無垢な神は天使なのか?悪魔なのか?
「はぁ〜、今日もあのハードな仕事が待っているのか」
気を落としてとぼとぼと廊下を歩いている二人組がいた。
リンネはそんな人たちを横目に見ながら自分の仕事場に向かっていた。
彼女は社というたくさんの世界の病を治すための組織に入っている。
やることは様々な事象の確率が異常値にならないように先回りして対策することやその異常な数値になったときに生じる世界の混乱を最小限にするように手を尽くすこと。
これが誰でもできれば先程のような小言をそこらかしこで聞くことはないのだろうが、世界を見ることができる人たちは一握りしかいないので増やすことはかなわない。
そして、この仕事はリンネやその他の人たちも基本的にそうだが好き好んで仕事として選んだわけではない。
政府が世界を見ることができるのかを成人した人たちを対象に検査して合格したものはすべてこの社にまわされる。
(さっきの人たちはこの仕事がハードって言ってたけどそんなにきついかなぁ~)
そんなリンネだが、彼女はほとんどのことを感覚的に行うので仕事はかなりスピーディーに終わり、この仕事を苦だと思ったことは一度もない。むしろ、こんな楽な仕事でいいのかとすら思っている。
親にもどんな事をしているのかと聞かれたら
「なんかぁ~、操作盤をいじっているだけぇ~」
と、ちゃんとした研修があるにも関わらず彼女はほとんど聞いていなかったため、彼女自身もどのように答えたらいいのかわからないでいた。
それでも彼女の持ち前の感覚で何でもこなすという特技により仕事はできている。
本来であれば何も考えずに感覚的に確率を操作するなど危険すぎるがリンネはこれで3年間一度の失敗もなしに仕事をこなしている。
それで上司は何を言っても話を効かずにぼーっと何かを考えながら上の空になっている彼女を見てもう無駄だと感じ指導することを諦めた。
それほどまでに人手が圧倒的に足りてない。
感覚的にさっさと仕事をこなしていっているから他の人が仕事を終らせるスピードの2~3倍の速度で終わらせる。
だから、一年経つ頃には彼女のところに治さないと世界に大きな影響を与えるような病の仕事がちょくちょく送られるようになった。
それが信頼からくるものなのか人手が足らずたまたま回されたものなのか分からないが、そんな大変な作業でも変わらない速度で治すものだから上司も驚きを隠せず起こる頻度は少ないが大きな病がちょくちょくリンネに送られてくるようになった。
そのことに対して、
「ねぇ、そんな簡単に受けていいの?少しは断ったほうがいいんじゃない?他の仕事も結構受けてるでしょリンネ」
「大丈夫だよリオンちゃん。特段問題になってないしぃ~」
幼なじみであるリオンがリンネに心配から来ている提案も聞く耳も持たずそのまま仕事を続ける。
リオンは彼女の真面目にやりすぎる癖が出ていると思ったがリンネができると言っている以上あまり手を出すべきではないと考えた。
「わかったわ。無理だと思ったらちゃんと頼ってね」
「うん、わかったぁ~」
こうして、大きな病を治すことが増えていきそのほとんどが彼女のところに流れるようになった。
ただ、悪いことばかりでもなく大きな病を治す際にはたくさんの要因が絡んでいるので一つのモニターで確認するのは面倒であろうという上の勝手な判断によりリンネ専用の部屋が与えられた。
廊下での会話している内容から昔のことを思い出していたリンネだが目的のその専用の仕事部屋にたどり着いた。
ウィーンという音と共に横扉がスライドして中に入るとそこには、大きさが横幅10mから縦8mほどある中に沢山のモニターが配置されており、そこには今起きている現状の風景やこれからの予想さらにはたくさんの数値が映し出されている。
モニターから10mほど離れた場所に操作盤と椅子があり、リンネはそこに向かって進む。
「さぁ~て、今日もやりますかぁ~」
呑気な声を一人で上げながら、彼女は操作盤で必要な箇所の確率を感覚的に操作していく。
今やっているものはそこまで大したものではなかったのでさっさと終わらせて次に行く。
「これは~?」
たいして困るような状況でもないが、早めにやっておかないと面倒になる気がしたので手をつける。
数分した後彼女はこれでいいだろうと思いモニターを見つめる。
しかし、そこには特に変化は見られず首をかしげる。
「おかしいなぁ~。これでできると思ったんだけど……」
今までになかったことでリンネは多少困ったが、まぁそんなこともあるかと思いまた当てずっぽうに操作盤をいじくる。
さて、一方で今リンネが治している世界ではこんなことになっていた。
空を高く飛んでいるヘリは現在の状況をテレビで放送する。
「大変です!!日本にある100を超える活火山が規模は違えどすべて噴火を始めました。ここ富士山も例外ではなく大規模な噴火を観測しています。富士山を中心とした半径15km以内にお住まいの方は直ちに避難を開始してください。繰り返します……」
この状況は日本に限らずどの国の活火山も噴火を始め世界が終焉を始める。
それに乗じて、
「あぁ!!これは神からの祝福である!!さぁ、皆さん一緒にあちらの世界にいきましょう!!」
死は神からの救世であり、死ぬことによって救われるという頭のおかしな宗教の信徒が二列横隊で長い列を組みながら行進し、どこで手に入れたのかわからない銃を避難している人たちに向けて放っていた。
「そこの銃を持ったお前たち、銃をおけさもないと、うっ……!!」
現場に駆けつけた警察官が盾を構えながらも降伏を命じるがそれに一切応じることなく世界各国で行進は続く。
その場にようやくたどり着いた軍の部隊も駆けつけて鎮圧に勤しむ。
「お前たちみたいな頭のおかしな連中を相手にしている暇などないというのに!!」
一人の軍人は信者たちに悪態をつきながら機関銃を構えて殺さないような部位を狙って打つ。
「さぁ、皆さんも早く私達と一緒に神からの救いの手を取りましょう!!」
信者は打たれても特に何事もなかったかのように進んでいく。死は救いであるという考えから軍人からたとえ打たれても関係ないとばかりに殺していく
「た、助けて……」
「これは神からの救済です!!」
助けを求めた人にも銃をゆっくりと近づけてまるで慈悲とでもいわんばかりに微笑みながら引き金を引く。
大量の死者を道にだしながら進行をしているとき、大きな地震が起こる。
その揺れは誰も立ってはいられないほど強い揺れだった。
「きゃあ~!!」
揺れのせいで地面は大きく割れたり崩れたりしたことによりその場にいた人は全員一直線に落下する。
「おぉ、死、万歳!!」
信者や軍人、市民誰かなど関係なく落ちていき、建物はガラガラと音をたてながら倒壊が始まる。
そうして世界の終わりが進んでいく。
リンネはそのような状況はいざしらずどれだけ操作しようともモニターに一切の変化はない。
「おかしいなぁ~、これでできているはずなんだけどぉ~」
彼女は呑気にまだ感に任せて操作をし続けている。
くるくる椅子の上で回りながら考えていると、部屋の扉が開いて幼なじみのリオンが姿を見せる。
「リンネ、お昼ごはんをた、べに……」
「あ、リオンちゃん!!」
リオンは現状の部屋の状態を見て呆然としていた。
部屋は警報を告げる赤いランプが回転し、そこらかしこから通報のサイレンの音がなっている。
だが、リオンたちがいた部屋では危険を知らせるアラートなどは一切なっていなかった。
「どうしたのぉ?リオンちゃん」
「あ、あんた、一体何したの?」
リオンはどうにか心を落ち着けながら中に入っていく。
部屋の扉は締まり中は完全に赤に染まる。
「え~とねぇ、色々いつも通りにやっていたんだけど、なかなか治ってくれなくてね?どうしよ~ってずっといろいろ操作していたの」
「そうじゃないでしょ、この音聞こえてないの?警報よ?」
「あ、そういえば鳴ってるね?なんでだろぉ~」
リオンはモニターの方に目を向けるが確かにそこには何も変わらない様子で世界が動いているのが見える。
だが、決定的におかしかったのは左の中央に書かれているその数値だった。
「エラー??なにこれ、どうなってるの??」
「うん?どうしたのリオンちゃん」
こうなっている原因をリオンは考える。
だが、原因なんて考える必要もないくらいすぐに思いつく。
どう考えてもリンネがヘマをしたのだ。
「うわ!!リオンちゃんどうしたのぉ」
治している世界の状況を確認するためにリンネから無理やり操作盤を奪い取りモニターの表示を変える。
「なに、これ……」
そこに映し出された映像はリオンが今まで見てきたどの資料にもなかった惨状だった。
地球はすべての生命が消え、その死骸である灰色で覆われ、空はそれが嘘だと言わんばかりの快晴で地上を照らしている。
だが、その外の宇宙では太陽はすべてのエネルギーを使い果たしその存在を消した。その代わりに放たれるガスにより、周りにある惑星はもろとも壊されていく。それも尋常出ないスピードで。
リオンは今見ている状況がなにかの嘘であると信じたかったが、この装置に異常が起こることはありえない。
「あ、あんた、どうするつもりよこれ」
どうにか出た言葉がリンネに対して責任を問うようなものだった。
「まだどうにかなるよぉ~。だから先にご飯食べててぇ~」
と、呑気そうにリオンに言葉を返すだけで、椅子を引いて操作盤に近寄り手を伸ばす。
リオンはリンネが状況をよく見えていないと思いその手を掴む。
「もう無理よ!!この有様が見えてないの!?」
「そんなのやってみないとわからないよぉ~?」
やはりこんなの間違っていたんだとリオンは思う。
人手があまりにも足らないからといってもリンネのように何が原因かも一切考えずにただ当てずっぽうに治すのは危険すぎたと今更なことをリオンは考える。
最初は不安だったが1年経っても問題なかったから少し気を抜いていた自分を恨む。
「もぉ~、リオンちゃん手をどけてよぉ。治せないじゃない」
手を振り払おうとリンネは手を左右に揺らし続けている。
リオンは世界を一つ終わらせた責任のなさに怒りがこみ上げる。
リオンは世界を治すヒントを得るためによく資料室で今まで治されてきた世界のレポートを読んでいた。
そこから、彼女は管理している世界が終わると、それを管理しているであろう世界も終焉に近づいていくと推測していた。
また、リオンは社が世界を管理しているのであれば他にもここを管理している社のような存在はあるだろうと想像していた。
そして、そいつらが手をこまねいた結果が今の惨状だと考える。
だからこんな状況になるくらい放置されていたということはどう考えてもリオンたちの世界も終わりに向かう前兆である気がしてならない。
この一つの可能性というだけだがリオンの思考を染め上げる。
「ねぇ、リオンちゃんてばぁ!!」
リオンはどうすればこの世界は滅ばずに済むのかを考えることに思考のリソースを割いていたのでリンネの声が聞こえていなかった。
リンネは自分を見ているような見ていないようなリオンの目を見ながら作業の邪魔をされるのが限界だったため今度は勢いよくリオンの手を振り払った。
リオンはほうけている状態に近かったのでその勢いで手首が彼女の手から一度離れる。
その隙にリンネは操作盤をいじろうと試みるが、リオンは離れた右手でリンネの肩を勢いよくつかみその勢いのまま肩をリオンの方に引っ張り振り返らせる。
「なんなのリオンちゃん!!」
リンネは面倒な顔を見せるが、リオンはその言葉を無視してリンネの首を両手で思いっきり握りしめ軽い体を持ち上げる。
「うぐっ、リ、リオンちゃん??」
リンネは今の状況が一切の見込めていない様子で締められている喉からかすれた声がリオンに届く。
だが、リオンはそれには一切応じず、鋭い目つきでリンネのことをにらみつける。
幼なじみであり親友が誰かを無意識に殺していることを知ったからにはどんな手を使ってでも止めなければならないとリオンは考える。
そして、これで止める方法は唯一つしかないとも理解している。
それは今ここでリンネの息の根を止めることだけ。それ以外にはもう方法がない。
リンネが治している世界がまだ修正可能であればよかったのだが、人の影も形も動植物すらもいないのであれば、もうこの世界は運営不能だ。
今リンネを殺せばまだどうにかなるかもしれない。これ以上の惨状を生み出すことなく、こちらに影響を与えずに終わることができるかもしれない。
そのかすかな希望のために友人の首を締めていく。
リンネは締められている状態から脱するためにリオンの手をつかもうとするが手首までしか届かなかった。
リオンは首を締める手をどんどん強くしていき、それに伴ってリンネが足をばたつかせる。
リンネのあがきが少しずつ衰えていくのがリオンには伝わる。
もう少しというところで
「なにをしている!!」
上の人間たちが入ってきて、リオンの手をリンネから離させリオンを羽交い締めにする。
さっき入ってきたときに大音量の警報の音で誰かが上司に報告したのだろう。リオンはリンネを殺すことができなかった。
リンネはリオンの手から離されてそのまま床にドサッと落ちる。
「ごほ、ごほ……」
リンネは何度か咳き込んだあと、這いつくばりながら操作盤へと向かう。
「離して!!ここであいつを殺さないと世界が終わるわよ!!」
「何を言っているんだ?」
上司は理解ができない様子でリオンが離れようとするのを力で抑える。
「画面を見なさいよ!!」
上司に敬語を使うのすら忘れて怒鳴る。
「こいつがミスなんて一度もしたことないじゃないか。どうせ何かの間違いだろう?たまにあるじゃないか」
画面には世界のすべての色が灰色とかしている様子を見せているにも関わらず上司は全く疑いもしない。
このモニターこそが唯一正しいものだというのにリンネを信じられることにリオンは理解できなかった。
「くっそ、離せっ!!」
「暴れるな!」
上司を引きずってでもリンネの方に向かうために足を前に進める。
だが、そこでリオンの足は止まってしまった。
リンネの今の顔を見てしまったからだ。
彼女はただ笑みを浮かべながら楽しそうに操作盤をいじり続けている。
それでなにかが変わるわけもないのに。モニターの確率はエラーを書き続け、世界はもう終了した様子を映し続けている。
「あぁ、見捨てられたのか」
リオンはそう理解した。
画面に映る自分とリンネの姿を見ながらリオンはため息をつく。
「リンネ、そんなに世界が醜いの?」
後ろの扉が開く音がした。
「あれは私じゃないよぉ〜」
リンネがうしろでぷりぷりと文句を言っている
「わかっているわ」
リオンは後ろを向くことなく一つの、いやいくつかの世界が終わっていくのを眺める
「またたくさん食べられちゃったねぇ〜」
「えぇ。これを止めるために各世界に社はあるのよ」
「だねぇ〜」
リンネはリオンを後ろから抱きしめる。
それにリオンは回された手を軽く握りしめる。
「次は私達の番ね」
終わる世界が見えたということはその次に終わるのは見ているこちら側だ。
「今度は止めて見せるわ、リンネ。いいえ、原初と終焉の象徴ウロボロス!!」
腕を取り払って後ろにいるリンネに向けていつも身につけていた銃を突きつける。
リンネは笑っていた。
「どこかの私が必ずあんたを助けてみせる!!」
銃声が鳴り響いてその世界もまた幕を閉じた。
読んでいただきありがとうございました
新年が始まり2022年が終わりました。そうゆう終わりと始まりにはぴったりな物語になったのではないかと個人的に思っています。読まれた方もそう思っていただけたなら何よりです
ということで、新年あけましておめでとうございます
今年も呑気にやっていこうと思っていますのでどうぞよろしくお願いします
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あと、これの続きが気になると思った方はコメントしていただけると続きを考えようかという気になるのでお願いします
ではでは




