[第32話:Tenere manus]
「久しい顔ぶれだな。」
黄髪に毛先が赤く染められた髪を靡かせながら、そう言って現れたのは、
獅蘭 継斗であった。
「…獅蘭っ!どうしてここが…。」
蒼松はそう言った。
蒼松が退院した後、ジャッキーと蒼松は神奈川に拠点を置いて調査を進めていた。
「…あの人が教えてくれた。
…俺を、初めて認めてくれた人。鶴実さんがな。」
獅蘭を蒼松たちの元に合流させたのも、"茨木 鶴実"によってであった。
「…茨木さん…先代の頃、俺はそこまで他部隊との交流がなかったから、彼の事はそこまで深く知らないけど…。確かに"第1次NAMELESS大戦"の数少ない生き残りだったって事は知っている。
その彼が何故、今こうして俺たちを集めているのか…。そもそも、彼はどこにいるんだ?」
蒼松の中で、事の真相がまだ掴めていないようであった。
複雑に散らばる点、それを繋げる唯一の線引き役が茨木である事しか、蒼松には分かっていなかった。
「鶴さんは、四国にいる。
"BOX・FORCE"は既に引退してる身ではあるが、これまでも何度も裏から助けてくれたのが鶴さんだ。」
獅蘭は、そう言って自身のスマートフォンを見つめた。
「…"第2次NAMELESS大戦"。ウルセウスとの戦闘の後、いや、その前からだ。
鶴さんはいくつかのメッセージを俺に寄越した。
『"BOX・FORCE"には、大きな力が働いている可能性がある。』
これは、鶴さんが何度も俺に寄越したメッセージだ。」
獅蘭の視線は、スマートフォンから天井へと移った。
それは、何かを思い出しているかのように。
「俺は信じた。鶴さんのそのメッセージを。
そしてある時、それは確実に近いものになった。」
獅蘭が言うには、"第2次NAMELESS大戦"が発展する少し前。
蒼松が"四神"と呼ばれる"NAMELESS幹部"と接触した事が、獅蘭や茨木の中で"疑惑"が"確証"となったと言う。
「…俺はそれから、独自で調査を進めた。
…だが、ある所から先に進めなくてな。
その時だった。鶴さんから、"蒼松を保護した。ジャッキーと合流させる。"って連絡を貰ったのは。
それで、ここに辿り着いたってわけさ。」
獅蘭はそう言うと、蒼松とジャッキーに深く頭を下げた。
獅蘭が取る行動としては珍しく、2人は驚いた。
「…頼む。俺の持ってる情報を提供する。
これ以上多くの犠牲を出さない為に、
"BOX・FORCE"を、"箱装"を止める協力をして欲しい。」
こうして、蒼松とジャッキーと獅蘭の3人は
"honey rabbits"という組織を立ち上げ、独自で調査を進めた。
そしてある時_
「…久しぶりだネ…。」
ジャッキーがそう言った相手は、蓮田 瑛介であった。
「…ジャッキー…小秋…マイケル…?」
大通りの路肩に停められた、青のスカイラインGT-Rに寄りかかるジャッキーを見て、蓮田はそう呟いた。
「…いかにモ。丁度良かっタ。
君にも協力して貰おウ。」
そう言って、ジャッキーは蓮田を助手席に乗せた。
運転席に座ったジャッキーは、ことの全てを蓮田に話した。
「…ところデ、君は今も"BOX・FORCE"ニ?」
「…一応、所属はしている。
しかし、表向きには諜報部の一組織になっているが、実際のところは独自で組織の謎を調査している。
行方不明隊員の捜索と銘打って活動していた所に、仲間の反応を感じてな。
そしたら、君がいたって訳さ。」
蓮田はそう言った。
彼もまた、組織に属しながらも組織に対して疑問を抱く1人であった。
「…だから、俺も協力する。
"honey rabbits"に入れてくれないか?」
こうして、蓮田も合流した事で、現在に至る。
_
「…と言った流れでな。
目的は、お前のその"七魔団"には近い。」
蒼松は、"honey rabbits"の経歴を樫間に話した。
「…いや、違うな。」
蒼松の話を黙って聞いていた樫間であったが、歩み寄りを試みる蒼松を、その一言で否定した。
「…俺の"目的"は、"箱装"や"BOX・FORCE"の阻止なんて"正義"面したものではない。」
樫間はそう言った。
それと同時に、周囲の"honey rabbits"や彩科院の目にも分かるように、樫間を黒いオーラが包み込む。
「…どう言う事だ樫間…。
我々に牙を向け、ここまでした目的を…"BOX・FORCE"の仲間を危機に晒した理由を、
それを聞かなければ、俺はお前を許さない…っ!」
そう言って、彩科院が"裁馬刀"の剣先を樫間に向けた。
その鋭い剣先に匹敵する目線を、樫間は彩科院に向けた。
「…クリスティーナ・パンダを殺し、"BOX・FORCE"を壊滅させる。
全て終わらせるんだ…。この長くて深い闇を…。」
そう言う樫間に、今にも剣を振るおうと身体を震わせる彩科院の肩を、蒼松が強く掴んで静止した。
「…今、樫間にその剣を向けたところで何も変わらない。
それに、俺たちも目の当たりにしたでしょう。
樫間の言う通り、|クリスティーナ・パンダ《奴》が"諸悪の根源"というのは事実です。
その剣先を向けるのは、樫間じゃなくて"奴"なんじゃないですか?」
一触即発かと思われたその場は、蒼松によって阻止された。
そこへ、本部隊員救出を終えた獅蘭と蓮田、堀崎率いる"七魔団"メンバーが共に集まった。
「とりあえず、本部内に取り残された人員は全て救出した。」
獅蘭はそう蒼松に報告した。
「…どうする?樫間。
このままじゃ、この建物もそう長くは持たなそうだ…。」
堀崎は、不安そうな顔で樫間にそう言った。
樫間は、"七魔団"のメンバーを見渡した。
皆、疲労と不安の表情を浮かべている。
「…"七魔団"は撤退する。
明日、再び現れる"奴"を確実に仕留める。
…交渉、決裂だ。蒼松 聡悟。」
樫間はそう言って姿を消した。
"七魔団"の面々も、樫間に続いて姿を消した。
蒼松たち"honey rabbits"は、残念そうに樫間たちが去る姿を見届けた。
「…どうする?総長。」
獅蘭はそう言って、蒼松を見た。
蒼松は、樫間の去り際を横目に彩科院へと視線を移した。
「…彩科院隊長。
"BOX・FORCE"の皆を守る為にも、我々"honey rabbits"と協力して欲しい…。」
そう言って、蒼松は彩科院に右手を差し出した。
しかし、彩科院はその右手を払い除けた。
「…突然現れた亡霊に、協力しろだと?
…今の俺たちは、そう簡単に物事を判別出来る立場にはいない。
…出直せ。蒼松。」
彩科院はそう言い捨てて、執事日向の待つ車へ向かって去っていった。
「…さて…どうしたものか…。」
蒼松は、天を仰いでそう呟いた…。




