[第36話:Ivy]
「………キ……ロキ……ヒロキッ!」
樫間が気を取り直すと、横にはジャッキーが必死に声をかけていた。
その樫間は、身体中に青白いオーラを纏っていた。
「…大丈夫カ…?」
ジャッキーは心配そうに倒れる樫間を抱えて言った。
樫間はボーッとする頭を抑えながら、静かに答えた。
「…あぁ……はい。大丈夫です。」
そして気を取り直して起き上がり、バキオラに視線を向けた。
すると樫間は、自分に起きている異変に気がついた。
(…なんだ…この目…。)
樫間の目には、あらゆる建物が透けて見え、
他人の姿は、サーモグラフィーのように赤いオーラのような姿で映っていた。
「…"氷龍装…吹雪双皇龍…"。」
不思議な空間の中で、緋我が樫間に告げたその名前を樫間が呟く。
すると、樫間の身体を青白いオーラと冷気が包み、
壊れかけていた氷の鎧が、強く鋭く強固な姿へと復活していった。
「…ヒロ…キ…?」
ジャッキーは、樫間の姿に目を疑った。
突如として力を増幅させたことはもちろんだが、
樫間のその姿は、龍そのものになりつつあった…。
(…何なんだ…この力…。)
樫間の身体には、意志と反した力がみるみる内に溢れていた。
(…キサマノ…カラダ…カリルゾ…。)
樫間の脳裏に、そう囁く声が聞こえた。
緋我のそれではない。樫間の知らない、しかしどこか懐かしげな声と共に、
青白いオーラの閃光が放たれる。
「…なんだ。生きていたんですね…。
まあ…殺すだけですけどねっ!」
バキオラは樫間の姿を見てそう叫んだ。
その表情は、獲物を仕留め損ねた悔やしさよりも
この状況を楽しんでいるようであった…。
まさにそれは"凶気"と呼ぶに相応しい。
「『貴様…バキオラ…と言ったか?…樫間紘紀をボコったくらいで喜んでんじゃねぇよ。この私、"青龍銃"…いや、"ドラヴルム・ドラゲニオン"を殺してみせろっ!』」
樫間の身体を乗っ取った"青龍銃"…いや、"ドラヴルム・ドラゲニオン"はそう言うと、地面を抉るほど蹴りつけ一瞬にして姿を消した。
次の瞬間、"ドラヴルム・ドラゲニオン"は竜の爪のような氷の右手でバキオラの顔面を捉えた。
そして、片腕でその体を持ち上げると、竜の脚のような左足を回転させてバキオラを蹴り飛ばした。
それだけに止まらず、"ドラヴルム・ドラゲニオン"は吹き飛ぶバキオラの身体を追いかけては殴打し、まるでボールのようにバキオラの身体を操っていた。
「…ジャック、マズいぞ…。」
リズは、その光景を見ながらジャッキーにそう言った。
リズ、ジャッキー、咲波の3人は目の前の異様な光景に、只々立ち尽くして見ているしかなかった。
「ありゃ"箱装"に乗っ取られてる。"十二神器"には、どうやら俺たちも知らない未知の力があるのかも知れねぇ…。」
咲波も続けて言う。
「…彼の使う"青龍銃"の力…。
私たちの力よりも、遥かに恐ろしいものなのかもしれませんね…。」
樫間こと"ドラヴルム・ドラゲニオン"の力は、攻撃を重ねる度に威力を増し続けた。
それは、同時に樫間の肉体へのダメージも与え続けた…。
(…待てよ。)
ふと、樫間の動きが止まった。
バキオラは、大型ビジョンの液晶に身体を埋め込まれて身動きが取れずにいた。
(…返せよ。俺の身体。)
すると、樫間の身体に宿る"ドラヴルム・ドラゲニオン"の力が落ち着きを見せた。
樫間の意思が"ドラヴルム・ドラゲニオン"を制している。
((…何言ってやがる。もう少しであいつを潰せるんだぞ。))
"ドラヴルム・ドラゲニオン"は、再び樫間の身体を乗っ取ろうと試みた。
しかし、樫間はそれを拒んだ。
(…あいつは、俺がやる。)
((…はぁ?あいつに半殺しにされてた奴がよく言うぜ。
第一、俺の力がなきゃお前はあいつに勝てない。))
樫間の肉体の中で、"ドラヴルム・ドラゲニオン"と樫間の意思が争っていた。
(…だから、寄越せよ。)
((…はぁ?))
(お前の力、全部俺に寄越せっつってんだよ。)
ふと、樫間の身体から爆風が現れた。
青白い爆煙の奥からは…
「…待たせたな。"氷龍装…吹雪双皇龍"…。
バキオラ、テメェを殺す。」
樫間はそう呟くと、青白い霧を纏った。
次の瞬間、樫間の姿は霧のように消えて無くなっていた。
「…あらあら。今度は手品の披露ですか。
私にそのような小細工が通用するとでも?」
バキオラは、胸部の砲口にエネルギーを溜め
樫間の姿が現れるのを待った。
その時、バキオラは妙な気配を感じ取った。気配の先は背後にあった。
咄嗟に振り向くと、バキオラの体は背後から迫っていた氷の龍の口内に飲み込まれた。
「…やったカ…!?」
不安そうにジャッキーは、その光景を見つめて言った。
すると、バキオラを飲み込んだ氷の龍が、突然腹部から閃光を放って球体へ変形し始めた。
『…内部爆発する気ですか!?あれっ!』
次なるチャンスを伺いながら、残された3人はそれぞれ散って機会を待っていた。
戦闘の様子を見ながら、咲波は通信を繋いでそう叫んだ。
「…させねぇ。」
すると、バキオラを飲み込んで球体型に変形する氷龍の前に、樫間が姿を現した。
「…"双皇龍極弾"…っ!!」
樫間が手にした2丁の銃から、新たな氷龍が2体現れた。
2体の龍は、お互いに入り乱れながら次第に高速スクリューしていった。
やがて勢いを増した2尾の氷龍は、1本の氷の矢のように鋭くなって
バキオラを飲み込んだ氷龍の球体に突き刺さった。
その瞬間、球体は激しい閃光共に大きく爆発した。
爆風で地面を揺らすほどに、激しく。
「…やった…のカ…?」
ジャッキーの声は不安を隠せずにいた。その不安はすぐに現実のものとなった。
爆風が晴れると、そこにはボロボロになったバキオラの姿があった。
「…ふふふっ…。まさか…私がその程度の攻撃で…やられるなど…。」
バキオラの言葉には、どこかまだ戦闘の意思を感じさせるものがあった。
しかし、バキオラの肉体はとても戦闘のできる状態ではなかった。
片や、樫間も限界に近い状態である。
樫間の肉体に纏われた、"氷龍装:吹雪双皇龍"は、
次第に青白い輝きを失い、氷のように溶けかけていた。
樫間は震える右手を、右耳の通信機に当てた。
「…奴を仕留める…。トドメの1発を放つっ!」
樫間は、口から吐血しながら叫んだ。
流れる血を強く噛み締めて、2丁の銃口をバキオラに向けた。
「ダメだ紘紀ッ…!!!
それ以上やれば、君は"青龍銃"の自然エネルギーに体が耐えられなくなルッ!!」
ジャッキーは、精一杯樫間に叫ぶが…。




