[第23話:Zion]
[第23話:Zion]
余裕の高笑いを見せるヴァリアルの前に、迅雷寺と菊野は並んで立った。
「…私達が、ここで倒すっ!」
迅雷寺は桂を思い、目に涙を浮かべながらヴァリアルを睨んで叫んだ。
「はっはっはっ!お前ら女2人に何ができる?現に眼帯刀野郎は死に、出しゃばり炎刀野郎は瀕死だぞ?お前らなんか、片腕で十分だ!」
ヴァリアルは、睨む迅雷寺と菊野に向かってそう言った。
「…師匠の仇…。」
「…父の仇…。」
迅雷寺と菊野はそう言うと、刀に手をかけ、勢いよくヴァリアルに向かって飛び出した。
「「"混合流 雷菊"っ!!」」
迅雷寺と菊野は、それぞれ黄色と緑に光るオーラを放ちながら、ヴァリアルに突っ込んだ。
2人がヴァリアルに接触しかける瞬間、2人の姿が消え、気がつくと2本の光がヴァリアルを貫いていた。
「…なっ…にっ…!?」
ヴァリアルが慌てて振り向くと、迅雷寺は2本の刀を構えた。
「"桂双流一舞、翠翔雷音(かつらそうりゅういちぶ、すいしょうらいおん)"っ!」
迅雷寺は翠色と黄色に輝く2本の刀を、ヴァリアルに交差状に振り下ろした。
「…ぐっ…ちょこまかとぉぉぉぉぉぉ!!」
ヴァリアルはそれを真っ向にくらい、少し怯みながら迅雷寺に叫んだ。
「…甘いよ。背中取られちゃうよ?」
すると、ヴァリアルの背後から菊野が刀を振りかぶった。
「"菊野流柒の咲、菊柒星"っ!」
菊野は、星を描くようにヴァリアルに刀を振るった。
「…させるかよぉぉ!!」
ヴァリアルはそう吠えると、背中から尻尾のような黒いオーラを生やして対抗した。
その先端には、鋭い刃が付いていた。
攻撃を繰り出していた菊野も、ヴァリアルの攻撃に圧倒され、守りの体制に入る。
迅雷寺と菊野は、一旦攻撃を止めてヴァリアルから身を引いた。
「…小賢しい女共が…ぶっ殺してやるよぉぉ!!」
ヴァリアルはそう叫ぶと、全身をよりドス黒いオーラで包んだ。
「…"魔装:ガラハッド"…」
その姿は、毛を逆立てた獣のように、黒く荒々しいオーラを放っていた。
四つ足の黒い獣のような姿になったヴァリアルは、周りに9本の刃を纏っていた。
「ヴォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」
ヴァリアルは、獣のように吠え上げた。
「…何あれ…まるで獣じゃない…。」
菊野は、変わり果てたヴァリアルの姿を見てそう言った。
「…ならば私もっ!!」
迅雷寺は、身体に纏われた"雷虎装"から、さらに蒼く黄色い雷のようなオーラを放った。
「"雷虎装、桂流十一の舞、雷音"っ!」
そのオーラは黄色い虎の姿となり、迅雷寺の目には雷が走った。
「行くよっ!!」
迅雷寺がそう言うと、その姿は一瞬にして消え去った。
次の瞬間、ヴァリアルを飲み込むかのような巨大な黄色い虎が、ヴァリアルの目の前に現れた。
「…百獣の王に…ひれ伏せっ!!!」
巨大な黄色い虎は、ヴァリアルを一瞬にして飲み込むと、無数の電撃を走らせた。
「…菊野っ!」
「…任せなっ!」
迅雷寺が叫ぶと、菊野はそれに応えるように刀を構えた。
「"玖の咲、菊乱舞(くのさき、きくらんぶ)"っ!!」
菊野の剣撃がヴァリアルの全身に無数に放たれる。
ヴァリアルは、呻き声を上げながら縮こまった。
「…ヴォォォォォォォォォッ!…コロス…ブッコロスッ!!!!」
ヴァリアルは、叫びと共に黒いオーラに包まれた9つの刃を、2人に放った。
「…なんなの…どうなってるのよ!こいつっ!」
迅雷寺は、必死に攻撃を受け止める。
「…"コア"を潰さなきゃ…NAMELESSは倒せない…。やつの"コア"をっ!」
菊野も攻撃を受け止めながら、迅雷寺に叫んだ。
「…やるしか…ないっ!!」
迅雷寺は全身から、より強いオーラを放った。黄色い稲妻は、青白い稲妻へと変化していった。
「…仕方ない。今回ばかりは、あなたに任せるわ。…確実に仕留めてっ!」
菊野はそう言うと、ヴァリアルに向かって突っ込んだ。
「…"菊野流…改式十咲"…」
菊野がそう呟くと、地面から巨大な緑色の茎が現れた。
その茎は、みるみるうちに伸び上がると、ヴァリアルに向かう菊野に追いついた。
「…"春蘭秋菊"っ!」
菊野の振るう刀に合わせて、茎は大きな手の様な形となり、ヴァリアルを掴もうとする。
しかし、ヴァリアルも対抗するように、黒く大きな手のようなオーラで、茎の進行を阻んだ。
「…まだまだぁ!"改式十咲、淵明把菊"っ!!」
菊野が再び大きく刀を振るうと、茎の手はさらに大きさを増し、ヴァリアルの出す黒い手を包み込む。その手はさらに大きさを増し、ヴァリアルの身体ごと大きな掌で包みあげた。
「…今っ!!!」
菊野が上空に向かって叫ぶと、青白い雷の虎は、鋭い一本の線となり、ヴァリアルに向かって突き進む。
「…"桂流…終の舞、雷王"…」
迅雷寺がそう呟くと、ヴァリアルの身体の中心を真っ直ぐ青白い稲妻が突き刺さる。
青白い稲妻は、ヴァリアルを包み込んでいた茎の手ごと、真っ二つに切り裂いた。
「…闇を斬り絶つ、蒼白の稲妻…。」
ヴァリアルは、荒々しい黒の獣の姿から元の人型の姿に戻った。その胸元は、まるで虎の腕が突き刺さったようにポッカリと穴が開いていた。
「…俺が…やられるとは…。」
ヴァリアルは、呆然とか細い声で呟く。
その目には、もはや生気は宿っていない。
「…へっ…俺たち"四神"を倒したところで…こんなもん…単なる"序章"に…すぎねぇ…。」
ヴァリアルの身体は、溶けるようにみるみるうちに消えていった。
「…どういう意味?」
迅雷寺は、消えゆくヴァリアルを背に、そう問いかけた。
「…"あの人"は…まだまだ切り札を持っているさ…。お前らも…所詮"あの人"の…手札にすぎねぇんだよ…いい加減気付け…。」
そう言うと、ヴァリアルは消滅した。
「…何それ…ハッキリ言ってくれなきゃ…わかんないじゃない…。」
迅雷寺はそう呟くと、2本の刀を握ったまま前のめりに倒れた。
「…椎菜っ!!!」
菊野はそう叫びながら、倒れる迅雷寺に駆け寄った。
迅雷寺の体に、何処からか桂の愛用していた紫色の羽織りが被さった。
(…椎菜…よくやった。よく頑張った。)
木枯しのような風と共に、戦場の荒れた空気は、一瞬にして消え去っていった…。




