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妹がストーカーに付きまとわれていると相談しに来た結果

作者: 下端野洲広

息抜きで書いてみました。

「よ~し、ゲームでもやろうかな!」


 宿題を終えた僕こと更科透哉(さらしなとうや)がすっきりとした気分でゲームをしようとした時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

 両親は毎日仕事で夜遅くまで帰ってこないので、この時間にドアをノックするのは一人しか居ない。


「は~い、どうぞ~」


 するとドアを開けて入って来たのは予想通り妹の雪花(せっか)である。でもおかしいな、いつもなら元気な声で「お兄ちゃん~」って言ってくれるのに今日はやけに静かだ。

 しかも表情もどこか真剣で、ただならぬ様子を感じさせる。


「お兄ちゃん、ちょっと良い?」


 いつもと違う妹の様子に戸惑いながらも、僕はゲーム機の電源を切って雪花と向き合う事にする。


「一体どうしたんだ?もしかして何か相談したい事でもあるの?」


 僕が問い掛けると雪花はコクリと首を縦に振ったので、座布団を持って来て座るように促した。


「ありがとう、お兄ちゃん」

「どういたしまして。それで相談の内容は何かな?」


 僕が訊いても雪花はどこか言い辛そうにしているので、これは相当深刻な悩みなのだと察する。

 だからといって無理に訊こうとするのは逆効果だろう。雪花が話したいタイミングで話すのが一番良いと思うから。

 僕がしばらく待っていると、やがて雪花が重い口を開いた。


「実はね、ストーカーに付きまとわれているみたいなの・・・」

「な、何だって!?」


 僕は驚きのあまり言葉を失う。だって今の一言にはそれだけの衝撃が込められていたのだから。


 確かに雪花は僕の贔屓目を抜きにしても可愛い。クリッとした瞳に可愛さに全振りした顔立ちはまるでお人形みたいで、小柄な体格にもかかわらず胸部は不釣り合いなほど豊満である。


 実際に僕と一緒の高校に入学してまだ一ヶ月余りにもかかわらず、全学年の男子から注目の的を浴びていて「美少女四天王」とまで言われるようになっている。


 対する僕は至って平凡な容姿だし、運動も平凡、成績が多少良い程度のモブにすぎないので比較すると悲しい事になってしまう。


 おっと、ネガティブな思考に嵌まりそうになったけどまずは雪花の話をじっくり聞かなくちゃ。


「もっと詳しく話してくれるか?」


 僕の言葉を聞いて雪花がポツポツと事情を話し始める。最初におかしいと感じたのは今から約二週間前の下校途中らしい。どこからか妙な視線を浴びた気がして走ったところ、同じようにして走って来られた気配を感じたので近くにあったスーパーマーケットに逃げ込んだとの事。

 幸いしばらく店内をうろうろして別の出入口から出たら妙な視線も無くなって無事に帰宅出来たそうだ。


「でもね、それから知らない番号から何回も着信が来たの」


 雪花はそう言ってスマホの着信履歴を見せてくれる。


「うわ、これはすごいな・・・」


 着信履歴は『非通知設定』で埋め尽くされていて、確かに約二週間前から始まっている。しかも最初は一日に数件程度だったのが、昨日の時点では三十件近くと明らかに件数も増えているようだ。


「それにこんな手紙と写真も送られてきたの」


 雪花が渡してきた数枚の手紙と写真を見てみる。写真には僕と雪花が写っていて、いずれもゴールデンウィークに出掛けた時のものであった。僕達の視線はカメラとは全く違う方向を向いているから、明らかに盗撮したものである事が分かる。


 今度は手紙を見ていると、文字は雑誌や新聞の切り抜きを利用したもので『一緒にお出掛けしていて羨ましい』とか『キミの事をいつも見ている』とただでさえ気持ち悪い内容なのに、『キミのかわいい顔を嘗めたい』という手紙を見た時は思わず怖気が走ってしまった。


「ううっ、怖いよお兄ちゃん・・・」


 雪花の表情がどんどん歪んでいくだけでなく、目もかなり潤んできていた。


「うんうん、今まで怖かったね」


 僕は雪花を抱き寄せて安心させるように優しく頭を撫で続ける。


 でも心の中では怒りの気持ちでいっぱいだった。雪花をここまで怖がらせたストーカーに対してだけでなく、こうして話してくれるまで気付かなかった僕自身にもである。


 しばらくすると落ち着いたのか「ありがとうお兄ちゃん」と言って僕から離れる。


「それで、お父さんとお母さんには話したの?」

「ううん、最初はお兄ちゃんに話そうと思っていたからまだ話してない。だけどパパとママには迷惑を掛けたくないの」


 雪花は顔を俯けながら呟く。


「う〜ん・・・」


 さて、どうしたものか。毎日遅くまで仕事をして疲れて帰ってくる両親の負担を掛けたくないという雪花の気持ちも分かる。

 それに警察に相談したところで直接的な被害は何も出てないから大して取り合ってもらえないだろうと予想は付く。


「ごめんね、お兄ちゃん・・・」

「謝らないで。相談してくれて良かったよ」


 本当によく話してくれたと思う。やはりこのまま放置しておく事は到底出来ない!


「よし、決めた。雪花の事は僕が守るよ!」


 今僕に出来る事は雪花の傍を出来るだけ離れないで少しでも安心させるしかない!


 とりあえず登下校は一緒にすると伝えると雪花も少し笑顔になってくれたのだった。




「とは言ったものの本当にどうしよう・・・」


 翌日、僕は学校の教室で悩んでいた。幸い登校時は何事もなかったので良かったけど、やはり雪花の表情には影があるように見えた。


 取り返しが付かなくなる前に早く解決したいけど、現状僕に出来る事なんてたかが知れている。

 誰かに協力してもらうか?いや、もしその人にまで危険が及んだらと思うと安易に頼む事も出来ない。

 じゃあやっぱり僕だけで動くしか・・・でもそれじゃ・・・


 と思考が堂々巡りしそうになったところに明るい声が教室内に響き渡る。


「みんな〜おはよう〜!」


 教室にいる全員に向けて挨拶をしたのは一人の女子生徒である。


 彼女の名前は星河美南。茶色がかった黒髪をポニーテールにまとめていて、整った顔立ちにモデル顔負けのスタイル、運動も出来るし頭も良く、何よりも明るい雰囲気で男子からの人気が非常に高い。もちろん性格も良いから他の女子とも軋轢を生むことが無く友達も多い。まさにザ・陽キャという感じであり、「美少女四天王」の一人でもある。


 星河さんは友達に挨拶をしながら僕に近づいて来る。なぜなら星河さんの席は僕の隣だからである。


「更科くん、おはよう~」

「あ、お、おはよう」


 ニコリと明るい笑顔を浮かべる星河さんにドキッとしてしまい、挨拶がぎこちないものになってしまった。


「ん~?」


 このまま席に着くのかと思いきや、突然星河さんは軽く首を傾げて顔を近づけてくる。ち、ちょっと近いって!?


「な、何でしょうか?」


 ふわりと漂ってくる甘い匂いにさらにドキドキして思わず敬語になってしまう。だって、星河さんの可愛い顔が目の前にあるんだから仕方ないよね?


「もしかして何か悩みでもあるの?」

「えっ?」


 なぜ分かったんだろう?星河さんに挨拶した時はそんなに暗い表情をしてなかったはず、と思う。

 とはいえ素直に打ち明けられるはずもない。だって妹がストーカーに悩まされているなんて話したところで困るだけだろうし。


「え、えっと、二時間目にある数学の小テストがちょっと自信無くて・・・」


 だから別の内容で答える事にした。実際に完全な嘘ではなく、昨日に勉強するつもりが雪花の悩みを聞いてそれどころではなかったのだ。


「あ、そういえばあったね~。でも更科くん頭良いから大丈夫だよ、きっと」

「ははは、だと良いけど」


 よし、どうにか誤魔化せたぞ。ただ、星河さんの優しい励ましに少し後ろめたさを感じてしまう。

 早いところ会話を切り上げようとした僕だけど、星河さんは突然僕の右手を両手で包み込むように握ってきた。え?ど、ど、どどういう事!?


「もし良かったら、私が教えてあげよっか?」


 あの星河さんからまさかの提案である。普通だったら飛び上がる程嬉しいけど、生憎と今日はそんな気分じゃなかった。


「あ、ありがとう。でも自分で頑張ってみるよ」


 そう答えてしまってから少し後悔する。だって星河さんとお近づきになれる機会をみすみす逃すようなものだからだ。


「そっか~、じゃあまた今度ね!」


 一瞬だけ僕の手をギュッと強く握り締めてから手を離して自分の席に着く星河さん。


 あ、危なかった・・・これは確かに勘違いしてしまいそうだ。


 星河さんはこんな感じでスキンシップが多く、自分に好意があると勘違いする男子が続出して告白するも玉砕するという悲劇が繰り返されている。


 まだ彼氏は居ないらしいけど、星河さんくらい可愛ければ選び放題だろう。


 まあ僕みたいなモブに星河さんが好きになる訳が無いから関係のない話である。それよりも今は雪花の事を考えなければ。


 僕は再び悩み始めるのだった。




「はぁ〜」


 放課後になっても結局良い案は思い浮かばなかった。


「とりあえず行こう・・・」


 雪花と待ち合わせしている校舎前へと向かう。


「あ、お兄ちゃん!」


 嬉しそうに手を振る雪花。そんなに大声を出すと目立っちゃうって!

 ほら、こっちを見てひそひそと話をしてる生徒がいっぱいいるじゃないか。

 僕は急いで雪花の方へ駆け足で向かう。


「ごめん、待った?」

「ううん、今来たところだから大丈夫!」


 まるでデートの待ち合わせのような会話だけど、残念ながら相手は妹である。


「よし、帰るか」

「うん!」


 良かった、見た感じ暗い表情は浮かべていないので一安心である。


 こうして僕達は歩き始めたんだけど・・・


(なるほど、これか)


 しばらくして人通りが少なくなってくると、どこからか妙な視線を感じるようになった。


「・・・」


 雪花もそれに気付いたのか、先程までとは打って変わって無言になった。


 ただどの方向から見られているのか分からない。いっその事開けた道に出て確認してみるか?

 僕が動こうとした時、隣からギュッと手を掴まれる。

 雪花は不安そうな表情を浮かべながら首を横に振る。


 僕は雪花の手を握り返し、その後は特に何か起こる事もなく家へと到着した。


 妙な視線はいつの間にか消えていた。




「くそっ!」


 部屋に戻った僕は思わず毒づく。何も出来ない事がこんなに悔しいなんて。


 無力感に苛まれながらも制服から部屋着に着替えようとしたら、


「あれ?」


 おかしいな、いつも着ている部屋着用のTシャツが見つからない。いつもベッドの上に置いているはずなんだけど。


「まあ良いか」


 僕はタンスの引き出しから別のTシャツを取り出して着替える。


「はぁ、本当にどうすれば・・・」


 ベッドに寝転がって考えても良い考えが浮かぶ事は無かった。




 それからというもの登下校は常に雪花と帰るようになった。最初の頃は下校時にしか妙な視線を感じなかったけど、今となっては登校時にも感じるようになってきた。


 しかも写真や手紙についても引き続き下駄箱に入っているらしく、内容もかなり過激なものに変わっていった。

 雪花の表情がまだ明るいのは救いだけど、このままエスカレートすると直接的な被害が出てきそうである。


 この時になって僕はある決意を固めた。


(僕がストーカーを捕まえてやる!)


 危険な事は百も承知。でも雪花が両親に黙っててほしいと言われて協力者が居ない以上、僕が解決するしかないのだ。


 僕はタイミングを伺っていたのだけど、ついにその時が訪れた。


 その日は雪花が委員会活動のためかなり遅くまで学校に残る事になり、合流した頃には時刻が夕方六時を過ぎていた。

 いつものように雪花と雑談しながら帰り道を歩いていると、すぐに妙な視線が絡み付いてきた。しかもいつもより強い気配を感じる。


「雪花、もう少し早く歩ける?」


 雪花に尋ねると首を縦に振ったので、僕は雪花の手を取って早足で歩き出した。

 するとストーカーの方も早く歩き始めたのか妙な視線が弱まる事なく絡み付いてくる。


 いや、さっきよりも強い!


 視線がどんどん強くなっていく。これはまさか走ってる!?


 それを裏付けるかのように静まり返った辺に走っているような足音が聞こえてくる。


「走れ!」


 雪花の手を握って走り出すけど、どんどん足音が近づいてくる。

 しまった、雪花は運動が苦手だった。このままではもうすぐ追い付かれてしまうだろう。


 くっ、こうなればやるしかない!


「雪花は先に行って!」


 僕は雪花の手を離し、ストーカーを捕まえるべく曲がり角のすぐ先で待ち構える。

 これなら不意打ちをされる可能性は少ないはず!


 ただ、雪花は僕よりも少し先で息を切らして立ち止まっている。しんどくても少しでも遠くに逃げてほしいのに。

 しかし足音はすぐそこまで迫っている。どうやら腹をくくる時が来たようだ。


 ついに人影が角から飛び出し、僕の方へと突進してくる。辺りが暗いしフードを被っているからストーカーの表情は見えない。


「っ!」


 僕はストーカーの突進を受け止めるように足を踏ん張る。この先には雪花が居るから絶対にこれ以上通させるわけにはいかない!


 ストーカーの突進を受け止め、どうしよかと考えているとふと違和感が。


 あれ、全然抵抗しないぞ?それどころか僕の胸元に顔を擦り付けている?それに腰の辺りに伝わる柔らかい感触は一体・・・


 その時ストーカーのフードが捲れる同時に漂ってくる甘い匂い。あれ、この匂い最近どこかで嗅いだ覚えがあるぞ?


 そしてフードが捲れて見えた髪型もこれまた見覚えのあるポニーテールだった。


「えっ、まさか・・・!?」


 いや、そんなはずはないと衝撃を受けていると胸元の方から怪しい息遣いが。


「す〜〜は〜〜すぅ〜〜〜はぁ〜〜〜ぐへへ、透哉くんの匂いさ〜いこう〜!やっぱり本物は格別だなぁ〜」

「!?!?!?!?」


 背中に氷を入れられたかのようにゾワゾワと寒気が走り、慌ててストーカー(?)を引き剥がす。


「ほ、星河、さん?」


 顔を確認しても疑問形になってしまったのは許してほしい。だって、人様に見せられないようなだらしない笑みを浮かべてて一瞬別人かと思ったんだから!


「えへへ〜バレちゃった〜」


 と言いながら再び僕に抱きついて匂いを嗅ぎ始める星河さん。


 え?雪花のストーカーの正体が星河さん?何で?いや待って、それ以前になぜ僕の匂いをこれでもかという程嗅いでるの?一体何が起きてるんだ!?


 もう思考が混乱状態になっているところに救いの手が。


「星河先輩、お兄ちゃんが困っているので離れてください」


 後ろから雪花が言っても星河さんは離れようとしない。


「横流しするのやめても良いんですよ?」


 しかし今の一言を聞いた瞬間にパッと僕から離れる星河さん。表情はどこか焦ったものに変わっている。


「ご、ごめんなさい、つい興奮しちゃって・・・だから、ね?」


 いやいやいや!横流しって何!?それに興奮っていかにも不審者が自供した時の動機みたいな事言わないでくれるかな!?もう突っ込みどころが多すぎてどうすれば良いんだ!?


「な、なあ、もしかして雪花ってストーカーの正体を知ってたのか?」


 恐る恐る聞くと、


「うん、でも対象はユキじゃなくてお兄ちゃん(・・・・・)だけどね」


 雪花から耳を疑うような返事が。


「えっ、僕のストーカー?う、嘘でしょ?だって今までそんな気配全然無かったよ!?」

「えっへん、それは私がバレないようにこっそりとやっていたからなのでした!」


 なぜか胸を張って答える星河さん。いやいや自慢するような話じゃないからね!?そういえばさっきは下の名前で呼んでたし。


「もしかしてあの写真は・・・?」

「ピンポ〜ン、私がとう・・・こっそり撮影したものでした~」

「言い直さなくても盗撮だからね!?じゃああの手紙も?」

「勿論私が作ったんだよ~。あ、でも内容は本当だから心配しないで〜」

「いやむしろ心配になったわ!!」


 僕の中の星河さん像が加速度的に崩れていく。まさかこんな危ない人だったなんて思わなかった。


「そ、それじゃあの相談は一体・・・?」


 僕がジト目で見つめると、雪花がさっと目を逸らす。


「だ、だってお兄ちゃんが最近冷たいんだもん・・・」

「ど、どういう事?僕、雪花に冷たくしたなんて記憶ないよ?」


 そう答えると、頬を膨らませた雪花がキッと睨みつけてくる。まあそんなに怖くないけど。


「だって、せっかく同じ高校になったのに一緒に登下校してくれなくなったもん!」


 えっ、そういう理由だったの?それって冷たくなった内に入るの?


「あのなぁ、高校生にもなって兄妹で一緒に登下校してたらおかしいだろ」

「全然おかしくない!何で高校生なったらダメなの?」


 どうやら雪花の中では高校生にもなって兄と登下校する事になんの違和感もないようだ。まあ聞かれても明確に答えを返せはしないけど。


「同じ高校で兄妹一緒に帰ってるの見た事ある?」

「他所は他所、ウチはウチだもん!」


 ダメだ、これは言っても聞かないやつだ。雪花って意外に頑固なんだよな。


「・・・もしかしてストーカーに付きまとわれてるなんて言ったら、僕が一緒に登下校してくれるって思ったの?」


 僕の問い掛けに雪花がコクンと首を縦に振った。


 なるほど、これでようやく理由が分かった。にしても随分と手の込んだ仕掛けをしたもんだ。


「だからといって嘘を吐くのは感心しないぞ。本当にどうしようかかなり悩んだんだからな?」

「ご、ごめんなさい・・・」


 シュンとなった雪花の頭に僕は手をポンと置いて撫でる。


「反省してるなら良いさ。でも今度からはあまり嘘は吐かないでくれよ?」

「うん!」


 ようやく雪花に笑顔が戻った。これで一件落着!


「あぁ~、頭撫でてもらってるぅ~!羨ましい〜!」


 ・・・ってならないよね。だって一番の問題が解決してないし。


「あの、星河さん?」

「ん〜?もしかして、また匂いを嗅がせてくれるの!?」


 キラキラとした目で見つめてくる星河さん。


「嗅がせないよ!?っていうか何でそんな話になるの!?今までの流れを見てたでしょ!?」

「えっ、じゃあ今から透哉くんのお家に行けば良いんだね!嬉しいなぁ~」

「星河さんの頭の中一体どうなってるの!?」


 星河さんは少し考える素振りをしてから答える。


「え〜と、透哉くんのお家にお邪魔して、透哉くんのお部屋に行って、透哉くんをおそ・・・一緒に遊ぶの!」

「今襲うとか言おうとしてなかった!?一緒に遊ぶって絶対ヤバイやつだよね!?」

「ヤバくないって〜お互い気持ちよくなれるんだからウィンウィンだよ?」

「・・・こ、断る!」

「んふふ〜今一瞬迷ったよね?ねぇ、私とイイコトしよう?」


 そう言ってしなだれ掛かってくる星河さん。くっ、ヤバイ人だって分かってても可愛い!でも彼女はストーカーで危険人物なんだから誘いに乗ったら色々と終わる気しかしない。


 僕が渋っているのを見ると、今度は雪花へ視線を向ける。


「ねえ、せっかく協力してあげたんだから、今度は雪花ちゃんが協力してよ」


 大丈夫、きっと雪花は断ってくれるはず。ってよく考えたら僕のストーカーだと分かってて協力してもらってたって事だよね?あれ、ヤバくね?


「お断りします」


 雪花はキッパリと答えた。良かった~とホッと一安心しようとしたら、


「だって報酬としてお兄ちゃんが部屋着として使ってるTシャツをプレゼントしたじゃないですか」


 何やら不穏な言葉が聞こえてくる。えっ、あれって星河さんにあげちゃったの?道理で見つからないはずだよ!


「うん、あれは良かった!色々(・・)な事に使えたから感謝してる!」


 えっ、色々って何!?いや、ここは深く考えたら負けだ!


「ですよね!ユキの見立てに間違いはないのです!」


 いやいや、誇らしげに答えないでよ!?え、もしかして雪花も星河さんと同類なのでは・・・


「じゃあ何か報酬があれば良いのかな?」


 とんでもない提案をしてくる星河さん。


「そうですけど内容によります」


 そこはどんな内容でも断ろうよ!

 これは早いところ逃げないとヤバい。幸い二人は報酬内容の相談に集中していてこっちを向いていない。


 今だ!


 僕は脱兎の如くその場から逃げ出す。


「あっ、透哉くんが居ない!待って〜!」


 すぐに星河さんが気付く。しまった、思った以上に反応が早い!


 僕は必死に足を動かす。何なら今までで一番速い速度を出せているかもしれない。


 でも仮に逃げ切れたとしてこれからどうすれば良いんだ!?家に帰ったら雪花が、学校に行ったら隣の席に星河さんが居るというのに。


 あれ、これ詰んでないか?


 そう思いながらも僕は夜道を全力疾走し続けるのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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