表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/28

②寒いキャラバンの中


「いいかナナシ。人助けも良いが、禁書庫は絶対不可侵だ。キャラバンの魔法を使うのも無し。」


 エルノアが冷たい声でボソッと呟き、静かに肩から降りた。


「……分かってるよ。」


 それから俺は息を呑んでキャラバンの戸を開け、追い出した二人を招き入れる。



―――――――――


{ノスティア地方『ダンジョン・神秘の青蕾ブルジェオン』}


 椅子に座り暖炉に手を当てながら、二人の探索家はその火を見つめていた。キャラバンは先程と打って変わり、暖かさを若干保持し、俺たち七人の冒険者たちに暖を与えていた。プーカは寒そうに縮こまりながら、二人の客人を見て舌打ちを決める。


「チッ……、」


「止めなさい、そして睨むな。」


 俺はプーカの頭を捻って目線を逸らさせる。探索家は肩身狭そうに「ハハッ……」と笑った。


「事実迷惑をかけている、実に申し訳ない。」


「いえいえ……。」


 アルクは魚骨のスープをカップへよそって、二人の元に差し出す。


「あぁ、有難い。すまないね……。」


「いえいえ、200エルです。」


「あぁうん。……え?」


 彼は怒っている訳では無い。現金なのだ。アルク・トレイダルは{ユーヴサテラ}の資金繰りを司っている。ダンジョン探査の知識や戦闘員としての力はほぼ皆無だが、素晴らしい詐欺師、もとい商人だ。さっき舌打ちを決めた丸々として態度の悪い少女も、ただふてぶてしい訳では無い。プーカ・ユーヴサテラは一応クランの盟主で有り、薬師の顔を持つ運搬車ポーターというサポートの怪物。背丈は小さいが、クランの大黒柱である。


「しかし、このキャラバンに人がいるとは思わなかったよ。というか、まだ人がいるとは思わなかった………。君らには救われたよ。君らがいなければ私らは凍死していた。……いいや、その危機はまだ去ったとは言えないがね。」


 外では冷たい風がピューッと吹いて鳴いている。俺は眠そうに首を揺り動かすテツの肩を揺すりながら、傍らで話を伺う。


「……二人は地元の探索家ですか?」


「ん?……あぁ、そうだよ。私たちは親子なんだ。息子と二人で、母の腰痛に効く薬を取りに来た。しかし情けない事に周期を逃してしまった。君たちもそうだろうが、知っての通り私たちは今、帰路を失ってしまっている。神秘の青蕾ブルジェオンが口を閉じてしまったからね。」


 神秘の青蕾ブルジェオンとは、このダンジョンのことである。つまるところ俺たちは、神秘の青蕾ブルジェオンと呼ばれている"蕾状のダンジョン"の中にいる。それは地理的な自然現象か、はたまた植物のような生物類そのものか。とにかく俺たちはこの気まぐれなダンジョンに囚われている。


「……次に口が開くのは、いつだか分かりますか?」


「うむ……。」


 二人は顔を見合わせる。そんな中、技術士のリザは運転席で呑気にもアコーディオンを奏で始めた。


「私たちの予想では二日後です。最近では地上の気温が低いことも有り、吸寒期が直ぐに終わる短い周期にシフトしたと考えています。でなければ、私たち地元民が周期予想を誤ることなんて、ほぼ有りませんから……。」


「吸寒期?」


 聞き慣れない単語を俺は聞き返す。


「あぁ……、吸寒期とは周辺の寒気をブルジェオンが取り込む期間のことです。その間ブルジェオンは冷やされた空気の代わりに、ダンジョンの地熱で暖められた空気を地上の街へ送り込みます。つまり周辺に有る街は全て、ブルジェオンという天然の暖房に恩恵を受け発展した街なのです。」


「へぇ、そうなんだ。」


 流石地元民である。良い話を聞いた。しかし逆に言えば、今から俺たちを襲い来るものはそのシワ寄せということになる。ノスティア地方の極まった寒波を集約したシワ寄せである。


「して、ダンジョンはどれくらい冷え込みますか?」


 俺がそう聞くと、二人は絶望したような顔を見せて答えた。


 









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ