①肉を食べてる吟遊詩人
「おっ、吟遊詩人だ。」
リザが頬杖を付きながら言う。
「何言ってんのお前。吟遊詩人がこんなところにいる訳が……えッ!!」
ユーヴサテラは、休憩中の吟遊詩人を発見した。
次の街へ向かう道中、真緑に生い茂った草原の上でテントを張り、焚火の前でカリカリの骨付き肉を食べている音楽家が道の横で座っていた。傍らには弦楽器を携え、ロバと一緒にもぐもぐと口を動かしている。リザは彼の前でキャラバンを止め窓を開けた。俺とプーカはまるでサファリパークの動物を見るかのように、キャラバンの中から吟遊詩人を覗き始める。
「おぉ~。」
稀有な職業だ。各地を回り歌を披露するという大道芸人的要素を持ちながら、国家や王族や貴族の為に曲を作り、ただの詩人としての要素も併せ持っている。ただの詩人ではない。吟遊している詩人なのだ。これは珍しい。確かに金持ちというような風体でも無く、長旅にも適しそうな装備をしている。恐らく本物なのだろう。そしてその相棒はリュートではない。何かキューティクルで音を鳴らすタイプの楽器。本当に珍しい。マジ感嘆。
「あれ歌うん?」
プーカは吟遊詩人を指差して言う。
「歌うよ~、今に見てな。歌ってお金をせがんでくるよ~。3、2、1。」
「………歌わんね。」
吟遊詩人は目線を逸らし、黙々と肉を喰らう。
「チッ……、仕方無いな。」
俺は1イェル硬貨を親指で弾き、その時を待つ。吟遊詩人は国を称える為の歌なら、その国からお金を貰っている為無料で歌うと聞いていたんだが。
「まだなん?」
「まだみたいだな。」
「あの肉美味そう。」
「美味そうだな。」
寡黙な吟遊詩人だ。ひたすら遠赤外線に焼かれたジューシーな肉塊にかぶりついている。腹が減るから止めて欲しい。
「手拍子でもすればいいんじゃないのか?」
「そうなん?」
俺とプーカはタンッタンッと手を叩き、リズムを作ってやる。
「はぁい!はぁい!はぁい!はぁい……!」
「――はぁい!はぁい!はぁい!はぁい!」
すると吟遊詩人はやっと肉を口から離し、咀嚼していたものを飲み込んだ。
『――今、肉喰うてんねんッ!!』
――すっげぇコテコテや。
「おぉぅ……、すみません。」
『なんやワレ、飯喰うてる時に歌う奴がおるかいなッ、アァッ!?』
――吟遊詩人なのに、コテコテや。
――――――
「えぇえぇ、さっきのことは。それより商いの話や。最近の吟遊詩人ちゅうのは近くの国の案内人もしとんねん。歌は無料で歌ったってもええねんけど、兄さんら、どや一つ、次の国のガイド雇わへんか?」
よく喋る吟遊詩人だった。吟遊詩人とはもっと風のように飄々とクールなイメージが有ったが、なんだこいつ。
「いや結構です。金無いんで。」
「そうか、まぁええ。あの国には稼がせてもろた。よそへの体裁ちゅうのを気にしてるんやろな。まぁワイにはその恩もある。よっしゃ歌ったるで。」
そういって吟遊詩人は弦楽器を肩に立てかけ、弦を持って軽やかに弾き始めた。




