[第5話:Leviathan]
樫間、堀崎、葉坂は、渋谷に辿り着いた。
渋谷駅の改装工事中の区画に、3人は降り立った。
「…樫間、またあれで探す?」
堀崎は、自分の目を指差しそう言った。
「…いや、今回は粗方見当はついてる。」
樫間はそう言うと、2人を連れて渋谷の中心地から少し離れた路地裏に向かった。
中心地の賑わいから一変、歩いて10分と言ったところか。
そこは、少し物静かな雰囲気が漂っており、
まだ昼の12時を回っていないにも関わらず夜のような薄暗い景色であった。
「…ここだ。」
樫間は立ち止まってそう呟いた。
そこには、5階程の廃ビルが建っていた。
その入り口は壊れたシャッターが半分閉まっており、どうやら力尽くでこじ開けたように下半分がへし曲がっていた。
「…なんだこれ。人間技か?」
葉坂の表情は引き攣っていた。
すると、樫間は何の躊躇いも見せずにその壊れたシャッターの下を潜ろうとした。
「何してんだ。行くぞ。」
最下階に、人の姿は愚か薄汚れた部屋が広がっていた。
ガレージとして使用してたのか、所々に工具や車のパーツが転がっている。
その奥に、エレベーターが伺えた。
そのエレベーターが起動しているかも分からぬうちに、樫間はそこに向かった。
「…おい、樫間。そのエレベーター、動かないんじゃないか?」
堀崎がそう言うも、樫間は聞く耳を持っていなかった。
「ん?何言ってんだ?エレベーターなんて使わなねぇよ。」
そう言うと、樫間は徐に"アスモレウス"を抜刀した。
「…力尽くで、最上階まで行くんだよ。」
樫間は黒い剣の"アスモレウス"でエレベーターのドアを破壊してこじ開け、かごの天井部分を破壊した。
バコンッ!!!!
と衝撃波が広がり、かごが少し落下した。
そのまま天井を見上げた樫間は、かごの中から、堀崎と葉坂を見て笑みを浮かべた。
「お前ら、ついてこいよ。付いて来れるなら、な。」
樫間がそう言うと、その姿は一瞬にして消え去った。
「あっ!あいつ、"アスモレウス"の"速度変化"使ったな…?」
堀崎は悔しがってそう言い、後を追おうとした。
「…"アスモレウス"?…"速度変化"?」
堀崎が立ち止まって振り返ると、葉坂が不思議そうな顔をしていた。
「あ、ああ。お前の分身術みたいな力が、樫間にもある。お前の力の名前は、"サタン"。能力は"分身"ってところか。」
堀崎の言葉に、葉坂はあまり納得していない様子であったが、堀崎は続けた。
「…ちなみに、俺の力の名前は"ベルフェゴール"。
能力は…。」
そう言った時、堀崎の目が猫のように鋭く細くなった。
「…この、"千里眼"だ。…いたいた、最上階だ…。」
堀崎は自慢げにそう言ったが、言葉を詰まらせた。
「…なんだ…あれ…。ざっと100人ってところか…。葉坂、すぐ行くぞ。」
堀崎は何かを感じ取り、葉坂を急かした。
2人が最上階に着くと、そこには樫間がいた。
「…ん?遅ぇじゃねぇか。」
樫間は振り向きもせず、背中越しにそう言った。
その視線の先には、100人程の不良集団が屯っていた。
最上階は、元々オフィスであったのか
壊れかけたデスクや椅子が乱雑に散らばっていた。
「あぁ?誰だテメェは。ここら辺じゃ見ねぇ面だなぁ?」
不良集団の一角が、3人の姿に気づいて2、3人で近づいてきた。
樫間は微動だにしなかった。
反応しなかったのが気に食わないのか、仲間たちが次々に集まってきた。
「おい、テメェら。ここに何しに来た!」
「何とか言えやコラ、あぁ?」
「おいおい、潰されてぇのか?テメェ。」
奥の方にいた連中は、その手にレンチや鉄パイプ、金属バットを持って樫間達に詰め寄った。
樫間は1、2回辺りを見回し、口を開いた。
「堀崎、葉坂。そこで3分突っ立ってろ。」
樫間がそう言うと、不良集団が樫間に襲いかかった。
「何言ってやがるテメェ!3分も経たずにテメェは死ぬんだよっ!」
3、4人程武器を持った連中が、その武器を樫間に向かって振りかぶった。
「「…あーあ、辞めといた方がいいのに。」」
堀崎と葉坂は口を揃えてそう言ったが、もう遅かった。
1秒の間に、樫間の拳は確実に4人の顔面をとらえた。
それを合図に、残りの連中が樫間を袋叩きにしようと襲いかかった。
が、樫間がそれを相手するのに、3分も要さなかった。
辺りには、樫間に気絶させられた不良集団の連中が、所狭しとノビていた。
樫間は最後の1人の男の胸ぐらを掴み、10cm程宙に浮かせた。
「…テ…テメェ…な…何者だ…。」
かろうじて開いた目で、その男は樫間を睨んだ。
すると、奥から拍手の音が響いてきた。
「いやぁ、お見事お見事。」
背丈は175cmといったところか、少し細身の身体と乱雑な髪型をした青年が、手を叩きながら現れた。
「…いやぁ、まさか"咬惡須"がここまでされるとは。あいつ以来の超人さんですなぁ。」
青年は、そういうと笑みを浮かべた。
「どうも。"咬惡須"の総長たぁ俺の事。
道影 諒護だ。」
道影と名乗る青年は、そう言うとポケットを徐に漁り始めた。
「…要件は、これか?」
道影の右掌には、黒いオーラを放った"箱装"らしきものがあった。
「…"七魔団"団長、樫間 紘紀だ。早速で何だが、俺と共に来てもらおう。」
樫間はそう言いながら道影との距離を詰めた。
すると、道影は"箱装"をそのまま握り潰した。
「…てめぇ、俺が『はい、分かりました。』とでも言うと思ったか?」
道影の箱装は、3m程の大きなハンマーに姿を変えた。
道影は、それを軽々振り回して樫間に攻撃を仕掛ける。
「…ああ。力尽くで言わせてやるよ。」
樫間は、"アスモレウス"の黒い剣を抜刀してそう言った。
道影がハンマーを思いっきり振り下ろすと、ビル全体が大きく揺れ、土煙が辺りを立ち込めた。
道影がゆっくりハンマーを持ち上げると、道影の背後から樫間が斬りかかった。
「…すばしっこいじゃねぇか。そういうところもあいつそっくりだなぁぁぁ!!!」
道影は、そう叫ぶと背後から迫り来る樫間に向かってハンマーを振った。
…はずだった。
道影の左頬には、樫間の右拳がめり込んでいる。
「…ぐはっ…。」
道影は、ハンマーもろとも床に叩きつけられた。
「…いつ俺が、これで攻撃する。なんて言った?"咬惡須"って言ったか?甘いな。」
樫間は"アスモレウス"を納刀すると、道影に冷たくそう吐き捨てた。
(…なっ…。)
道影は、殴られた左頬を押さえながら
樫間の姿を目を丸くして見た。
_それは、3年程前の出来事。
"咬惡須"として名を馳せていた道影たちの前に、1人の青年が現れた。
「…ようこそ。"咬惡須"へ。俺たちの仲間になるか?」
道影はお気に入りの高級椅子に深く腰掛けながら、目の前の青年にそう言った。
その青年は、咥えていた煙草を吸い、煙を吹くと一言だけ言い放った。
「…俺は退屈してるんだよ。楽しませてくれよ、なぁ?」
そう言って、煙草を踏み消すと
赤色と橙色に染めた髪を靡かせながら、
"咬惡須"の軍勢を掃討するのに5分と要さなかった。
道影は、ボロボロになりながら膝を着き
その青年を見上げた。
「…お前…何者だ…。」
その青年の姿も、痣だらけであったが
平気そうな素振りを見せて再び煙草に火をつけた。
「"咬惡須"って言ったか?甘いな。俺は_」
_
道影は、ゆっくり立ち上がると
両手をあげて降参のポーズをとった。
「樫間って言ったか?面白ぇ。お前に付き合ってやろう。」
道影の表情は、どこか清々しかった。




