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◇夏 『死体見学』


 なにかが欠けている人間がいたときそれは必ずしも欠点となり得るだろうか?

 例えば東条はテストの点数が欠けている。お前進級できるのか? と訊ねると「まあなんとかなるだろ」って楽観した答えが返ってきたが、あの点数でなんとかなるならばそれはテスト前に必死で一夜漬けした人間に対する酷い侮辱だと思う。

 僕の前の席のやつは脳味噌が欠けているらしくて中学が同じなのに未だに僕の顔と名前を覚えていない。

 灰島 冬美には常識が欠けていて、僕には躊躇いと罪悪感が欠けている。

 自分だけ2つ挙げたのはただの依怙贔屓である。

 結局誰もが何かを欠いて生きている。

 だが東条はテストの点数が悪いことで“バカキャラ”という位置を確立しクラスメイトのだいたいと仲がよく、かつ「俺より下がいる!」という安心感をみんなに与えてる。

 前のやつのことは知らないけど、灰島には常識が欠けているからこそ芸術に似たあの光景ができあがった。

 そして躊躇いと罪悪感が欠けているから僕は物語の主人公という立場を得た。

 何が言いたいかと言うと何かを欠いていることは必ずしもデメリットとはなり得ずむしろ何も欠いていない人間などこの世には、まあ僕は60億人程いるらしい人類の全てと出会ったわけではないので断言こそできないが、居ないのである。

 そのことに劣等感を抱くなどもっての他であると僕は自分を擁護したい。

「……ふむ」

 ところで僕はなにゆえに灰島に手を引かれているのだろうか? 左手の延長線上にあるほっそりとした白い手に僕は多少の鼓動の乱れを感じている。

 ……ようなことはあんまりなかったりする。

 止まる→走る→歩く、をランダムに繰り返されて転倒しそうになったりぶつかりかけたりで手の感触に集中する暇がないのだ。

 ゴンッ!

 言ってる側から僕は彼女の後頭部に額をぶつけた。

 灰島が振り返る。微妙に涙目で睨み付けてきた。

 僕も怒りたい。ぶっ殺すぞ、ゴルァ! とか言いたい。でも僕が言うと冗談に聴こえないだろうからぐっと堪えた。

「イったいわね、気をつけなさいよ!」

 ストレートに怒られた。

 感情を表に出す彼女はとても魅力的に見えるのだけどギャップがありすぎてなんだか別人と話している気分でもあった。

「君が急に止まるからだろ」

「ぶつかってきたんだからあんたが悪いに決まってるでしょ!」

 そんな風に言われると女性の扱いにあまり慣れていない僕としては言葉に詰まってしまう。

 美人は卑怯だ。かつ秘境だ。

「ところでどこに向かってるの?」

 口喧嘩には敗色が濃厚だったので話題を逸らしてみる。

「……」

 すると今度は灰島のほうが言葉を詰まらせてキョロキョロと首だけを動かした。

「この辺だった気がするんだけど……」

 自信無さげに声が尻すぼみになる。まさか迷ってるのか……?

「で、どこに連れていこうとしたんだ?」

「シタイオキバ」

 ………………

 いま、僕の聞き違いじゃなかったら、

「死体置場?」

 ……って言ったよな?

「うん」

 平然と灰島は頷いた。

「こないだ見つけたの。あなたが無断で誰か殺してないか探しに行ったときに」


 僕らは商店街の前を左に曲がった。行き交う人々の笑顔に目を奪われそうになったが灰島に手を引かれて断腸の思いで視界から消した。

 住宅街に入り美形な彼女を振り返る人々に優越感を得る。

 ふと横目に見える公園でサッカーをしてる少年達を微笑ましく思いながら見ていると灰島が汚物を見るような目になっていた。

「……子供は嫌いなの」

 ぽつりと溢す。

「ふぅん」

 僕はどこを見るのでもなくただ視線をさまよわせる。

 少しして住宅街を抜けてると川が見えてきた。

「あ、あった。あれよ」

 灰島ははしゃいだ声を出して橋の下を指差す。

「あそこが死体置場?」

 僕は確認するように問う。

「そっ」

 歩きながら目を凝らした。近づくにつれて日の光が届き難い橋の下の影に同化して黒いシートみたいなものが被せてあるのがわかった。

 かなり注視しないとわかり辛い。俄然興味をそそられた。

 僕と彼女は道路から川沿いに降りた。落ちかけた日の光が水面を赤く染めている。湿気のある夏の空気が草の香りを帯びる。

 次第に僕は別の臭いに気がついた。腐臭だ。それに蝿が目立ち出す。普段はこんなところに誰も降りないらしい。

 橋の影に手の届くところまで近づいた。

「開けるわ」

 灰島が一歩前に出てシートに手をかけた。そのへんに群がっていた蝿が一斉に飛び立ち耳障りなブーンという羽音が一気に増加する。

「ごめん、やっぱ無理」

 僕は数歩下がった。

「どうしたの?」

「臭いが……、吐きそう」

 格好つけて淡々と語ってみたけど僕は連続殺人犯である以外は普通の高校生なのだ(それ以上の異常がどこにあるのか)。

 別に腐敗物に耐性があるわけではない。

「ちょ、待っ……」

 僕を無視して灰島はシートを剥がした。

 喉を苦いものが登ってきたけど結局好奇心が勝ったらしくて飲み下すことが出来た。

 シートの下には、某青色ロボットの原型(彼にポケット以外の部分は必要なんだろうか?)や平成にもなって合戦をやかそうとするぶんぶくだかポンポコだか、それから蕎麦のCMで著名な赤い稲荷さま。

 とにかく多種多様な元・生き物が一堂に介していた。その中でも一際目を引くのが三つ首なわんこうのケルベロスさんだろう。一つの胴体に三つの首が無理矢理差し込まれている。

 よく見ると他の動物にもそういった遊戯の形跡が見て取れた。

「……」

 それはそれとして数歩離れている僕と違って灰島が蝿の嵐の中にいるけど気にも止めていない。やっぱり死体愛好家同士だと気が合うんだろうか?

 一瞬グロいなぁと思ったけど妖艶なまでの表情で“死”を眺める彼女は水面から反射する薄い紅色の光と黒い嵐に包まれていてこれはこれで綺麗だった。

「君って、」

 口の中に蝿が入りそうになって慌てて口を閉じた。うっかり噛み潰したら死にたくなりそうだ。口を開きかけた彼女も同様のことを思ったのかシートを手放して黒い嵐から脱出した。

 並んで道路のほうへと戻って元来た道を歩き出す。新鮮な空気がやたらと肺に心地よかった。

「君ってさぁ、死体ならなんでもいいんだね」

「そうね、流石にあれは触れなかったけど」

 僕が言いたいのはそんなことではなかった。

 死体置場というからには人間の死体を期待していたのだ。他人の作った人間の死体を一度でいいから見てみたかった。

「……期待外れだったかしら?」

「まあ少し」

「あれが期待外れだなんて理解できないわ。失礼よ」

 彼女は唇を尖らせて憤慨した。

「価値観の相違だねぇ」

 僕は小さく欠伸する。

「ところであれは誰が作ってるんだろ?」

「さぁ」

 僕と彼女はまだ遠目に見える橋に視線を向けた。

 ゆっくりと影の中でなにかが動いた気がした。

 もう日は落ちかけていてわずかに影を照らしていた赤い光は時間と共に欠けている。



 灰島とはそのあたりで別れて家に帰る途中、

「あ、あの!」

 僕は知らない女の子に声を掛けられた。一世一代の告白を透かされた経験のある僕はちょっと逃げたくなるのを堪えて笑みを作った。

「僕?」

 まあ多分道を聞きたいとかそんなんだろうけどね。

「ちょっとお茶しません?」

 ……あれ?

 特に断る理由もなく僕と見知らぬ女の子は大通りから少しだけ外れたところにある喫茶店に入った。時間のせいか客は僕らしかいなかった。

「ついでに何か摘まんじゃおうかな」

 もう陽も暮れた時間帯だと言うのに店員さんを呼び止めた女の子は「ナポリタンとオムライスとグラタンと(以下略)」

 ……これ「じゃあ割り勘でお願いしますね」ってオチかな? 僕は彼女の注文が途切れたのを見計らって遠慮がちにカプチーノを一杯頼んだ。

「お客様、当店は8時までとなっておりますが」

 時計を見るとすでに7時半を回っていた。

「大丈夫です」

 女の子がさらりと言うと店員さんは苦笑いしながら「かしこまりました」と言って僕のカプチーノを持ってきてすぐに奥に引っ込んだ。

「あの、あたしのこと覚えてません?」

 不意に問われてポカンとなった。

「会ったことあるっけ?」

 覚えがなかった。一度会ったら忘れそうにない感じなんだけど……

 かわいいのである。茶色味がかった髪と明るい感じの顔立ちや瞳。

 かわいいのである(力説)。

「まああのときは暗かったですから」

 訳もなく彼女は笑みになって僕もつられて笑った。

「あなたに殺されかけたんですけどね」

 そして笑みのまま凍りついた。

「あ、来ましたね」

 トップバッターはナポリタンだった。2分と持たなかった。

 というか僕がカプチーノを半分減らすあいだに食材は全て彼女の胃袋の中に収まった。

「ちょっと物足りないですね」

 水で口内をすすぐ女の子に僕はフードファイトというドラマを思い出した。目の前の女の子に同種の爽快感を感じているらしい。

「えーっとどこまで話しましたっけ?」

 ところで頬についたオムライスのケチャップで彼女のことを思い出した僕ってどうなんだろうか?

「もしかして“四人目”のときの?」

「はい!」

「口の方、治ったんだね。よかった」

 僕は何気なく自分のバッグを見た。新しいナイフも手袋も二重底の下で咄嗟に抜けことはできない。

「それでなんの用? 僕を殺しにきた……、とか」

 女の子が警察に届け出ない目的を考えると僕としては“自分の手で殺したい”に行き着いてしまう。

 そして彼女になら殺されても仕方ないと覚悟が出来ている自分が心のどこかにいる。

 女の子はただ笑った。その笑みが肯定か否定のどちらから来たものか、僕には判断がつかなかった。

「あのですね、ちょっと一言だけ言いたいことがあるんですよ」

「……」

「ありがとうございました」

 女の子は僕に向けて頭を下げた。つむじが視認できる。座したままでこそあったが最近の若者らしかぬ深々としたお辞儀だった。

「……君は何か勘違いしてるみたいだけど」

 取り繕うように言葉を探す。いまさら店員さんが店の奥にいることを確認する。

「僕は別に君を助けたかった訳でも助けようとした訳でもない」

「だけど私は結果として助かったしあなたに助けられてここにいます」

 顔を上げて僕を見た。無垢な瞳だった。あのとき僕が四人目を殺さなければ喪われていたかもしれない光があった。

 僕はそれに少しみとれた。

「なんだかなぁ……」

「変、ですかね?」

「っていうか君、僕のことわかってる?」

 いまをときめく連続殺人犯だぞ。そんな目的で声を掛けるなんて正気の沙汰じゃない。

「わかってるつもりです」

 ……だよな。“四人目のときの”って言葉に反応できたってことは。

 僕はカプチーノの残りに口をつけた。濃密な甘さが口に広がる。味を楽しむ程度の余裕が生まれていた。

「とにかく、あからさまに危ないとわかってる人間に声を掛けないこと。そのうち洒落にならないことになるよ」

 我ながら何を言ってるんだろう。

 財布から小銭を取り出して机の上に転がした。断じてカプチーノ代しか払わないぞ! 僕は。

 決意して席を立つ。

「あ、あの」

 なぜか慌てたように彼女も続いて立ち上がった。が、テーブルに膝をぶつけて悶絶。

 片足で跳び跳ねて支え代わりに僕の手を掴んだ。上目遣いの彼女と目が合う。

 くそぉ、いちいちかわいいな……

「えっと、そだ。メアド! メアド交換しませんか?!」

「別にいいけど」

 なんで?って続けようか迷ったけどどうでもいいかと思い直した。

 同じ会社の機種だったので電子レンジにも使われている不可視光線(その名を赤外線という)でピッと簡単に済んだ。

 灰島の機種も同じ機能はついてるはずなんだけどなぁ。

「……」

 女の子は眉を寄せて電話の画面をじーっと見ていた。

「どうかした?」

「いえ、男の人でこの名前ってちょっと変わってるなぁと」

 言われて僕も彼女の名前を確認した。木谷 千夏、というらしかった。

「偽名……?」

 千夏は首を傾げる。んなわけないだろ。

「あんまり好きじゃないんだよね。某漫画のキャラクターを思い出してしまう」

 あははっ、と千夏は明るく笑った。

「ちゃんづけで呼んでもいいですか?」

「死ぬほど嫌だ」

 苦笑い。一度呼ばれた。

 ぶち殺してやろうかと思ったけど一度命を諦めた人間を殺すなんて僕の主義に反するので辞めた。

「じゃこれで」

「はい、そのうち連絡しますからちゃんと返事くださいね」

 愛想笑いだけは作っておいた。


 1日は何もなかった。

 2日して視線を感じた。

何かと思ったら東条が例のお姉さんと別れたらしかった。ざまぁww

 3日して振り返ってふとみたら物陰にいた誰かがスッ……と脇道に消えた。

 そして、4日目。


 灰島 冬美が居なくなった。




 それから更に2日経って終業式があり、僕は佐内 春江に言われて灰島の家までプリントを届けにきた。

 ほんとは先生の仕事らしいのだが「電話に出たオヤジの声がエロそうだった」とか難癖つけて僕に押し付けてきたのだ。

 先生の語るところによると灰島は2日前に学校を出て以来、家に帰っていないらしい。だが父親らしい男の反応は淡白であと2、3日して帰って来ないようならば先生から警察に連絡する、と言っていた。

 多分先生が自分でいかなかったのは灰島の父親を目の前にして殴らずに済ませる自信がないからだろう。佐内先生はそういう人だ。

 さて、閑話休題。

 灰島の家は古いアパートだった。ところどころ塗装が禿げていて全体的に色褪せた印象がある。

 僕はキョロキョロとあたりを見渡して周りに誰も居ないことを確認すると部屋番号を確認しついでに郵便受けを漁ってみた。中には何もなかった。

 僕は二重底を抉じ開けて手袋をはめた。ナイフを取りだしズボンのポケットにしまい直す。念のためだ。

 ブレザーを羽織ってポケットから飛び出た柄を隠した。

 灰島の名前を見つけてインターフォンを押す。しばらく待ってみたが反応はなかった。もう一回押してみたが結果は同じだった。

 ふむ、留守だろうか?

 ドアに耳を押し当ててみる。どことなく機械的な笑い声が聴こえた。多分テレビの音だろう。

 インターフォンを連打する。単調なのでリズムをつけてみた。

 ほんわかぱっぱほんわかぱっぱどらえもんー、っと。

 がちゃり、ドアノブが回ってしかめっ面をした冴えない感じの男性がドアを開けてくれた。

「なんだ……?」

「こんにちは、冬美さんのクラスメイトです」

 僕は身分を証しながら名前を明かさずに軽く会釈する。

「冬美さんが休んでた分のプリントを届けにきたんですが」

 とりあえずの用件を告げると男は舌打ちを隠さずに「ポストの中にでも入れといてくれ」と言った。

「出来れば直接渡したいんですけど」

 食い下がる振りをする。

「留守だよ」

 既知だ。

「ここ2、3日ですか?」

「あぁ」

 めんどくさそうに頷く。ってか平日の昼間から仕事はどうしたんだろ? たまたま休みなのかな?

「所在は?」

「知るか」

「以前にもこういうことは?」

「ねーよ、なんなんだよお前」

 ようやく不信感を顕にする男。でも少し遅い。

「実力行使探偵と言います」

「は?」

 佐内先生、人選ミスです。僕は実はあなたより過激なんです。

 ナイフを抜いた。

「お宅を拝見させていただいてもよろしいですか?」

「な……、な」

 喉をひくつかせながら数歩後退ったのを勝手に肯定と捉えてドアの内側に入る。

「あなたの言うことが事実なら娘さんが前例もなく失踪したのに全く心配そうに見えないし警察に連絡してもいないようなので、もしかしたら監禁されてるんじゃないかなぁと」

 男は視線をナイフに釘付けにしたまま壁に背を引っ付けてへたれこんだ。

「外には出ないでくださいね」

 後ろ手にドアを閉めて鍵をかけた。靴を脱いで部屋にあがる。男から一定以上の距離を保ったままザッと視線を走らせる。

 部屋は一室だけ、左手を布団が占拠していてその対面にテレビ。

 布団とテレビを少し避けた対角線に大きくはないテーブル。煎餅が乗っていたので一つ摘まんだ。醤油が効いていて美味い。

 台所は片付いたままでゴミ箱にはコンビニ弁当らしき空箱が2、3捨ててあった。家事は灰島の担当なのだろうか?

 となると残りは、

「……」

 僕は襖を開けた。枕と布団が一組あった。閉じる。

 一度、男の所在を確認する。まだ玄関でへたれこんでいる。賢明だ。

 風呂場、浴槽の蓋を開けてみた。

 トイレ、水が澄んでいた。

「……外れ?」

 なんだかかなり納得いかないんだけど、ここに灰島 冬美の姿はなかった。

 屋根裏なんかなさそうだし、人を隠すスペースはもう残っていない。

「なんだかなぁ……」

 彼女の“傷”が絶対にこの伏線だと読んでいたのに、当てが外れた。

 ここじゃないとすれば考えられるのは……


1.彼女は殺されていて死体をどこかに捨てられている場合。

2.彼女は生きていてここじゃないどこかに監禁されている場合。

3.彼女を殺した(もしくは連れ去った)のが別人である場合。

4.彼女の行方不明が単なる家出である場合。


 この中で僕が一番可能性が高いと思うのは3だ。

 1にしては父親の挙動に切迫感がない。2も同様だ。

 4ではないと個人的には信じたい。これでは物語が成り立たないしナイフまで持ち出した僕が単なる道化である。

 男のほうへ向き直る。男は怯えた様子で壁に背を打ち付けた。なんかおもしろい。

「お邪魔しました。また伺うかも知れませんがそのときはどうかよろしくお願いします」

 玄関を出るときに背中に二度と来るなという視線をひしひしと感じた。

 用事がなくても、もう一回ぐらい行ってやろう。


 ポストにプリントの束を突っ込んで向かった先はあの死体置場だった。

 橋に近づくに連れて服が湿気を帯びるのを感じる。額にじっとりと汗をかいていた。気温のせいだと決めつけた。

「……」

 少し躊躇ってから飛び交う蝿の嵐の中に体を入れた。

 耳元の不快感が鳥肌級に跳ね上がる。僕は口を開けずに息を吐き出し黒いシートに手をかけた。

 捲り上げる。

 そこに灰島の死体があることとないことを、半々ずつ願いながら。


「……あった」


 灰島 冬美の死体はそこにはなかった。ただ動物のシ骸の中に一点だけ、うちの学校指定のリボンが赤色を主張していた。

 それは僕に向けたメッセージみたいに見えた。

 “次はお前だ”という。


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