[第8話:Mammon]
「…私の居場所…もう…ない。」
_
「…あれ…私…ここは…?」
チャンが樫間率いる"七魔団"への合流を合致した時、ようやく東雲が目を覚ました。
「…あ?やっと起きたか…。樫間ぁ!このアマ、目覚ましたぞー。」
道影は、東雲の姿を見るなりそう言った。
「あっ!!!」
東雲は突然大きな声を出した。
「…確か私…呪いの箱…黒い煙…"ルシファー"?…私の身体に入って…。」
どうやら、東雲は自身に起こった事を思い出したようだ。
「…ってあれ?なんかさっきより1人増えてるような…。」
東雲は、樫間たちを指差しながら数え始めた。
樫間、堀崎、葉坂、道影と指差した時、チャンは東雲に近づいた。
「チャン・リーフォンだ。宜しく。」
これまでのチャンにはなかった優しさを、東雲に対して出している。
「あっ…はい。東雲 香織です…。宜しくお願いします。」
東雲は、そう言うとペコペコお辞儀した。
「そう言えば、俺たちもまだだったな。
堀崎 結弦です。宜しく、東雲さん。」
「葉坂 白牙だ。」
「道影 諒護。宜しくな。」
皆口々にそう自己紹介した。
この時はまだ、彼らが強力な力を持っているとは知らずに…。
「…!?」
その瞬間、6人は同時に気配を感じ取った。
「…堀崎、見えるか?」
樫間がそう言った時には、堀崎の目は既に"千里眼"であった。
「…ここから南南西…。距離約30kmってところか…。」
堀崎がそう言うと、樫間が間髪入れずに言った。
「…横浜か…行くぞっ!」
「…いや待て。こっから横浜ったって、電車使っても40分はかかる…。」
チャンは、冷静に樫間を止めた。
すると、堀崎が声を上げた。
「…この"七魔箱"は、羽のような黒いオーラを使うことができた…。」
堀崎の言葉に、樫間は四国での出来事を思い出して笑みを浮かべた。
「皆、"七魔箱"をその手で破壊するんだ。」
樫間の指示通り、5人はそれぞれが持つ"七魔箱"を強く握った。
すると、黒いオーラがそれぞれを包み込んだ。
次第にそれは、それぞれの背中に羽根のような黒いオーラを付与し、それぞれが武器を顕現させた。
「…力を貸せ、アスモレウス。」
樫間はそう呟くと、5人の腕に軽く手を触れた。
「俺の"速度変化"を分け与えた。
これで一気に向かうぞ。」
樫間はそう言うと、廃ビルの天井を切り刻んだ。
「ええええ!?…飛ぶの!?どうやって…キャッ!」
東雲がそう言った時、樫間が東雲の手を引き
一同は一瞬にしてその場から姿を消した。
_神奈川 横浜
一同は、海沿いの古い煉瓦造りの建物がある海岸に辿り着いた。
「…なにこれ…どうなってんの…?」
樫間に手を引かれ、高速移動した東雲は
その身に起きている事象に理解が追いついていなかった。
「…"七魔箱"…とんでもない力を秘めているな…。」
チャンがそう呟いた。
すると、6人の前に1人の少女がいた。
少女は6人を背に、真っ直ぐ夜の暗闇に染まる海を眺めていた。
「…私の居場所…もう…ない。」
少女の呟き声は、海風の音でかき消されてしまった。
「…堀崎、確かにここだったんだよな…?」
樫間が堀崎に確認した。
「…ああ…まさか…?」
堀崎は、目の前にいる少女を顎で指して樫間にアイコンタクトした。
樫間は堀崎を顎で指し、無言の指示を出した。
「…ったく、しゃーねぇなぁ。」
お前が行け。という樫間の無言の指示を仕方なく了承し、堀崎が少女に近づいた。
「…なぁ、君。ここで何してるんだ?」
堀崎の声に少女はビクッと反応を見せたが、振り返りはしない。
「…無視かよ…なぁ、ちょっと聞きたいことがあるん…」
堀崎がそう言いかけた時、少女の背中から現れたものに、一同は驚愕した。
「…私に近づかないで。」
そう呟く少女の背中には、腕のような黒いオーラが左右共に生えていた。
その腕は、少女を守るように彼女を覆っていた。
「…なるほど。そう言うことね。」
堀崎は何かを悟った。
すると、その手に"七魔箱"を取り出した。
「…そっちがその気なら、やってやろうじゃねぇか。」
そう言って、"七魔箱"を力強く握り潰した。
堀崎の身体に、夜の暗がりでも分かるほどの純黒のオーラが纏われた。
「…この"ベルフェゴール"様に喧嘩ふっかけた事、必ず後悔させてやるよ。」
堀崎がそう宣言すると、少女はようやく少し堀崎へと体の向きを変えた。
その反応を見て、堀崎は悪魔のようにほくそ笑んでみせた。
「…ぁあ?やる気んなったかぁ?」
堀崎は1歩1歩、その少女に向かって歩き始めた。
少女は、くるっと向きを変えると、堀崎に対して真っ直ぐ向かい合い、その背中の腕で戦闘体制をとった。
「…何度も言わせないで。…私は"悪魔"。皆を不幸にしてしまう生き物なのっ!」
そこで初めて、少女は大きな声を出した。
「…いいのか?あんなんやらせて。」
2人の姿を少し離れたところで見ていた道影は、樫間にそう問いかけた。
「堀崎には堀崎のやり方ってもんがあるんだろ。好きにさせればいい。」
樫間はそう言うものの、その右手は腰に装備した"アスモレウス"の肢を掴んでいた。
いざとなれば自分が出る。しかし、この場は仲間の動きを信じよう。という、樫間なりの見方である。
それは、"リコリス隊長の時"のように。
少女の言葉に、堀崎は高笑いをした。
「はっ!…おいおい、笑わせんなよ。『私は"悪魔"』だ?生憎、俺もだよぉ!」
少女の"悪魔の右腕"が、堀崎に拳を放った。
しかし、堀崎の"オーラ"は怯むどころか、堀崎は変わらず歩を進めた。
「…何故なの!?…何故効かない…!」
少女は慌てた。
「…私のこれを見た人は、1人として私に近づかなかった…。だから私は、自分の呪われた運命を受け入れて、1人孤独な世界に行こうというのに…!」
堀崎は、少女の言葉を聞いて立ち止まった。
「…それがお前の本音か?」
堀崎の言葉に、少女はハッとした。
「…お前、本当は仲間が欲しいんじゃねぇのか?本当に孤独になりたくて、俺に近づくなって思ってるなら、俺の"悪魔の鎧"に傷の1つくらいつけて見せろよ…。なぁ!」
堀崎の純黒のオーラの勢いが、どんどん大きくなる。
「…私は…仲間なんていらない。…仲間なんて所詮"偽りの絆"でしかないのよ。…"仲間"なんて言葉で縛り上げて、自由な身動きを封じて、最後全て裏切る為の、固く締めた縄にすぎないの!」
少女の言葉と同時に、その背中の腕は大きくなった。
そして今度は、堀崎の正面に向かって両拳を放つ。
「んなもん効かねぇよ。」
堀崎の純黒のオーラからも、腕のようなものが左右から飛び出して、少女の"悪魔の両腕"の攻撃を止めた。
その瞬間、台風以上の突風が辺りを襲った。
「…樫間、マズいぞ。このエネルギーは周囲へ被害を与えかねない…。」
チャンが、樫間に助言をした。
しかし、その時既に樫間は動き出していた。
樫間は右手で、"アスモレウス"を下から上に大きな弧を描くように抜刀した。
その瞬間、暗黒のオーラの斬撃が、ぶつかり合う黒い拳の接点目掛けて高速で斬り抜けた。
斬撃の勢いで、堀崎と少女が纏っていたオーラは、それぞれ一時的に消滅した。
「…なっ…!」
斬撃による突風で、少女の目を覆っていた前髪がふわっと浮き上がると、その目は驚きを隠せずにいた。
「…それ以上はいけない。間違いなく、彼女のそれは"七魔箱"だ。」
樫間はそう言うと、右手に持った"アスモレウス"を納刀した。
「…何これ…彼は一体何者なの?」
一部始終を共に見ていた東雲は、誰よりも目の前の光景に驚いていた。
「樫間 紘紀。彼は一般人とは言えない、何か格別な力を持った、特殊な人間だ。」
東雲の問いに対し、チャンが冷静にそう答えた。
その言葉には、目の前の光景だけではない何かも含まれていた。
少女は、そのまま力尽きたように膝から崩れ落ちた。
「…あなた…一体何者なの?あなたも、"悪魔"なの?」
ゆっくり2人に近づく樫間に、少女はそう言った。
「…俺は、樫間 紘紀。…"真の悪魔"を倒す事を目的とした"悪魔"なのかもしれない。
"七魔団"。それが我々だ。
君もその仲間だと、俺は思っている。」
そう言うと、樫間は地面に崩れ落ちるように座っている少女に、手を差し伸べる。
少女は一度俯き、それから顔を上げて樫間の手を取った。
樫間は少女が自分の手を取った事を確認して、少女を引っ張り起こした。
「…私は、江神 緋彩。あなたの事、信じてもいいの?」
少女こと江神はそう言った。
「…好きにしな。但し、俺は裏切る所か期待を越える結果を出すつもりだ。ついて来れるかな。」
樫間は、優しくも挑戦的な笑みを江神に向けた。




