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35. 俺はロリコンじゃない

 俺とキュウは互いに話が積もりそうだったので、とりあえず銭湯を後にした。


 温かい湯船に浸かったおかげか風呂を出た後も体が火照っており、初夏の涼しい夜風で体を少しずつ冷やしながらクエスト報告と話をするためにギルドへ向かった。


「た、ただいまー……」


 クエスト報告をしたのちに、二人が待っているいつもの奥の窓際の席へ向かった。


 二人は俺が帰ってきたことに気づいたのか、各々むすっとした表情で俺を出迎えてくれた。


「遅いわよヘージ!! 今までどこに行ってたの?!」


「ヘージ殿。自分、お腹ペコペコです」


「わ、悪かったよ……」


 ナノは問い詰めるように。エレナは自分の腹のぐわいでどれくらい時間が経ったのかを遠回しに俺に伝えてきた。


「銭湯に行ってたんだ。ほら、俺の仕事って作業現場の荷物運びだったろ? 相当疲れるし汗もかなりかく。そんな心身共にべたべたの状態でお前たちの前に立ったら、死ねだの臭いだの暴言を吐くだけだろ?」


「ぐうの音も出ない言い訳ね……思い当たる節がある分言い返せない……」


「だろ?! だから俺はお前たちに失礼のないように、わざわざ銭湯に行って体を綺麗にしてきたんだ! 俺の体が匂って互いに気まずい雰囲気になるのは嫌だろ?」


「うぅ……」


 つけ入る隙ができた瞬間、そこに言い訳をねじ込んでいく。


 悲しいかな、俺の予想通り銭湯に行かずギルドに直行していたら、ナノの暴言で俺の心が砕け散っていたようだ。


「それはそうとヘージ殿。その子は?」


 俺とナノが話している途中でエレナは俺の腰辺りに視線を向けてきた。


 俺もさっきから腰のあたりに違和感があったため、その正体を見るために下を向く。


「……えっと、キュウ?」


 キュウはまるで初対面の人が話しかけてきたとき親の後ろに隠れる子供のように、俺の後ろに回ってひょこっと顔半分だけ出して女性陣を見ていた。


 少し興奮しているのか、それとも緊張からか、尻尾が大きく揺れおり、同時に俺の服の裾を握っていた。


「ヘージ、あんたまさか!!」


「誤解する気持ちはよーくわかる。でも一回深呼吸をしような? な?」


「ヘージ殿、気持ちはわかりますが実行するのは流石に……」


「それ俺の気持ち一ミリも理解してないよね?! あと俺ロリコンじゃないぞ?!」


 俺からしてみれば二人ともとんでもない誤解をしているが、客観的に見れば間違いを犯しているのはむしろ俺の方になる。


 ナノとエレナから見れば、パーティーの仲間が人狼の少女をさらってきたように見えるだろう。

 ここは言葉を慎重に選ばないと、社会的死は免れないな。


 どう言い訳をしてこの場を乗り切るか、頭をフル回転させて二人が納得するような弁解を導き出そうとした時だった。


「――は、初めまして! 僕、キュウって言います! よろしくお願いします、可愛いお姉さんと綺麗なお姉さん!」


 一瞬にして思考が停止した。


 今まで俺の後ろに隠れていたキュウは、いきなり俺の前に出てきて二人に挨拶をしたのだ。


 いやまあ、初対面の人に挨拶するのは当然のことだし、別に悪いってわけじゃないが。


 ここでキュウが出てくるのはあまりにも想定外のことだったので、この行動がどう出るか予想がつかない。


「――あら~可愛いわね~。キュウちゃんって言うの~? 挨拶出来て偉いわね~」


「……グフッ」


 え? 何この反応。


 先ほどまでゴミを見るような目で俺を見ていたナノが、キュウの方に視線を移した途端、犬や猫などの動物を愛でるかのような態度へと変貌した。


 キュウと同じ視線に立つために椅子から降り、ひざを曲げてキュウの頭をなでている。キュウの方も気持ちがいいのか、尻尾をブンブン振り回していた。


 エレナに関してはキュウの可愛さに脳が耐えられなかったのか、鼻血がとめどなく出てきて、それを手で何とか抑え込んでいた。変態はむしろこいつだろ。


 いや待て落ち着け俺。確かに俺の中の偏見で言わせてもらえば、女子は可愛いのが好きなはずだ。


 ここはキュウの可愛さを逆手にとって、このタイミングで言い訳をすれば、まかり通るのではないか?


「お、おいナノ、実は」


「――ねえヘージ」


「な、なんだ?」


 満面の笑みでキュウの頭をなでているナノに話しかけると、緩やかな声色で向こうから話しかけてきた。


 この様子なら、キュウの可愛さで怒りが消し飛んでいるだろう。

 そう思ったとたん、ナノがこちらを向いて、


「ちゃんと一から全部話してもらうわよ」


 にこやかな表情から一転、ゴミを見る目で俺を見上げてきた。


 待たせた怒りも、人狼の子供を連れてきたことも、一切合切ちゃんと心に留めていたらしく、言い訳をしようものなら殺されそうな勢いだった。


「は、はい……」


 流石にもうどうすることもできず、キュウと俺は席に座り事の経緯を全て話した。


 ナノが話を途中で遮っては、俺の隣にいるキュウにその話が真実かどうかを確認するあたり、俺の話を完全に信用していないように見える。


 弁明をしている最中、ギルド内部では『変態男が今度は人狼の子供を連れてきた』という話題でひそひそ話が繰り広げられていた。


 俺が悪くないのは俺自身が一番よくわかっているが、ギルド全体のアウェーな空気に飲まれて、実は俺が悪いんじゃないかと錯覚しそうになった。

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