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46. 臨戦態勢

「あいつ上に行きやがった! これじゃ飛んで逃げることもできないな……」


「いや、ヘージ殿。まずは目の前の魔物をどうにかしないとダメでしょう。見てください。小さいですがあの魔王軍幹部以外に空を飛んでいる何かが数体見えます」


 目を凝らしてよく見てみると肉眼では確認しづらいが小型の鳥のような魔物が高速で空を旋回しているのが見える。恐らくキーテジは俺たちが空中に逃げることも考慮して用意していたのだろう。


「陸も空も完全に囲まれたってわけか」


「三人を抱えて空中を逃げても、重さで速さが出ずすぐに追いつかれるでしょう」


「俺を置いて逃げればスピードもある程度確保できるだろ? それなら」


「確かにヘージ殿を抱えるよりは速く動けますが、やりようによっては捕らえられてしまうでしょう。それにヘージ殿を置いていくわけにはいきません」


 エレナは半ば自己犠牲とも言える俺の捨て身の提案を即刻却下した。

 しかしそれも、エレナに即刻却下されてしまう。


「エレナ、そこまで俺のことを」


「ヘージ殿がいなくなったら、一体誰が借金を払ってくれるのですか!」


「それくらい立て替えておいてくれませんかねぇ!」


 誰がどう見ても危機的状況の中、こいつ命より借金を優先しやがった。

 確かにここでクエスト失敗となれば、負債を背負い込むのは壁を破壊した張本人のエレナになるだろう。


「じゃあこの数をどうやって倒すんだ? 流石のお前でもこれは多すぎるだろ」


「……前だけならなんとかなります。背後は三人に任せる形になってしまいますが」


「むしろこの状況で半分は捌けるって言えるのが凄いな」


「いえ、それほどでもあります」


 自信に満ちた言葉と共に構をとるエレナ。

 多少の不安は残るが、彼女の強さを鑑みればそれでも背中を預けれてしまう。


「っというわけだキュウ、ナノ。二人とも準備はいいか?」


「はい! なるべく足を引っ張らないように頑張ります」


「ちょっと待って、まだ腰が抜けて上手く立てないわ」


「よし! 二人とも問題ないな!」


「問題しかないわよ! こんな状態で戦えって言うの?!」


 エレナと現状の把握をしている間も、抜かした腰と足を震わせながら杖を使って立とうとしていたナノ。


 よぼよぼの老人のように立つその姿は、守りたくなるような母性をくすぐると同時に虐めたくなるような加虐心を駆り立てる。ちなみに服で鼻をかまれたことはまだ根に持っているので、俺の中では加虐心の方が勝っている。


「あと俺は多分役に立たないし、キュウは前線に出るジョブじゃないからエレナが前に出てくれ」


「私もウィザードだから前に出るジョブじゃないんだけど! むしろあんたが前に出るべきでしょ!」


「俺の弱さはこの中じゃ一番よく知ってるだろ? それなのに前線に出そうとするのは鬼畜すぎるぞ」


「無敵の能力を持ってる奴が何言ってるのよ! それに、前に出てヘイトを集めてくれれば魔法を当てることができるの!」


「今俺のことデコイ扱いしやがったな! って言うか俺が前に出てもお前の魔法は元々当たらないだろ」


「あの、どっちでもいいので早くしてほしいです……」


 前に出たくない俺と前に出させたいナノで一歩も譲らない中、それにドン引きしているような顔でキュウが催促してくる。


 ナノの言っていることはごもっともだし、事実俺ならダメージもほぼ負わないだろう。だが、それでも多対一なんて俺でなくてもやりたがらないだろう。普通に怖いのだ。

 だが、


「……はぁ、わかったよ、やりゃいんだろ。でもエレナと違って討ち漏らしがくるだろうから、その時はそっちで対処してくれよ」


「はい! ナノさんのことは僕に任せて下さい!」


「え? 私年下の子に守られようとしてる?」


 ナノならともかくキュウにそんな目で見られては、流石に引かないわけにはいかない。ここで譲らなければ大人気なさすぎると言うものだ。


 本当に仕方なく頭を掻きながら前に出た。


「エレナ。そっちは任せたぞ」


「了解しました!」


 彼女なら気にかける必要もないだろうが、それでも一言は言っておいた。


 そして目の前にいる多種多様な魔物の群れを前に、もう二度と抜かないと思っていた剣を手に取り構え、心を落ち着かせるために目を瞑り深呼吸をする。


 思い返しても良いことより悪いことしか起こらなかった異世界生活。今だって多勢に無勢の戦況の中、仲間のため、そして借金のために戦おうとしていた。


「本当、不遇というか何というか」


「ん? どうしたのヘージ」


「いや、何でもない。さあ、気合い入れていくぞ!」

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