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第十話 命のショー

side:レン

 フルーフと名乗る道化師はただただ不敵に僕らを笑って眺めている。

 笑っているのに気味が悪い。

 いや、気味が悪いというよりは怖いに近いのかもしれない。

 でもとにかく嫌悪感を感じるのだ。

 さっきまで演技をしていた役者の一人だったはず。

 それがまた衝撃的で怖い。


「水樹を返して」


「いやよ」


 葵羽さんの真剣な表情を嗤って断る。


「どうしてこのコを返さないといけないのかしら? あなたにメリットある?」


「ありまくりだよ!」


「へぇ、即答なのね。でも残念。このコにはこれからショーのお手伝いをしてもらわないといけないの」


「「「ショー?」」」


 フルーフ以外の頭の中にクエスチョンマークが浮かびあがる。


「そう、ショーよ。──火炙(ひあぶ)りよ」


「どどどど、どういうこと!? 私焼かれちゃうの?」


「ええ。火で炙って美味しいものランキングで……」


「あ、僕知ってる。3位マシュマロ、2位チーズ、1位……なんだっけ?」


「私も知ってるー! 多分1位……氷?」


「あなたバカじゃないの? 氷を炙ったら食べられないわよ」


「そー言われてみればっ」


 水樹さんのナンセンス解答にフルーフはあきれ顔。

 その様子を見て、葵羽さんが「こんな状況でクイズ大会始めてる」とつぶやく。

 しかしフルーフは正解発表しますよ、と咳払い。


「1位は──人間よ」


 ……NI・N・GE・N?

 不気味な道化師からでたとんでも解答。

 ……って、いやいや!


「「「それこそ食べられないじゃん!」」」


 三人でいっせいにツッコむ。

 そんな僕らの反応にフルーフは首を横にふった。


「あなたを食べるのは人間じゃないのよ」


「へ?」


「おいで」


 フルーフが手招きしてニヤリと笑っていると、


  ガウウウウウウッ


 うしろから雄々しい気配がする。

 ……嫌な鳴き声。

 すごく悪いことしか予測できない。

 このまま振り返らずにいられたら、どれだけよかっただろう。

 あぁ、怖い。

 見たくない。現実を受け入れるのが嫌だ。

 だが僕の想いは神様には届かず、そいつは僕の目の前に飛んできた。

 そう、肉食で百獣の王って呼ばれてるあの動物が。


「え? え? え? え? えっ? 私これからライオン(あいつ)に食べられるの?」


「お気に召したかしら?」


「召すわけないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁ!」


 水樹さんの声はもはや半泣き。

 逃げたい一心で動きまわるが、無意味。

 しっかり固定されていてただ顔や指先、つま先だけが暴れまわっている。もっと言うと足掻いているだけなのだ。


「召していないの? それは困ったわ。お客さまを喜ばせるのが仕事なのに」


「喜ばせたいなら早く解放してよ!」


「それは私がつまらないわ」


 なんて理不尽!

 吐き捨てるように言ったあと、フルーフは足掻く水樹さんを面白そうに見ている。

 滑稽だと言わんばかりの表情だ。

 その顔つきに終始憤りを感じる。

 今にでも平手打ちしながら論破してやりたい。

 葵羽さんも同じだろう。もうフルーフのほうへと体が動いている。


「水樹をバカにするな!」


  ボコーン!


 葵羽さんの右こぶしがフルーフの左ほっぺたに炸裂。

 しかしフルーフは痛くも痒くもないと葵羽さんを嘲笑う。


「バカなコをバカにしてなにがいけないの?」


「ダレかをけなすことがよくないんだって!」


 また一発二発とフルーフの顔面を殴る。

 しかしフルーフはクルッとバク転して水樹さんのいるステージに立った。


「哀れね」


 フルーフはライターを水樹さんの顔すぐ横で着火させる。

 十字架ごと焼くつもりなんだ!


「ダメ! 殺さないで!」


 気づいたときには走っていた。

 ライオンなんかすぐに横切ってステージまで走って走って走った。

 水樹さんなんてサーカスの件意外話したことない。

 あっちは僕のことなんて超どうでもいい存在なのかもしれない。

 でも、それでも僕にとって水樹さんは大切な人だ。

 葵羽さんのことも最近話したばっかりの人だけど、大切な人なんだ。

 葵羽さんの大切な人は水樹さん。

 つまり僕は水樹さんが二倍大切なんだ(少し厨二病が発症しております)!

 ……どれくらい大切かなんてどうでもいい。ただ自分が守りたいなら守ればいいじゃないか!

 僕は悲惨な運動神経ながらも足を高々と振り上げる。

 そして、


  ぱこーん


 僕に蹴られたライターはフルーフの手から遠のいていき、弧を描きながら床に落ちていく。

 ──なぜか火がついたまま。


「「「「え?」」」」


 ここにいる全員(フルーフも含め)が目を点にした。

 いや、だってダレも触ってないのに着火してるとか前代未聞。不良品?

 沈黙の中ライターだけがジュォッと音をたてて燃えている。


「……い」


「は?」


 葵羽さんが再度真剣な顔つきでなんか言っている。

 でもボソボソ言ってて、よく聞きとれない。


「……さい」


「へ?」


「……くさい」


「ほ?」


「焦げ臭いんだって! っていうかこのくだりさっきもしたでしょ!」


 そうですね、そうですね。

 同意と謝罪をこめてペコペコする。

 なんか学習能力がない自分に悲しくなってくるなぁ。


「……茶番終了! 焦げ臭いってどういう……って、ほ、ホントだぁ! 私もする! へんな臭い! うへぇ」


「──だって床が燃えてるもの」


 フルーフの視線の先には焦げと炎があがってる。

 どうりで焦げ臭いんだ。

 っていうかフルーフ、ずいぶん悠長すぎる言い方じゃない!? もっと緊張感もとうよ!

 と思っていると


「とりゃぁーーーっ!」


 水樹さんがフルーフに跳び蹴りをかます。

 あれ、(はりつけ)の刑だったのでは?

 横を見るとハサミ(多分僕のエコバッグからとってきた)を握った葵羽さんがいた。

 フルーフはまさかの出来事によたついて、炎の中に倒れこむ。

 そしてジュボッと音をたて服が燃え出した。


「あっつい! 助けて! ねぇ!」


 さすがのフルーフも落ち着いてはいられない。


「もう! 覚えておくのよ。とくに地味男はまた会うんじゃないかしら?」


「なんで僕?」


「予感がするのよね」


 フルーフはウィンクをしながら服を脱ぎ捨てジャンプしてテントを出ていった。

 火のついたフルーフの服はどんどんこちらに落下してくる。

 ……やばいかもしれない。


 ジュオォォッ


 フルーフの服から火が燃え広がる。

 また目の前が真っ赤だ。

 上へ上へと上がる火が怪物のように見える。


「葵羽さん! どうしよう! 僕たち死んじゃう! 今日は推しの誕生日LIVEがあるのに!」


「推しのバースデーは今は置いておこう。大丈夫なんとかなる!」


 と慰めてくれるが、葵羽さんも目をあちらこちらに彷徨わせて悩んでいるようだ。

 どうしようって言ってもわからないのが当たり前だ。

 これ以上質問責めして困らせたくはない。

 ……じゃぁ、どうすれば。


  グオォォォォォッ!


 そのとき、百獣の王が闇をつんざくような唸り声をあげた。

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