交際順調
唯と瞬が、付き合い始めた日は、1月11日である。
たまたま1が三つ並んでいるが、瞬の盲腸退院日である。
盲腸入院が、唯と瞬を結び付けたといっても過言ではない。
退院後も二人は、ラブラブであった。
ついに、唯も絵文字をメールに使うようになっていた。
また、瞬も唯に合わせてラインを使うようになっていた。
勿論、授業中以外は、電話をする仲である。
また、瞬は、フューチャーフォンからスマートフォンに変えた。
同年代では非常に珍しいガラケーだったが、唯と付き合いだしてスマホに変えた。
リビングでスマホをいじっている瞬を見て、順二が話し掛けた。
「兄貴、彼女出来たの?」
「どうして?」
「スマホにするし、最近よくチェックしてるし」
「なるほどね。うん、出来たよ」
「兄貴の彼女って完璧な女性ってイメージあるんだけど、どんな人?」
「普通の子だよ。顔は、平均より上だけど、滅茶苦茶可愛いっていうわけではないね。ただ、性格が、滅茶苦茶可愛いんだよ」
「へぇー、兄貴でもそんな事思うんだ」
「おまえと同い年で高2なんだ」
「うわぁー、ロリコン野郎!」
「何だと、言いやがったな。悔しかったら彼女つくってみぃ」
「好きな子いるんだけど、彼氏持ちなんだよね。そいつと別れるまで手出せねぇんだよ」
「俺なんか、クリスマス前告白多くて、断るのに苦労してたけどな」
「兄貴、もてたよな。けど、最近彼女いなかったよね?」
「そうだな、元カノと長かったからな」
「奈央ちゃんか。キレカワだったよね。本当にモデルみたいな人だった。性格どうだったの?」
「甘えないけど、凄くいい子だったよ」
「兄貴の彼女って感じだね」
「結構パーフェクトな彼女だったね」
「どうして別れたの?」
「居て当たり前みたいに思えてきて、向こうもちょくちょくコンパ等行ってたみたいで」
「兄貴が構わないから、他の男性のところへ行っちゃったって事?」
「短く言うと、そうだな」
「お互いもてる者同士だと、そうなりやすいよね?」
「自分もたまにしかコンパ行かないけど、他の大学の子に告られたり、誘われたりしたからなあ」
「奈央さんだと、皆狙うでしょうよ、彼氏持ちでも」
「よく言えば信頼してた。悪く言えば、あまり連絡取らなくなっていたね」
「相手の彼氏知ってるの?」
「知らないよ。奈央は、高校同じだけど、他大だからね」
「お似合いだったけどね」
「よく言われたよ」
「引きずってたの?」
「いや、そんな事はないよ。奈央が幸せなら、それが一番嬉しいよ。それに、自分ももてるしね」
「それで、久々に彼女が出来たってわけか」
「どうしても警戒しちゃうんだよね。大病院の長男だから。変な女も寄ってくるし」
「どんな子なの?具体的には」
「事故で出会った子。千葉女子の子」
「じゃあ、兄貴と付き合うのはじめてかもね」
「そうだよ、ファーストキスって言ってた」
「手ーはえーな」
「向こうからだよ」
「えっ、マジで」
「本当、本当、今度会ったら聞いてみろよ」
「んな事聞けるかよ」
「解かってて、言ってんだよw」
「嫌な奴w」
二人の仲のよさが、にじみ出ている会話内容である。
「JKと付き合っているお兄さんにそんな事を言っていると、紹介してやらねーぞ」
「お兄様、大変失礼致しました。お許しくださいませ」
「そうだ。そういう風な態度を取っていれば、紹介してあげられるかも」
「無理にとは言わないけど、2対2で一緒に遊びに行きたいね」
「いいよ、言っとくよ」
「頼むぜ、兄貴。兄貴の彼女を見たいし、話してみたいし」
「普通の子だよ。本当に普通。汚れなき純粋な子」
「兄貴の毒牙に・・・・」
順二は、ニタニタしながらコメントを発した。
きっといやらしい事を考えていたに違いない。
「おいおい・・」
「まあ、仲良くやって。今から勉強するわ」
「言われなくてもそうするよ」
弟の順二は、こう言って二階のリビングから三階自分の部屋へ向かった。
順二は、唯と同じ高2だが、志望大学は、東大文Ⅰである。
兄貴と違って、医者になる必要はない。
この会話を聞いていた母親が寄ってきた。
「瞬、まさかあの子、事故で知り合った子なの?」
「そうだよ」
母親は、病室で会って退室した女の子の事を覚えていた。
「別に付き合うのはいいけど、相手は、高校生だからね」
「解かってるよ。妹みたいな感じだから」
「なら、いいけど」
「医師の国家試験にストレートで受かる事。それが、自分にとって一番大事だよ」
「お母さんは、早く結婚して欲しいと思っているのよ」
「なんでいきなり結婚の話が出るの?」
「つまり、長いお付き合いになれば、相手も高校卒業するし、成人になるし」
「言いたい事解かったよ。真剣な交際をしなさいねという事ね。大丈夫だよ、そんな心配してもらわなくても」
「大丈夫だとは思うけど」
「母さん、もう一人子供いたほうがよかったかもね」
ん?という顔を母親がした。
「うち男二人じゃない。妹みたいな感じで凄く可愛いんだよ。妹欲しかったなあと思って」
「なんだ、そういう事ね」
「そういう事」
「自分も上に上がるね」
瞬は、そう言って三階の自分の部屋に戻った。
部屋に戻るとベッドに腰掛け、唯に電話した。
「唯、今いい?」
「いいよ、電話待ってたの」
「自分も唯の声聞きたかったよ。さっきさあ、弟と話してたよ唯の事」
「弟いるんだ?」
「そうだね、話してなかったね。唯と同じ高2だよ」
「頭いいんでしょうね」
「一応、東大文Ⅰ志望かな」
「高校は?」
「開成」
「住んでる世界が違いすぎ」
「唯の事見たいって言ってたよ」
「私は、アイドルではありません。普通の女子高生です」
「兄貴の彼女だからじゃない?今度2対2で遊びに行こうよ。弟部活しているから、その辺も聞かないといけないけど」
「私帰宅部だし、友達も帰宅部だから問題ないですよ、こっちは」
「ちょっと待って、今から弟の部屋行くわ」
そう言って、弟の部屋をノックした。
「入っていいよ」
そう言われた後、弟の部屋に入る。
「今、彼女と話しているんだけど、おまえ週末の予定は?」
「ちょっと待ってよ。土曜午前。日曜は午後が部活だね」
「なら、土曜午後から空いてるんだね」
「うん、空いているよ。さっき言ってた件、早やってんの?」
「唯、土曜の午後でいい?」
「はい。友達一人誘っておきますね」
「出来れば可愛い子がいいかなあ。弟面食いだから」
「それは、兄貴だろ」
電話の相手である唯にも弟の声は、丸聞こえだった。
「じゃあ部屋戻るな」
「兄貴、ありがとう」
こうして、また部屋に戻った後も電話を続ける瞬だった。
「どこ行きたい?半日しかないけど」
「車使えるの?」
「大丈夫、使えるよ。四人だから電車デートより車デートがいいでしょ」
「二人なら、電車でお台場とかいいかなと思ったけど」
「軽くカラオケとかボーリングとか行く?」
「そうですね。連れは、その方が気楽かもね」
「昼食はどうする?」
「食べた後集合でいいんじゃない。夕食後、解散みたいな」
「そうだね、そうしようか」
「会えるの、楽しみ」
「自分も楽しみだよ」
「おやすみなさい」
「じゃあね、おやすみ」
唯は、ほとんど敬語を使わなくなっていた。
彼女になったというかキスをしてもらってから、二人の距離感は、そういう風に変わったのだった。