[第34話:Verum ad]
「お前に、話しておくことがある。
"honey rabbits"が掴んだ、大きな"根源"をな。」
獅蘭がそう言うと、樫間は少し前のめりに獅蘭に近づいた。
「どういうことだ。」
獅蘭が少しでも失言をしようものなら、すぐにでもその首を切られそうな程、
樫間の殺気が獅蘭に向けられた。
しかし、獅蘭はその気迫に動じる様子はなかった。
「前にお前に送ったメール、覚えてるか?
『11年前の件について、詳細が掴めた。
東北研究施設爆発事故。
爆破物は資料上、発火物によるガス爆発と報告されていたが
実際は、"箱装"の研究の可能性が高い事が判明した。
その研究を指揮していた人物は
"クリスティーナ・パンダ"』
この内容には、続きがある。」
それは2年前、獅蘭から樫間に宛てて送られたメールの内容であった。
そして樫間は、バキオラによって知らされた"NAMELESS大戦"が彼によって引き起こされたという事実から、
樫間の両親が亡くなった"東北研究施設爆発事故"と"NAMELESS大戦"に共通して関わっている彼が全ての元凶だと考え、"七魔団"を結成し彼に敵討ちをしようとしていた。
「お前が俺に打ち明けた、13年前の"事件"に関しての新たな情報だ。
この"事件"の発端には、4人の人間が関わっている。」
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15年前…
それは、紘紀が両親と離れ離れになった時。
大学の研究室からの仲であった4人の研究メンバーは、ある日研究室で口論になっていた。
「クリス、もうこの研究は辞めにしよう。
この力は、皆んなを幸せにするどころか、大きなリスクで危機にさらす恐れがあるわ。」
「…寝言をほざくな、神琴。
この研究を成功に導けば、世界は新たな力を手に入れて
人類は新たなる平和な世界を手に入れることができるのだ!」
声を荒げるクリス。
その相手の女性の名は、楢迫 神琴。
現代の環境省副大臣、楢迫 祠の実姉である。
「…クリス、お前の気持ちも分かる。
ただ、神琴の言う通りこの研究でお前の言う平和な世界が手に入る確率は低いんだ。
俺たちがずっと研究してきた大切なものだが…ここで諦めなければいけないのかもしれないな。」
そう諭した人物。それは、樫間 綱紀。
紘紀の父親であった。
「…綱まで…。
せっかく"箱"システムによって、自然エネルギーのコントロールが可能ということを証明できる段階まで来たんだぞ?
ここで諦めてどうする!」
クリスはそう言って、デスクを思いっきり叩いた。
デスクに山積みになった資料の数々が、辺りに散乱した。
「…私たちには早すぎたのよ。
今後また、成功の可能性が出てきた頃にやり直すことだって出来るわ。
私たちが懸けてきた時間は、無駄じゃないもの。」
そう言って床に散らばった資料をかき集めた女性。
彼女が紘紀の母、樫間 天であった。
「…それじゃ遅いんだよ。」
クリスは弱々しくそう呟いた。
「…お前…何か隠しているのか?」
綱紀は、強い口調でクリスに問い詰めた。
「…もうお前たちには関係ない。」
クリスはそう言い捨てて、研究室を出ていってしまった。
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「…って言うのが、事件の発端という事が分かった。
これは、鶴実師匠によって俺に送られてきた当時の音声データの一部から解析したものだ。」
獅蘭はそう言って、再び煙草の煙を上空に吐き捨てた。
「…ちょっと待て。情報量が多すぎる。
楢迫さんの姉とパンダが、俺の両親と共に研究を行っていただと!?」
樫間は、"七魔団"となってから見せてこなかった動揺をさらけ出した。
「流石に、そこまでは仕入れてなかったか。
それじゃあお前は、自分の両親が何らかの形で"箱装"に関する研究に関わっていて
それに目をつけたクリスティーナに横取りされた挙げ句、両親は殺されたと考えていたのか?」
獅蘭は動揺する樫間にお構いなしに、短くなった煙草の火を消してそう言った。
「…両親の研究が、そこまで"箱装"に密接だったとは考えてはいなかった。
ただ起きた事象の時系列的に、両親の研究とパンダの行動に関係性がある可能性が高いと思っていた。
そこにバキオラが、『全てを裏で糸引きしていた』と白状したことで、俺は奴への疑いを強めただけだ。
…その時に手に入れた力…それが"悪魔の力"だったから、これを利用して"BOX・FORCE"に潜む奴を暴こうと、これまでの作戦を決行した…。」
樫間はそこまで言うと、一旦深呼吸して荒ぶる感情を整理しようとした。
「…らしくねぇなぁ、樫間。お前が敵の言う事を鵜呑みにするなんて。」
獅蘭は、樫間の言葉に疑問を抱いた。
「…あの時のあいつは、俺に何かを託そうとしていた。
不思議とそれは、受け入れるべきだと感じるものな気がした…。」
樫間は今、"七魔団"の団長という立場を既に忘れているようであった。
その素直な言葉に続けて、拭いきれない数々の疑問の中から1つを口にした。
「…それに、鶴実師匠という人物は何者なんだ…。
四国で俺を保護し、看病してくれた人物も"茨木 鶴実"と名乗っていた…。」
それを聞いた獅蘭は、新しい煙草を咥えて火を付けようとしたが、それを辞めた。
「…樫間。その人物が"鶴実師匠"だ。」
獅蘭はそう言うと、何かに気がついた様子を見せた。
「…待てよ…蒼松 聡悟が言っていた病院の話…。」
そう呟いた獅蘭は、突然樫間を見て問いかけた。
「…お前、13年前に両親と離れた後、四国の親戚の家に預けられたって言ってたよな?」
未だ数々の事が解決せずに難しい顔をする樫間に、獅蘭はそう言った。
樫間は、驚きと呆れの表情で獅蘭に答えた。
「…そうだけど、それが今この話の何と関係あるって言うんだよ…。」
「関係大ありかもしれねぇ。その親戚、名前は?」
「…はぁ?…茨木 冴桐さんと司乃さんだけど…っ!?」
そう答えた樫間も、1つの繋がりに気がついた。
「…なるほどな。今、新たに1つ話が繋がった。
その親戚の叔父さんが、師匠のお兄さんだったってわけか。」
獅蘭は新たに発見した1つの事実に、満足したように高笑いした。
そして、漸く持っていた煙草に火を付けた。
「…2年前の大戦の後、蒼松 聡悟を保護したのもその人たちだと言っていた。
全て、師匠の策略だったってわけか…。」
獅蘭はそう呟くと、煙草を勢いよく吸った。
そして煙を吐き出すと、再び考え始めた。
「…でも、どういうことだ?
師匠のお兄さん夫妻が、樫間の親戚…?どういう繋がりだ…。」
獅蘭の感じた矛盾点は最もであった。
樫間の両親が亡くなる原因となった研究に楢迫 祠の姉とパンダが関わっていた事。
その真実を突き止めた茨木 鶴美と樫間を預かっていた茨木夫妻に親族関係があった事。
明かされた2つの真実は、全てに関わる重要な事実ということは分かっているものの、
その2つを繋ぐ線は、未だ不透明なままだ。
すると樫間が、衝撃の事実を口にした。
「…今まで、深く考えたことはなかったが…全ては繋がっていた。
そして、俺に課せられた使命…。全てがこれまでに繋がっていたとはな…。」
樫間は何かを思い出したと同時に、全てを悟り開き直ったように言った。
「…茨木夫妻は、俺の母方の親戚だ。
母親の旧姓…そして、司乃さんの旧姓…。かなり前に1度しか聞いたことなくて忘れていたが、
俺の母方の家系は、"緋我家"だ。」




