④昇降機を降りた先
俺は咄嗟に学者の頭を抑え、退路を振り返った。しかしそこには既に道を塞ぐようにして、人型のカラクリが奇怪な音を立てながら不気味に距離を詰めていた。
――キキッ、キキキキィィィッ……!!!
――カッタカッタカッタカッタ…………!!
三本の腕に2本のブレードとボウガンをそれぞれに装備し、三つの顔をカタカタと見開きしながら、三本の脚に着いたローラーを転がすカラクリが五体。無機質に鬼気迫るその姿には圧倒的な不気味さが有った。
「何だアレッ、聞いて無いぞッ!!」
俺は学者へ向けて怒鳴る。
「わ、わたっ、私も知らないですぅ!!」
「退路はッ!!」
「――こっち、こち、こここここ、このレバっ、レバーをっ!!」
滑舌を空転させながら、震えた指で学者はレバーをさす。俺は涙目のアルクと学者をレバーの方まで手繰り寄せながら、落ちていた石を拾い、右手に着けた魔法の指輪に力を込める。
『――女帝の指輪ッ!!』
テツが的確にカラクリを撃ち抜き、俺はボウガンを放とうと構える後続のカラクリへ石を投げる。
『穿てッ!!』
命令は指輪から投石へ、投石は姿を変え鋭く堅く、横に回転しながらカラクリを貫通した。
「ナナシッ!!」
差し出されたリザの手を取り、俺はリバー付近の色変わった鉄床へ飛び乗る。瞬間、学者はレバーを引き、色の変わった鉄床の部分がガクリと下へ抜け始めた。
――昇降機か、マズイ。
「プーカ落とせッ!!」
俺はプーカの背負っていたキャラバンを昇降機から外へ放り出す。形を小さく留めたとは言え、フォームポケットの総重量は500kgを優に超える。
「ニャア"ッ"!!!!」
フードの中に居たエルノアが、悲痛な声を漏らしながら俺のうなじに歯形を付けた。
「いでぇッ!!……ったく、どうせ壊れねぇだろ。」
俺はドォンと激しい音を立てたキャラバンを一瞥し、上を見た。そして刀を抜く。
「――うぉおおおおおお、降って来たぁぁああ!!!」
頭上からは殺意溢れる四体のカラクリが、目を光らせながら落下してきていた。俺は刀を降り、順々にカラクリをいなしながら、下へ落としていく。
――4、3、2、最後ッ!!
落としたカラクリもまたドォンと激しい音を立て、見た限りでは四散した。
「頼む、壊れててくれ……。」
「――ニャッ!?」
「いや、キャラバンじゃなくて……。」
下りゆく昇降機に接していた崖は途切れ、眼前にはザァッーと音を立てる大滝が姿を現した。幻想的な光景である。無骨な建造物に囲まれた渓谷の中に、苔と飛沫に溢れた瀑布の神秘的なコントラスト。しばらく俺たちはボォーッとそれらを眺め、浸り、それが束の間の癒しであったと知らされるように、猟奇的な光景を視界に捉えた誰かの息を呑む音で、全員がまた意識を尖らせた。
「……同僚ですか?」
俺の言葉に学者は息を漏らすように「はい……。」と答えた。鉄屑渓谷街『B1F』。昇降機の辿り着く先に待ち構えていたのは、大滝の雫に血を洗う、鉄板に磔にされた10人の遺体であった。




