[第33話:Differentia in proposito]
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一夜明け、再び"七魔団"はBOX・FORCE本部に集結した。
「…本当に、ここにやってくるのか…?」
チャンは、恐る恐る樫間にそう問いかけた。
というのも、樫間は団員たちが恐れを成す程の殺気を放っているからである。
「…ここに来ようが来なかろうが、それは問題ではない。
奴は必ず、今日その姿を現す。
この機会は逃してはいけない。」
"BOX・FORCE"の本部はというと、昨日の襲撃後に急速な応急措置が施されており、
激しい決壊を辛うじて免れている状態であった。
その技術力の高さは、非公式の組織から政府公認の特殊組織へと昇格した"BOX・FORCE"の
組織力の向上を象徴しているようでもあった。
…しかし、それは一瞬にして粉々となった。
上空は、少し曇りがかってはいたものの
晴れ渡る空の青が広がっていた。
その青は、白い閃光によって輝き方を変えてしまった。
その光と共に、8つの人影が上空から降下してきた。
それは真っ直ぐBOX・FORCE本部に落下して、その建物を瞬きの内に消し去ってしまった。
「…総員、準備はいいな?」
樫間がそう言った時には、七魔団全員戦闘態勢であった。
BOX・FORCE本部を破壊した爆風には、依然《《8つ》》の光が輝いている。
樫間はその光を捉えると、誰よりも先に爆風へと突っ込んだ。
「樫間っ!!」
堀崎の呼び声届かず、樫間の姿は爆風の中へと消えていった。
"悪魔"を纏った樫間の姿は、以前よりも"悪魔"に近づいていた。
爆煙が樫間の視界を遮る。
しかし、樫間は迷うことなく1点を睨みつけ、そこへ2つの剣を振った。
鈍い金属音が響き、その2つの剣は何かに阻まれた。
衝突に寄る衝撃波によって、辺りの煙が徐々に晴れていった。
「…よぉ、樫間 紘紀。」
樫間の"悪魔の双剣"を抑えていたのは、
白い輝きを纏って羽模様の装飾を施した、まるでかつての"青龍銃"を彷彿とさせる"銃"であった。
それを持っていたのは、クリスティーナ・パンダであった。
馴染のパンダの被り物に白衣姿が、樫間の前に立ちふさがる。
その姿が露見されると同時に、樫間は周囲に"7つ"の殺気を感じた。
樫間に向けてパンダと同じ銃を構えた白いローブの人影が7つ、樫間を囲っていた。
「…"七魔団"はもう終わりだ…。」
ローブの人影の内、パンダの左隣にいる人物がそう呟いた。
その声は、男の声であった。
「…貴様らは…。」
樫間は動揺を隠しながら、周囲を見渡しそう言った。
「…紹介しよう、樫間。彼らは"七天使"。
…そう。絶対支配の力を持つ彼らこそが、この退屈でふざけた世界を粛清する"神"となる存在なのだ。」
パンダはそう言うと、被り物で曇らせた声で高笑いした。
その瞬間、樫間を囲う7つの白いローブの集団を囲うように、
"七魔団"が現れた。
「…銃を下ろせ。従わなければその命はない。」
チャンがそう言った。"悪魔"の武器を構えた"七魔団"の面々は、殺気に溢れている。
「…面白い。やれるものなら見せてもらおうか。」
パンダの左隣にいる男が、チャンの発言を嘲笑うかのようにそう言った。
そして、銃を構えた右手とは逆の左手を高く掲げ、指を鳴らした。
無音の衝撃波が、"七魔団"を襲う。
その隙に乗じ、樫間はパンダとの距離をとって上空へと避難した。
「…何なんだ…今のは…。」
衝撃波によって吹き飛ばされ、団員たちは地面に這いつくばっていた。
道影は真っ先に起き上がると、自らを襲った謎の現象に焦りの表情を浮かべた。
すると…
「総員、一斉攻撃っっ!!目標は中心点にいる白いローブの集団だっ!」
聞き馴染みのある叫び声と共に、様々な色をした攻撃が9つ、
パンダを取り囲む白いローブの集団を襲った。
その光景を、上空に飛翔しながら見下ろす樫間の横に、
"箱装"の力で浮遊する蒼松が現れた。
「…樫間。ここは一旦情報収集に徹しよう。
彩科院隊長にもそれで話を通している。
…あの"7つ"の人影…あの正体を暴こう。」
蒼松はそう言って樫間を諭した。
「…忘れたのか?前にそれで失敗していることを…。
…あの時とは違う。俺たち"悪魔"の力で奴を殺す。
…邪魔をするなっ!」
蒼松の策を聞き入れるどころか、瞬時に否定した樫間は、
再びパンダを狙って急降下した。
「…全く…。」
蒼松は呆れた顔で後頭部を掻きむしった。
「…まあ、彼があそこまで思い入れるのも無理はない。
何せ、彼の目的…クリスティーナ・パンダは、樫間の最も憎んでいる相手だからな。」
蒼松の元へ獅蘭が合流し、そう言った。
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"七魔団"による、"BOX・FORCE本部"襲撃。
そしてクリスティーナ・パンダと樫間の戦闘の後、"七魔団"との共闘を持ちかけた蒼松。
しかし、樫間によってそれは拒否されてしまい、"七魔団"はその場を去った。
その夜、獅蘭は単独で樫間との接触を試みた。
かつて獅蘭が樫間を連れ出し、2人だけで語り合った場所。
その渋谷の廃ビルは、開発工事の為に防音シートで覆われてはいるものの、
建物自体は健在であった。
その屋上に、かつて獅蘭が愛用していた革製の椅子が乱雑に放置されていた。
その他に、机や瓦礫の数々が幾つかの山となっていた。
その椅子に腰掛けて、獅蘭は天を仰いだ。
「…マジで来るとは思ってなかったぜ。」
獅蘭はそう言って、愛用の煙草に火を灯した。
暗影から姿を現したのは、樫間であった。
「…"honey rabbits"との共闘の話なら、拒否したはずだ。」
そこに立つ樫間は、かつての戦友を見る目とは思えない程に獅蘭を睨みつけていた。
獅蘭は樫間の鋭い目つきをチラッと見て、天高く煙を吐いた。
「そうじゃねぇよ。」
獅蘭はそう言うと、再び煙草を口にした。
「お前に、話しておくことがある。
"honey rabbits"が掴んだ、大きな"根源"をな。」




