[第2話:Asmodeus]
樫間による、BOX・FORCE襲撃の数ヶ月前_
先の大戦によって、バキオラとの戦いに勝利した樫間であったが、
最後の攻撃を放った直後、意識が全て飛んでしまい深くて長い眠りについた。
_所変わってそこは、山奥の古民家。
現代では物珍しい囲炉裏が家の中央に構えてあるその場所に、2人の人物がいた。
布団の中で静かに眠っているのは、樫間 紘紀であった。
もう1人の人物は、囲炉裏で魚を焼きながらパイプ煙草を吸っていた。
「…ここは…。」
樫間が突然、目を覚ました。
ぼんやりとする脳内と視界の中、ボソッと呟いた言葉に、パイプを吸っていた人物が反応した。
「…おぉ、気づいたか。」
その人物は、パイプのカスを囲炉裏に捨て、樫間の姿を見た。
「…あなたは…ってぇ…。」
樫間はゆっくり身体を起こそうとしたが、大戦による怪我を負っており、その痛みを堪える顔をした。
「…動くな。派手にやられとる。」
囲炉裏の側の人物は落ち着いた口調でそう言った。
「…なんや。俺の事知らんのか。」
その人物は徐に立ち上がると、
樫間の側に近づいた。
「…俺の名は、茨木 鶴美。
初代BOX・FORCE、第3部隊"ローズ"元隊長や。」
スキンヘッドの頭の左側に、爪痕のような傷を負ったその人物はそう名乗った。
茨木は、続けて樫間に話す。
「…なんや。緋我か獅蘭から聞いとらんのか。
お前は、緋我と直接会うてないかも知らんが、あいつと話したことあるやろ。」
「…茨木…さん…?」
樫間は、眠りから覚めたばかりでよく理解できていなかった。
「まあええ。お前、NAMELESSの頭仕留めたらしいなぁ。」
「…頭…ではありません。…奴は、"四神"…。
NAMELESSの幹部的存在です…。」
樫間は、ゆっくりした口調でそう言った。
「そうか。俺にはよー分からんが。
お前がここに突然現れてから約2年ってところか。今のところ平和な世が続いてる。」
茨木がそう言うと、樫間は辺りを見回した。
樫間の記憶上、バキオラと新宿で戦っていたのが最後だが…ここはどう見ても新宿ではない。
穏やかな空気が流れる山小屋、といった感じであった。
「ただ…。」
茨木はそう言うと、周りを見渡した。
どうやら、次に話す内容を慎重に提示しようとしている。
「…NAMELESSの気?みたいなのあるやろ。
ここ最近、突然そんな気を感じるようになったんや。
しかも、この近くにや。」
茨木は、険しい顔でそう言った。
「ここは四国ん中の香川、高鉢山や。
東京からかなり離れたここで、NAMELESSの反応を身近に感じるなんておかしいやろ。」
茨木は続けた。
「うちの裏の山ん中にな、祠があんねん。
どうやら、その付近からその気を感じる。
お前がもうちょい、動ける様になってから
ちょっと覗きに行かへんか?」
茨木の言葉に、樫間は少し考えて
それから1回大きく頷いた。
それから数日後、ようやく体を動かせる程に回復した樫間は、茨木と共に例の祠に向かった。
「もうすぐや。」
茨木がそう言った瞬間、1本の矢が2人の目の前を通過し、側に生えていた木に突き刺さった。
「…敵か!?」
茨木は、樫間を庇うようにしてしゃがんだ。
樫間も同じように、姿勢を低くした。
「…誰かと思ったら、鶴先生ですか…。」
矢が来た方向から、声がした。
茨木と樫間が顔を上げると、そこには金色の髪を独特な形に編み込んだ髪型をした青年が、2人を見下ろしていた。
「…んだよ堀崎。危ないやんか!」
茨木はその青年の顔を見るなり、そう怒鳴った。
「うるさいっすよ。先生。
それに、この祠を守れって言ったの、先生じゃないっすか。」
青年は、茨木の怒鳴りを軽くあしらった。
「俺は、堀崎 結弦。一応、元弓道香川県代表だ。」
青年は、そう名乗った。
「…樫間…紘紀だ。」
樫間は、恐る恐るそう答えた。
堀崎は、樫間を見るなり驚いた顔をした。
「いやあんた…あの樫間か?今、日本全国で捜索願いが出されてる奴じゃねぇか。
2年前、大騒ぎになったぞ…。まさか、先生のところにいるとはな…。」
堀崎がそう言うと、茨木が話を遮った。
「…詳しい話は後でうちでする。
堀崎、こいつを連れて祠に行くぞ。」
茨木の言葉に、堀崎はまたも驚いた。
「祠に!?」
「ああ。こいつは俺と同じ、"BOX・FORCE"の人間だ。あの祠の気配の謎がわかるかも知れん。」
そう言うと、3人はその祠に急いだ。
他の山木とは一際違う、妙な大木の根元に
茨木の言う"祠"があった。
「ここや。」
茨木がそう言うと、樫間はなぜかその祠に手を伸ばした。
すると、見えない壁のようなものが樫間のその手を拒んだ。
「「えっ…!?」」
茨木と堀崎が口を揃えてそう言うと、樫間はそのままその壁のようなものを掴もうとした。
樫間が力を入れると、黒い電撃が辺りに走った。
茨木と堀崎が慌てていると、樫間は両手でその壁を引き千切ろうとした。
「…お…おい!樫間!?」
茨木の声を他所に、樫間は思いっきりその見えない壁を引き千切り、穴を開けた。
すると、黒い電撃が走り、中から黒いオーラが吹き出した。
『…来い。カシマ ヒロキ…。』
祠から声がした。
その声は、茨木と堀崎にも聞こえていた。
樫間は、声のする方へ進もうとした。
すると、先程樫間がこじ開けた穴は
樫間の身体が入るサイズへと広がっていた。
3人が恐る恐る中に入ろうとすると、またも黒い電撃が発生した。
『…カシマダケダ…。』
祠の中からまた声がした。
茨木と堀崎は諦めて、樫間だけを中に通した。
「気をつけるんやで。樫間。」
茨木は樫間にそう言い残した。
樫間が中に入ると、そこは黒一面の空間であった。
かつて、樫間は同じような空間に入ったことがあった。
声のする方向へ進むと、樫間の目の前に人影が現れた。
『…カシマ…ヒロキ…ダナ。』
人影がそう言うと、その姿が頭頂部から露わになっていった。
黒い髪から、青い髪へとその人物の腰より下まで伸びた独特な髪型に、武士のような黒い袴を着た男の姿が現れた。
『…初めまして。カシマ ヒロキ。俺の名は、"アスモレウス"。』
"アスモレウス"と名乗ったその男は、突如流暢な喋り方に変わった。
『早速だが…君に、私の力を授けよう。
君には、ある目的があるのだろう?』
アスモレウスはそう言うと、体中から漆黒のオーラを吹き出した。
(…これって…NAMELESSの…。)
樫間は目を見開いた。
目の前の男が放ったその力は、かつて自身が敵対していた力であったのだ。
「…何故知っている…。お前は…NAMELESSなのか…?それとも…バキオラの…。」
樫間は退かなかった。
自身の目的…それは、BOX・FORCEの壊滅及びクリスティーナ・パンダの抹殺。
2年前、バキオラに聞かされた真実。
奴の目的を、阻止する為に…。
『…NAMELESS…?バキオラ…?なんだそれは。私は、君の目的である"真の悪"を倒す為に、私の"悪魔の力"を貸そうと言っているのだ。』
アスモレウスは、不思議そうな顔をした。
『我々の力は並大抵の人間には使えない。だからこそ、私は君にこの力を授けようと言うのだ。』
アスモレウスから、"四神"と比べ物にならない程の黒いオーラが溢れ出た。
「…そうか。そこまで言うのなら…その力、使いこなしてみせる。」
樫間がそう言うと、アスモレウスの姿は黒い霧のように薄くなり、樫間の肉体へと吸い込まれるように消えていった。
樫間の鼓動が早くなる。
(…これが…アスモレウスの力…。)
樫間の脳内に、アスモレウスが語りかける。
『…我々"七魔箱"の力は全部で7つ。仲間の居場所は、私の力を通じて把握する事ができる。
全ての仲間を集めて、君の好きなように使うといい。』




