、夜勤の店長が顔を見せた。

「ノブナガくん、大活躍だな」

 ノブナガという名は店で付けた。オーナーが外観リストの中から、ちょび髭とあご髭をセレクトしたせいで、戦国時代の武将とイメージが重なった。

「いえ。職務を忠実に実行しただけですから」

「ほんと、ありがとうございます」

 若くてきれいな常連客のレモンさんがペコリとお辞儀する。

 うらめしそうにタカハシくんはその様子を店のレジから見ていた。


「今日はなんか物騒っすね」

 アルバイトのタカハシくんが言った。

「こんなに人が集まるなんてな」

 店長も営業の継続を本部に確認したほうがいいかもしれないと思うほどにヒトが集まってきていた。

 失業者のデモ行進だが、ここのところ大阪では大規模な抗議活動から、面白半分の輩も加えた騒擾の群れと化して、ついには暴動へと発展するケースが目についていた。

 ノブナガ、つまりロボット警官兼店員のほかに警備会社から派遣されてきた警備員ロボットが店の外でそれとなく配置されている。これはローソマート大阪本部の配慮だそうだ。

 なにかをきっかけに一気に暴動に発展するかもしれない。見えない緊張の糸が張り詰めていた。

「労働者の権利を復活させろー!」

「ロボットに奪われた職場を取り戻せー!」

「そもそもメシを喰わせろ-!!」

 今日のデモテーマは貴重な労働力となる一方で、労働者から居場所を奪ったロボットたちへの抗議のようだ。

「あんなことしてるヒマあったら、職を探せばいいですよね」

 のんきにタカハシくんが言うが、失業経験のある店長は笑えなかった。

 入口の自動ドアが開くメロディーが流れて、反射的にタカハシくんと店長が声をそろえた。

「いらっしゃいませ、こんばんはー」

 入口にミニスカート姿もまぶしいレモンさんが立っていた。

「あ、タバコ122番のやつ、ひとつください」

 レモンさんは本名だそうだ。

 ここのレジで光熱費なども払い込むから、店員たちもそれとなく知っている。

「騒がしいですね」

 レモンさんが口を開くと同時に、店の外で怒声が響いた。

「やだ、こわい」

 つぎの瞬間、拡声器を使ったロボット機動隊の牽制が始まった。

「デモは終了しました! 速やかに解散してください!」

 デモ隊の後尾についていた民営大阪府警直属の機動隊ロボットの機動装甲車だった。

「この場所に集合している方は今すぐこの場所を離れてください。許可されているデモ行進は終了しました。ただちに解散してください!」

 ロボットの無機質な呼びかけに、失業者たちが罵声を浴びせた。

「ざけんな!」

「誰が行くもんか!」

「お前ら、ロボットたちがどっか行け!」

 緊張状態が何かのきっかけで堰を切ったように暴走をする様を目の当たりにすることになった。

「石持ってこい!」

 だれかが叫んだ。

 ロボット機動隊はどこからかのコマンドなのか、それとも自己判断なのか、決められた対応法を忠実に実行して、放水車から高圧放水をはじめた。

 12月の寒空に水をかけられるのはたまらない。

 失業者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑ったが、放水が収まるタイミングを見計らって再び集合しだす。

 そして、ところどころから放水車に向かって投石がはじまる。

「こ、こりゃ、まずい。駅前広場でこんなことされたら堪ったもんじゃない」

 店長はシャッターを下す決断をした。

 しかし、そこでレモンさんを含めた数人の客が店内に取り残されていることに気付く。

「あ、みなさん。安全のため、いったんシャッターを下ろします。危険ですから、いま外へ出ないほうがいいので、このまま店内に残ってください」

 店長の判断は的確だった。すぐに石が降ってきて、自動で下ろしたシャッターを叩いた。

「ノブナガくん! お客様をバックヤードへ」

「承知いたしました」

 ノブナガは躊躇なく取り残された客を奥へと案内した。

「あ、こちらローソマート阪急三国駅前交番店です。はい。駅前で暴動が発生して、店でお客さまを保護しております」

 店長の機転はなかなかのもので、冷静な110番通報にも隙がない。

 怒号とシャッターを叩く投石の音はその後も続いた。


「しっかしトンだ営業妨害っすね」

 腕組みしながらタカハシくんが言う。今月のノルマ達成への支障がでないか心配な店長は脂汗を流しはじめた。

「ま、まあ、仕方ないよ。これが今のこの国の姿なんだし」

 店長があきらめに似た呟きをしたそのとき、ひときわ大きな音がした。シャッターに何か大きなモノがぶつかる音だ。

 シャッターは防犯用だが、騒擾行動に対する耐性があるわけではない。

「ヤだ。怖い」

 バックヤードのレモンさんが恐怖の声をあげた。

 次の瞬間、入口あたりのシャッターが大きく揺れた。それは次から次へと体当たりをしてくる人間の衝撃だった。

「ま、まずい、ヤツら、略奪する気だ。シャッターが壊れるぞ」

 店長は再び110番通報しようと受話器を手に取った。

「ひゃああ」

 タカハシくんはバックヤードの奥に隠れてしまい、店の中の客どころではない。

 そんな中、ノブナガだけが冷静にその様子を見つめていた。

「服務規程14条の23項を適用します。緊急回避措置および正当防衛条項が適合します」

 だれに言ったかノブナガは特殊警棒を構えて、入口に向かった。

「の、ノブナガ!」

 店長が叫んだ。彼はノブナガがロボットであろうとなかろうと、立派な仲間だと認識していた。

「やめろ!」

 店長の叫びもむなしく、入口付近のシャッターがゆがんだ。すぐにバールでこじ開けられ、暴徒と化した失業者がなだれ込んだ。

「不法侵入とみなします!」

 ノブナガはそう警告すると、店内に乱入しようとする失業者たちに鉄槌を振り下ろした。

 悲鳴と怒号が交錯する中、バッタバッタとなぎ倒すノブナガは、店内にいた人々から見れば頼もしくもあり、また畏怖の対象ともなった。

「の、ノブナガ……」

 店長は絶句し、レモンさんはその場に崩れ落ちた。

 入口で気絶した失業者の山ができると、さすがにあきらめたのか、乱入者が途絶えた。

「警告します。店内への立ち入りを制限しています。これ以上、むやみに立ち入ろうとする方は……」

 ノブナガの声がそこで途絶える。

「え?」

 店長が手にしたままの受話器を取り落とした。

「へへ」

 若い男がノブナガの懐にいた。

「対ロボ用スタンガン! コイツの超絶電圧にゃあ、警官ロボもかなわんで」

 機能停止したノブナガがその場でフリーズしたのを見据えて、ぞろぞろと失業者たちが店内に入り込んできた。

「こんなロボットがいるから、オレらは貧しいまんまやねん!」

 スタンガンの男が叫んだ。

「そうや! そうや!」

 手に手に金属バットやデッキブラシの柄を持ったヤツらが、ノブナガに対峙した。

「よ、よせ!」

 店長が叫んだ。しかしそれがまるで始まりの号令であったかのように、暴力が一斉にノブナガに襲いかかった。

 鬱憤を晴らさんと振り下ろされる武器と化した日用品。それらがノブナガの強化複合装甲を激しくたたいたが、コンビニ店員標準の黄緑色のユニフォームはボロボロになっても、ノブナガそのものにはダメージを与えることができなかった。

 しかし完全に機能停止したノブナガはバランスを失い、その場に突っ伏した。

 足蹴にする者、金属バットを振り下ろす者。

 いいようにされるノブナガに、店長はじめ店内の人々はただたた様子を見守るしかない。

「け、警察はまだか」

 店長がつぶやいた。

 その時だった。

「ちょっとぉ! いい加減にしなさいよぉ!」

 脱いだハイヒールを手に、暴徒たちに突撃していったのはレモンさんだった。

「あんたち! 暴力に訴えたって、なんにも変わりゃしないわよ!」

 見たこともない剣幕で、暴徒たちに立ち向かうレモンさんに、店長も呆気にとられてしまった。

 本来なら彼女の安全を図るべきだが、凄まじい勢いに気圧されてその様子を見守るしかない。

「なんだ、このオンナ」

 暴徒たちが一瞬手を止めた。

「この! この!」

 ハイヒールで殴り掛かるレモンさんに、ノブナガを足蹴にしていた連中が怯んだ。

 しかしすぐにレモンさんが脅威ではないことを知ると、彼らはほくそ笑んだ。

「へへへ。おねえさん、状況がわかってんのかね」

 すぐに暴徒たちの興味がノブナガからレモンさんへ移った。

「て、店長」

 いつの間にかタカハシくんがバックヤードから防災用ずきんとトイレ掃除に使うラバーカップや金属製のチリトリを持ち出していた。

「うむ」

 二人は意を決して防災ずきんを頭からかぶり、武器に見立てたラバーカップとチリトリをもって暴徒たちに飛び込もうとした。

 その時だった。

「緊急事態特則1条2項。お客様の安全が第一です」

 ノブナガがむくっと起き上がった。

 すぐにスタンガンの男がその武器を使ったが、学習機能付きAIのノブナガは手刀でそれを打ち払った。

「ぎゃあ!」

 男の腕があらぬ方向へねじ曲がった。

 金属バットを振り下ろした男には、それを奪い取るとバットを真っ二つにしてみせる。

 恐怖に立ちすくむ連中を特殊警棒で薙ぎ払うと、気絶した者を残して乱入者があらかた立ち去った。

 そこへ110番通報からの連携で駆け付けた機動隊ロボットが彼らを一網打尽にした。

 ここで騒動は沈静化をみた。


「ありがとう、ノブナガさん!」

 レモンさんが思わず抱きついた。

 さすがのノブナガだったが、ユニフォームはもちろんその下の肌色の特殊複合装甲も傷だらけになり、ウレタン製の人工皮膚が破れている個所もあった。

 しかしレモンさんには関係のないことだった。

「ほんとにありがとう」

「わたしは職務に忠実なだけです」


「よかったわね、ノブナガさん、元通りになれて」

 事件から二週間後、メンテナンスを終えたノブナガが店に復帰した。

 待ってましたとばかりにレモンさんが駆け寄った。

 考えて見ればレモンさんのノブナガに対する肩入れの仕方は尋常じゃない。不在期間中も毎日店に現れては、ほかの店員にノブナガの復帰はまだかと尋ねる始末。

 まあ、タバコの一個でも購入してくれるのだから、店にとってはそれはそれでいいことだ。

 しかし今日の喜びようは業務妨害にあたるほど。

 店長がいないのをいいことに、レジでノブナガに密着するレモンさんにほかの店員たちは辟易していた。とくにアルバイトのタカハシくんは心中おだやかではない。

「ところでさぁ」

 しかしノブナガはもちろんイヤな顔ひとつしない。

 まあ、ロボットなのだから当たり前だが。

「クリスマスデートしようよ。お休みってあるんでしょ」

「休みは基本ありません」

「じゃあさ、空き時間でいいよ」

「ご期待には沿えません」

「なによぉ。あなたのピンチ救ったのわたしだよ」

 タイトスカートのスリットを見せつけて、レジの前でレモンさんが体をくねらせた。

 それでもノブナガは表情を変えなかった。

 まあ、ロボットなのだから当たり前だが。

 最近ウワサのロボットを性対象とする人種かもしれない。やっかみ半分のタカハシくんが思う。

「わたしから大事なお話があります」

 ノブナガが言った。

「なに? 大事な話って」

 濡れた唇でレモンさんが言う。

「大町レモンさんですね」

「あら、何をいまさら?」

 ノブナガは新調なった黄緑色のユニファームの胸ポケットから警察章を取り出した。

「売春防止法ならびに風俗営業に関する大阪府条例違反により、あなたを逮捕します」

「え?」

「内偵捜査を続けてきました。12月18日、午後5時15分。逮捕します」

「な、なに言ってんの?」

 レモンさんの顔がこわばった。

「わたしは職務に忠実なのです」


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