[第41話:Sororibus]
「…あら、無事…って程でもなさそうだけど、生きてたのね。スミレ・エレーナ。
私は"七魔団"の東雲 香織。
勘違いしないでね。助けたわけじゃない。
紘紀くんの命通り、"七天使"を倒しに来ただけだから。」
東雲はそう言うと、プイッと振り返って再びシホ・エレーナを睨みつけた。
彼女が時折見せる攻撃性の高い姿…。その姿は、常に樫間に対する忠誠心を示している。
「…紘紀くんの使命のために…貴方を葬りに来たわ。"七天使"さん。」
東雲の登場に、シホは少し不服そうであった。
「何?あんた。邪魔するならあんたから潰すよ?」
シホは完全に東雲に敵意を向けた。
実の姉に対する敵対心を邪魔された恨みなのか、それとも東雲の気丈に振る舞う態度なのか、シホの怒りは完全に東雲に向いている。
「…やれるもんなら、ね?」
東雲はそう言うと、片目を閉じてシホに向かってウインクした。完全なる挑発行為である。
「…この…女ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
シホは見事に東雲の挑発に乗っかった。
"天使の剣"を振りかぶり、東雲に斬りかかる。
東雲は、その様子に動じる素振りは一切なく、むしろその余裕を全面に醸し出していた。
「…"Botrum Portassent Stellarum(ボテュルム ポルタッセント ステラルム)"。」
東雲は"物体操作"の力を発動した。
崩壊したビルの破片が一斉に浮遊すると、シホを狙って高速で襲撃する。
シホは、突然襲いかかる無数のコンクリートの破片を次々に斬り崩していく。
「…厄介な女だなぁ…なぁ!!!!!」
シホは荒れ狂いながら東雲の攻撃を防いだ。東雲の攻撃は、シホに見事に全て防がれてしまっている。
しかし、逆に言えばシホは防御するので精一杯なのであった。
「…まぁまぁ…精一杯なこと。」
東雲の声だ。シホが初めて動揺する姿を見せた。
東雲の殺気はずっとシホの正面から感じられた。しかし、今の声は明らかに正面からではない。
それはまるで、脳内に直接響いているようであった…。
「…どこだっ!!どこにいるっ!!!」
シホは攻撃を防ぎながら東雲の姿を探した。
しかし、その姿は見当たらない…。
ふと、シホの正面に大きめのコンクリート片が現れた。
これに潰されたら一溜まりもない。
シホは"天使の剣"でコンクリート片を真っ二つに斬り裂いた。
すると…
「…やぁ。"|Malleus Ferreus"。」
東雲だ。彼女の両腕は真っ黒な"悪魔のオーラ"に包まれている。
オーラに包まれた"悪魔の旋棍が、大きな拳となってシホに襲い掛かる。
「…この…女ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
シホがそれを防ぐ間も与えずに、それはシホを襲撃した。
真っ向からそれを受けたシホは、地面に勢いよく叩きつけられる…。
「…がはっ…!」
背中から落下した衝撃で、シホは必死に呼吸していた。
そのシホの姿を、東雲は悪魔のような目で見下した。
「…ギャーギャー騒ぐ割には、意外とあっさり潰れてしまうものなのね。
所詮はただの人間…。」
東雲は蔑みながらそう言っていたが、そう言いかけた時に東雲の右肩を銃弾が貫通した。
「…っなっ…!?」
東雲は咄嗟に右肩を押さえた。
手のひらから溢れ出た血液が、押さえる左手の隙間を滴り流れる。
弾丸の元はシホであった。
必死に呼吸しようと踠き苦しむ姿に紛れ、"天使の銃"を東雲に放ったのだ。
東雲はその場に跪いて肩を押さえた。
普通の銃弾でも十分痛い筈だが、"天使の銃"はそれを越えていた。
「…しぶとい奴…。」
東雲がそう呟いた時、シホは漸くその苦しみから解放されたのか、ゆっくり立ち上がった。
「…悪魔の女ぁ…甘かったな…。」
それは東雲の攻撃に対してなのか、それとも致命傷を与えずに隙を見せた東雲の戦闘力に対して言っているのか…。
すると、シホと東雲に強い衝撃波が襲い掛かった。
東雲の頭上から、男の声がする。
「…シホ・エレーナ。一時撤退だ。」
衝撃波はその男が放ったに間違いない。
東雲は朦朧とする意識の中、直感的にそう思った。
男が2人に近付いているのが見ずとも感じられる。
東雲の体は何かに押し潰されているかのように強く地面に押し込まれた。
まるで、その男が目に見えない球体を纏いながら現れ、その球体に押し潰されているかのように…。
「…ちょっと待ってよ!私はこの女を倒さなければ帰れないっ!」
シホはその男に反抗した。
その男とは、アーサーであった。
アーサーは駄々を捏ねるシホに呆れた顔をした。
「…貴様、あの方に殺されてもいいということか?シホ・エレーナ。」
そう言うアーサーの目は、天使というより鬼のような形相であった。
"七天使"においてのアーサーの立ち位置は絶対的のようだ。
「…わかったわ…。」
シホは素直にそう返事をすると、アーサーに付いてその場を離れようとした。
「…待てっ…!!!」
スミレがそう叫んだ。スミレの声は届いたのか届いてないのか、シホはスミレに振り返ることなくその場を去った。




