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①幼少期


「――初めまして、○○○。」


 彼女がそう言ったのを覚えている。小川のせせらぎを聞きながら俺の顔を覗き込むその大きな顔が、とても小さいものだったと気付いたのは、彼女の凶悪性を身に染みるほど受け止めていた時期。それは丁度、彼女と出会ってから三年目の春だったと記憶している。今となっては幼いだとか可愛いだとか、そういった類の呆けた感想が浮かんでくるのだろうけど、当時の俺には彼女の顔が死をさらう悪魔や、恐怖を喰らう鬼のように見えていただろう。


 それほどまでに追い込まれていた。手の平を見れば、その皮は当たり前のように剝けていて、刀の柄巻は血と汗に染み、全身の筋線維は張り裂けんばかりの悲鳴を上げる。肺も同じく裂けるような焼けるような、ひたすらにヒリヒリとした痛みを伴っていた。鉄の味がする荒い息と血流の激し過ぎる巡回を不快に思いながら、生と死の狭間を痛みと共に彷徨い続ける地獄のような日常。今思えばたったそれだけが、カミサキ=サテラと過ごした幼少期の思い出であった。



――――――――


『――扉魔法ゲート第五角併用七角。』


 何も無い緑一色の穏やかな平原が地獄へと変貌した。


「構えろ、セカイ。」


 それは彼女が如何に偉大で強大なのかを誇示するような膨大な魔力の嵐。そしてそこから生み出される巨大な両腕の魔法だった。


「……ッ?」


 気付いた時には身体全体を優に覆ってしまう程の巨大な拳が、肉に当たり骨を軋ませ、俺の身体を遥か上空へと吹き飛ばした。


「ア"ァ"……ッ!!!」


 まるで1tトラックにでも轢かれたかのような衝撃。その重さが如何に激しいものであったかは、飛んだ意識が戻った後、激しい気怠さと共に感じることになる。


「立て。」


 身体は依然軋むように痛い。しかし立てるのだ。立てはすれど、全身が彼女の魔法臭さに犯されていた。力が緩む両腕も、不快感に満ちた内臓も、指先も、前歯も、膝の皿も、全てが魔法臭い。


「何だこれ……?」


「君は今死んだんだ、セカイ。……そしてそのままじゃ、また死ぬ。」


 意味不明な言葉を吐き捨て、サテラはまた魔力を集約させる。扉魔法ゲートその奇怪な魔法を操る為に、そして俺を殺すために。


「――良いかいセカイ。避けられなければまた死ぬよ。そしてそれを繰り返す。何度も何度も何度も何度も。」


 サテラの腕には黄色い光の輪が浮かんでいた。そしてその先の肘から拳までをトレースするように何倍にも巨大化した魔法の腕が、空中に漂う魔法陣からのっぺりと出現していた。そしてまた俺を襲うのである。














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