第三話 ひねくレン
side:レン
家に帰って今日の出来事を思い返していた。
僕が遊びに誘ってもらえるなんてあり得ない話だと思ってた。でも葵羽さんと水樹さんと明日遊べるんだー!
ちょびっとばかし興奮。
……でも、どうして僕を誘ったんだろう?
あの二人にはラズさんとバロさんがいるのに。
っていうかその四人バリバリの陽キャだし! 休み時間ぼっちの僕とは百八十度違うことしてる彼ら。ますますナゼ僕を誘ったのか不思議に思う。
……まさかなにかたくらんでいるんじゃ!?
葵羽さんと水樹さんちょっと……ね。水樹さんが変わってるのは有名だけど、あの二人なにか秘密がありそうな感じだし。
やっぱりスクールカーストの頂点にいる人が平々凡々なDC、つまりは底辺DCを遊びに誘うなんておかしな話だ。
うーん。僕を絞め殺そうとか思ってないだろうね?
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「ちょちょちょ! ちょと待ってください!」
ミランスが話をさえぎって不審な目つきで僕を見る。
「なに?」
「DCにしてはひねくれすぎじゃありませんか?」
ひねくれすぎ、とは?
よくわからず首をかしげる。
「いやだって中学生男子と言ったら下ネタを教室中に響かせてギャハハ、ウハウハ、のうのうとただずんでいるじゃないですか!」
「その発言、世の中の男子(おもにDC)を敵にまわしたよ?」
「チケットもらったら『わー、嬉しいなー』って素直に受け取ればいいじゃないですか! しかも絞め殺すなんておかしいですよ! 人を信頼しなさすぎです」
「そうかなぁ。最近の男子はそんなもんだと思うよ」
……っていうか男子って女子からそんな卑しむ目で見られてたんだ。なんかショック。
でも思いだしてみればDCなんてガキンチョだったかもしれない。
まぁ、それに当てはまらない人もいるけど(僕とか! 僕とか! 僕とか!)。
「なんにせよ、レンさんのひねくれた性格は中学時代にはもう確立していたんですね。すばらしいです」
「今のセリフ、美人が言ってなきゃぶっ飛ばすところだったよ」
……と言っても僕非力だから暴力なんてインポッシブルである。
ミランスは相変わらず僕をあり得ないものを見るような目で見ていた。
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「えぇぇぇっ!? レンが友達と遊びに行くぅぅぅぅ!?」
夕食、両親にサーカスに行っていいか聞いてみた。
が、この反応。
お母さんは味噌汁をぶちまけてお父さんは「ウソつくな! ウソつくと地獄行きだぞ!」と僕の肩を小刻みに揺らしてくる。
いや、信じられないのもわかるけどさ! オーバーだって!
そんなリアクションダレも求めてないし、僕が地味に傷つくのー!
「ウソじゃないよ。っていうか友達なのかはよくわかんないけど」
「友達(?)って二次元のほうじゃなくて?」
「二次元のほうは嫁だから」
「あなた聞いた!? 厨二臭がすごいわよ」
「今に始まったことじゃない」
この人たちと会話してると悲痛と殺意が芽生えるんだけど。
僕の私怨をふくんだ表情は一切ツッコまれることなく、お父さんとお母さんはトンカツを口に運んだ。
「……まぁ、レンを信じよう。それでサーカスとやらはいつなんだ?」
「えぇっと……あ、明日だ」
そっか明日は土曜だもんね。
いやぁー、休日に遊びに行くのかぁ。
明日のことを妄想しながら顔をニヤニヤさせる。
「明日……結構すぐね。準備の時間が少ないんじゃない?」
「サーカス行くだけに何日も準備する時間はいらないと思うよ」
「レン、騙されそうになったり、怪しいことがおこったらすぐに電話するんだぞ」
「うん……」
夕食が終わったら僕はすぐに明日の準備をした。
体も念入りに洗ったし、歯だって三十分磨いた。明日の服のコーデだってめっちゃ考えた。完璧だよね。絶対! いや、多分……。
「明日は四時に起きて……七時まで発声練習。うん、やれる! 頑張るぞ」
布団に潜ってアラームが推しの声の目覚まし時計をセットする。
よし、おやすみ! 眠ろう。
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……………………………。
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……………………………………………………………。
「眠れない」
一応言っておくけど明日が楽しみで眠れないわけじゃない! ……断じてない!(内心:早く明日にならないかなぁ! ワクワク♪)
いつもだったら、の〇太なみの早さで夢の国に行けるのになぁ。
「寝てないやつはいねぇかぁ!」
「!?」
廊下からお父さんの声が聞こえる。
えぇーっ。なんか、ただただ恐怖なんだけど?
確かにあの茶番夕食のあと「眠れないかもしれないから絶対眠れるようにして」って頼んだよ?
でもさ。でもさでもさ! こんな寝かしつけかたある?
普通麻酔とかでしょ!(それもない)
「早く寝ないと、朝ごはんのふりかけをシャケから明太子にするぞ!」
ペナルティーがしょうもない。
だけど僕は明太子が苦手だから大問題だ。
一刻も早く寝なければ!
僕はしぶしぶ羊を数え始めた。