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29. ケモ耳人狼ロリ

「お前らぁ! 休憩の時間だぁ!!」


 ブラック企業びっくりのブラック肉体労働にもようやく一区切りがついたのか、現場の責任者のガチムチタンクトップが全員に向かって大声で休憩の時間(至福の一時)を知らせた。


「やっふぉー飯だ!!」


「空腹で飯がうまいぞぉおお!!」


「腹が減って死にそうだー!!」


「水……水を……」


 おい一人本当に死にそうな奴がいないか?


 日常的に肉体労働をしているであろう現場の人間や、こういう仕事に慣れてそうなクエスト受注者ですらこの喜びようだ。


 俺みたいな体力のない人間は当然、


「死ぬもうムリやだ帰りたい楽なクエスト受ければよかったなんでこんなクエスト受けたんだこれからまだ肉体労働あるとかムリなんですけど」


 心が壊れる。


 今、過去、未来。その全てに対して後悔をしながら、物陰でぶつぶつと配給された弁当を食べる。


 他の人たちは休憩所のようなところで食べているが、あんな暑苦しいところには行きたくないので、ひっそりと物陰で食事を取ることにした。


「はぁ、あいつらは今頃どうしてるかなぁ」


 ナノはおそらくおつかいクエストを終え、次のクエストでも受けてる頃だろう。


 簡単なクエストなら、数をこなしてもらわないと困る。


 エレナは……まあ大丈夫だろう。


「にしてもこの弁当美味いな。ボリューミーで食べ応えがある」


 現場で唯一、一人でご飯を食べる時間が死ぬほど至福だったため、普段ならがっついて食事しているとこを、ちびちびと食べ物を口に運び、一口一口を噛み締めていた。


 労働はクソだが、働いた後の飯は本当に美味い。


「本当に美味しいですよねこの弁当。とても精がつきそうです」


「ああ、涙が出そうだ……え?」


 弁当の美味さに感動するあまり、後ろからの声に自然と返答したが、ふと我に返って後ろを振り返る。


「あ、すみません、急に話しかけちゃって」


 っと言いながら何で隣に座るんですかね?


 話しかけてきたのは先程の少女だった。少女は俺の隣に座り込むと、地面に弁当を置き、被っていたヘルメットを取った。


「ふぅ。さっきはありがとうございました。お互い最後まで頑張りましょう!」


「……」


 疲れた俺を励ましてくれているのか。それとも、ただ律儀に謝りに来ただけか。


 どちらにしろ、今俺が一番気になっているのはそんなことじゃない。


「なあ、頭のそれ……」


「あ、見たことないですか? それじゃあ自己紹介も兼ねて」


 一度座った少女は、もう一度立ち上がると俺の前でクルッと一回転して見せた。


 作業中、衣服やヘルメットに隠れていて全く気づかなかったが、今の少女には頭の上にピンと立った犬のような耳と、髪色と同色の白いフサフサの尻尾が生えていた。


「僕の名前はキュウって言います。種族は人狼です」


 その見た目は、『人狼』という種族名が仰々しく思えるほど可愛らしい、ただのケモ耳娘であった。


 これで彼女の運動神経にも納得がいく。人並外れた速さだとは思っていたが、種族が違うのなら何も不思議はない。


 じゃあエレナはどんだけ化け物なんだよって話にはなるんだけど。


 にしてもかなり可愛いな。ナノやエレナとは別ベクトルの、愛でる可愛さって感じだ。


 っていうか勝手に名乗られても……。


「――え? それだけ? 名字は?」


 俺は普段、他人を呼ぶときは名字で呼んでいる。これは前世から変わらない俺のスタンスであり、むしろ名前呼びを強要してくるナノやエレナが例外なのだ。


 だが、今回に限ってはそれ以前の問題。


「人狼に名字って概念は無いんです。みんな名前だけなんですよ」


 これは困った。俺はこいつのことをどう呼べばいいんだ?


 いやまあ、どうせ今日この場だけの関係だろうし、名前呼びでいいか。


「そ、そうなのか。俺の名前はヘイジ・ウィルベスター。気軽に名字で呼んでくれ」


「はい! ヘージさん」


「俺の話聞いてた?」


 コミュ障ながらに勇気を出して放った要望がガン無視されて心が折れそうだ。


 っていうかこいつもか。こいつも俺を『ヘージ』と呼ぶのか。俺の名前をしっかり読んでくれたの、家族以外じゃ受付のお姉さんだけだぞ?


 なんでみんな伸ばしたがるんだ。しっかり『イ』を発音してくれるだけでいいのに。


 彼女はまた俺の横にちょこんと座り、弁当を開けて箸を進めた。


「ヘージさんは、どうしてこの仕事を受けたんですか?」


「――え?」


 いきなりの質問に、少し戸惑ってしまう。

 ただでさえ他人と話すのが苦手なんだ。話題を振られてもきょどって上手く返せない。


「い、いきなりだな。なな、なんでそんなこと聞くんだ?」


「えへへ、ちょっと気になって。ギルドのクエストを受けて来たんですよね? どうしてこんな重労働を選んだんですか?」


 まあ確かに、こんな重労働とは無縁の体つきの人間が来たら、不思議がるだろうな。


 何気ない雑談の振りとしては満点。だが、その質問は俺にダメージしか与えない。


 だって『借金返済のために働いてる』なんて子供に言えるわけないじゃん。


「ど、どうして……か。そうだな……」


 意味ありげな素振りをするが、ただ単に真実を言いたくないだけである。


 プライドが高いわけではない。子供の前では小さな見栄だって張ってたいんだ。


「こ、困っている仲間のために、働いてるんだ」


「そうなんですか。すごいですねヘージさんは! 人の為に働けるなんて、ものすごく立派だと思います!」


「お、おう……」


 ダメだ、この子の目が眩しすぎて直視できない。


 いやでも嘘は言ってないぞ? 事実、俺は今エレナのために働いているのだ。


 ただ、借金返済という真実を少し隠してるだけである。


「僕なんか、自分のことで精一杯ですよ。さっきだって失敗して、ヘージさんに助けてもらって……」


 いや、現場のオッサンが言うこと聞いたら報酬上げてくれるって言ったからやっただけで、別にこいつのためにやったわけじゃないんだがな。


 だが正直、少し気になっていたのだ。なぜこんな子供が、ガチムチタンクトップたちに混ざって仕事をしているのか。


「――なあ、なんでお前はここで働いてるんだ?」


「むー。ちゃんと名前で呼んでください!」


 あ、やっべ、なにこの生き物。めっちゃ可愛いんだけど。


 ケモ耳娘なんてフィクションの中でしか見たことがなかったが、いざ実物を目の前にするとめちゃくちゃ可愛いな。


 加えて『ロリ』という属性がうまくかみ合わさって、これ以上ないってくらい可愛い生き物になっている。


 さっきとは別の意味で直視できないな。


「キ、キュウは、なんでここで働いてるんだ?」


「僕は、ヘージさんとは違って、自分のために働いてるんです」


 何か意味ありげだな。そもそも、こんな小さな子供に働かせるなんて、親はいったい何をしてるんだ?


「親はどうしたんだ?」


「僕が小さいころに死んじゃいました。理由は詳しく聞いてないですけど……」


「……なんか、ごめん」


 重い! 重すぎる! 数秒前の自分をぶん殴ってやりたい!


 なんで俺はこの話題を振った? なんでもっと考えれなかった? 察せよ、俺!


 なんにせよ、この子も相当理不尽な目にあってきたのだろう。


 でなきゃ、こんなところで働いてなんかいない。


「い、いいんですよ! ヘージさんが気を遣うことじゃないんです」


「今更それを言われてフレンドリーに接せれるとでも?」


 いや無理だから。残酷な真実を子供の口から喋らせて、気を遣うなって言う方が無理だから。


 だからと言って、俺にできることなんて何もない。


「はぁ……ほら、これやるよ」


 せいぜい、弁当に入っていた唐揚げのような食べ物を一つあげることくらいしか今の俺にはできないのだ。


 俺は自分の弁当からそれを取ると、彼女の弁当の上に乗せた。


「え? でもヘージさんの分が」


「俺は元々小食なんだ。残すのもったいないから、キュウにやるよ」


 嘘である。この唐揚げみたいな食べ物めちゃくちゃうまくて、できれば人にあげたくない。


 だが、彼女への申し訳なさの方が勝っているため、ここは我慢して彼女に唐揚げを献上しよう。


「精がつくんだろ? だったら、たくさん食べてもっと精をつけとけ」


「で、でも」


 本当だったらゆっくり味わって食べたい。だが、これ以上続いても押し問答になってしまうため、俺は残りの弁当を口にかきこんだ。


「ご馳走様でした! これで今日の俺の昼飯は終わりだ。っというわけで、腹ごなしに少し運動をしてくる」


「あ、ヘージさん!」


 まあ、一人になれる場所を探すだけなんだけど。


 キュウがまた引き留めようとするが、これ以上続くのは普通に面倒くさい。


 子供の前では見栄を張りたいのもあるため、ここは無視して立ち去ろう。


「行っちゃった……また後でお礼言わないと」


 その少し嬉しそうな声が聞こえなかったわけではない。


 ただ、ここは男らしく振り向かないでおこう。

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