②幼少期Ⅱ
「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ。」
丘の上に聳える綺麗な新築の一軒家、その横に隣接する暗い森の中に有る古びた二階建ての洋館。俺はその扉をボロボロになった腕で静かに開けた。
「……。」
月明りに照らされたフロントの小さな椅子に腰掛ける少女は、ボロボロになった俺を一瞥して、ゆっくりと呆れた様に近付いてくる。
「来るなッ!!」
俺は叫びながら距離を取る。憔悴しきった身体には、その風体の全てが不愉快で疲労を感じさせる。
彼女の名前はカミサキ=イト。サテラの双子の妹にして洋館の主。高圧的な目に、巻かれたセミロングの髪の毛。サテラとよく似た低身長と顔立ちは、正に双子の悪魔に見えた。
「殺される。殺される。殺される。殺される……。」
そう呟きながら階段を上っていく。二階の自室まで彼女には背中を見せずに、ゆっくりと後ろ歩きで階段を上る。
「殺される。殺される。殺される。殺される……。」
殺しに来るのは分かっている。そう声に出すことで、俺は何か本能的に彼女を威嚇しようとしていた。そして後ずさるように、向かって左上側に位置する最奥の部屋に近づき、扉を開けて、すかさず閉める。机の上にはいつものように、冷め切った晩御飯が置かれていた。
――そして朝を向かえる。徒労の中で伏せ切った身体を起こすことは無く。時間に成れば平原へ飛ばされ、目の前には臨戦態勢のサテラが浮いている。続けて有無を言わさず魔法が展開され、冷や汗と共に拳の反対方向へひたすらに走り距離を取る。それが一日の始まりだ。
巨大化された拳の魔法は徐々にでは有るが、避けられるようになってきた。それは俺自身の動体視力が上がった為か、はたまた拳の速度が落とされているのか。どちらにせよ直撃を喰らえば意識が弾け飛ぶ。運が悪ければ覚醒したまま痛みに悶えることになる。そして拳をかわせるようになってから、ようやく俺は傷ついた自身の身体についての経過を知ることになるのだった。
つまりは魔法臭さの正体の話である。彼女はぐちゃぐちゃにした俺の身体を自らの魔法で修復していた。折れた骨や前歯、筋繊維、曲がった手足、指、そして神経。それらを扉魔法という空間操作能力で強制的にくっつけたり、元に戻したりしていたのである。そしてまた、自らの手で破壊しに来るのだ。
「ダメだよ。避けなきゃ。」
彼女の言葉はまるで軽々しく。その言動の全ては、溢れんばかりの狂気に満ちていた。




