[第19話:Chamomile]
[第19話:Chamomile]
「何!?矢島と蒼松が事故で重傷!?」
翌朝一番、昨夜の出来事はBOX・FORCEにも伝えられた。
「はい…首都高湾岸線で、進行方向とは逆向きで、車の前方部分が大破した状態で2人は発見されたそうです…」
通信員の実村は、彩科院邸会議室に集められたBOX・FORCEメンバーにそう伝えた。
「…警察の話だと、事故の可能性半分、事件の可能性半分って感じらしい。周辺の道路は特にぶつかったりした形跡がない事から、おそらく、車同士の接触の可能性が高いらしい…」
資料に目を通しながら、樫間もそう伝えた。
「…"NAMELESS"系の可能性はないのか?」
蓮田は、話を聞きながら考察を言った。
「その可能性は低い。僅かだが、その接触と思われる跡や、対向車線の一瞬の目撃情報もある。これが"NAMELESS"と関連があるとは少し考えにくいのかもな…」
獅蘭も、別の警察からの資料を目にしながら言った。
「…くそっ…こんな時に…」
彩科院は、悔しい表情でそう言った。
「…とにかく、今は2人の回復を待つしかないネ。2人抜きでの戦闘も視野に入れながら、作戦を練るしかなイ…」
ジャッキーは冷静にそう言った。
皆、頭を悩ませ、作戦を考えた…。
一方、ウルセウス戦で負傷した白峰は1人病室のベッドで安静状態にあった。
そこに、1人の女性が訪れた。
「…白峰…さん?」
それは、菊野であった。
「…菊野さん。怪我は大丈夫かい?」
白峰は、菊野を見るとそう言った。
「私は軽傷なので…もうほら!この通り元気になりましたよ!」
菊野は、笑顔で両腕を上げ、元気がある事を表現した。
そこから、急に表情を変え白峰に問いかけた。
「…あの時…なんで白峰さんは私たちを守ってくれたの?」
菊野の問いに、白峰は一瞬戸惑いの表情を見せた。そして1度俯き、自らの拳を見つめ、言った。
「…俺が守ろうとしたというよりは、"本能"がそうした。守らなければいけない。そう感じて動いた方が先だった。」
白峰の答えに、菊野の表情は一層険しくなった。
「…も、もちろん、俺自身も守らなければって感じてた。なんでだろうな。第3部隊との訓練の時に、初めて会ったはずなのに。俺は咄嗟に君を守りたいって思ったんだ。」
白峰は冷静にそう言った。しかし、自分の台詞に恥ずかしくなったのか、少し顔を赤らめて、顔を背けた。
少しして、菊野が口を開いた。
「…嬉しい。私、小さい頃からずっと剣道やってたし、父にはかなり鍛えられてたから、ずっと自分の事は自分で守らなきゃって思ってた。ほら、私刀持つと性格変わっちゃうから…学生の頃も周りと馴染めなくて…。」
そう言うと、菊野は白峰のベッドに腰掛けた。
「BOX・FORCEに入ってからも、獅蘭隊長や瑛介さんについて行くのに必死で、自分の事は自分で守らなきゃ、仲間や周りの人を守れないってずっと思ってました。…私、ずっと不安で…こんな私が、仲間や周りの人を守れるのかって。守れるほど、強い人間なのかって。けど、初めてウルセウスと戦った時も、この前ヴァリアルと戦った時も思いました。私はまだまだ強くない。誰かを守るなんて出来るほど強い人間じゃないんだって…」
菊野は、自分の秘めた思いを白峰に打ち明けた。
菊野がそこまで言うと、それを遮るように白峰は言った。
「大丈夫だよ。菊野さんは強い。仲間や誰かを守りたいって気持ちを持てるのは、強い証拠だ。」
そう言うと、白峰は菊野の頭に左手を乗せた。
「自分をそう卑下するな。自分を信じてやれるのは、結局は自分自身だ。俺は師匠からそう教わった。どんなに強くても、負ける時はあるし死ぬ時は死んでしまう。もし、その時に後悔しなければ、それでいい。」
白峰はそう言うと、菊野の頭を撫でた。
「菊野さん…いや、里海。自分を信じろ。自分を信じて戦え。背中には俺がついている。もしもの時は俺が守る。…こんな状態で言っても説得力はないかもしれないが…俺は君を守りたい。…変か?」
白峰は、恥ずかしさを隠しながらそう言った。
「…ううん。とっても嬉しい。…私、白峰さんのこと…」
菊野がそう言いかけると、白峰は遮るように言った。
「渉でいい。」
そう言うと、白峰は自分の口で菊野の口を塞いだ。
一方、第2部隊のシェアハウス地下の特別訓練室へ、迅雷寺は向かった。
訓練室の扉を開けると、騒々しい爆音が鳴り響いていた。
「…うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
訓練室は、あたり一面氷に覆われており、室内気温は、真冬並みに下がっていた。
訓練室の中央には、樫間の姿があった。
「…まだまだ…こんなんじゃっ!」
樫間は、両手に持った"青龍銃"を、自分自身の体に向けて撃ち込んだ。
「…かっしーっ!」
迅雷寺が樫間に近づこうとすると、樫間の全身を青白いオーラが纏った。それはみるみるうちに龍の形に変形し、樫間の体に纏わり付いた。
「…"氷龍装:双頭氷龍銃(ひょうりゅうそう:ツインヴルムドラゴガン)"っ!」
樫間はそう叫ぶと、二丁の銃を天井に向けて構えた。
「…"氷龍乱嵐雨"っ!」
樫間が引き金を引くと、2体の氷の龍が現れた。龍は辺りを暴れ狂いながら天井に向かってぶつかった。
龍は粉々に砕け散り、氷の破片が訓練室に降り注いだ。
「…うっ…」
すると、樫間は膝を着いて崩れ落ちる。
「かっしーっ!!」
迅雷寺は、すかさず樫間に駆け寄った。
「…迅雷…寺…さん…」
樫間は、声にならない声でそう言った。
「かっしー…あまり無理するとこれからの戦闘に…」
迅雷寺は、樫間の体を抱えながらそう言った。
「…まだまだだ…こんなんじゃ…隊長としてやっていけない…俺は…強くならなければ…」
樫間は、自力で立ち上がろうとするも、震えていた。
まだ完治していない傷口からは、僅かに出血もしていた。
そんな樫間を、迅雷寺は急に自分の元に抱き寄せて言った。
「…ごめんね。私が弱いばっかりに…私が全然頼りにならないから、かっしーにばっかり無理させちゃってるよね。」
迅雷寺の行動と、その言葉に樫間は驚いた。
樫間は動けずに、迅雷寺の胸の中で言った。
「…そんな事はないですよ。俺が、今まで何度2人に助けられた事か。こんな、ガキで未熟な俺が、隊長なんて肩書きでやれてこれたのは、頼りになる兄貴と姉貴みたいな2人がいたからです。」
樫間の言葉を聞くと、迅雷寺は目に涙を浮かべた。
樫間は続けて言う。
「…初めて、"四神"と対峙した頃から、継斗とジャックさんと、再編成の話をしていました。けどそれは、誰かが強いから、誰かが弱いからって訳では全然なくて、ただ単純に俺達が奴らに勝つための最善策として出されたんです。」
樫間は、少し落ち着いて、ゆっくり体を自分で起こした。
「…正直、彩科院隊長1人でヴァリアルに勝てるとは思っていません。俺たちの中では、迅雷寺さんと菊野、2人がカギを握ってると思っています。だから…必ず奴を倒してください。俺は、バキオラを必ず倒します。」
樫間はそう言うと、迅雷寺にニコッと笑みを見せた。
「…かっしー、信じてる。」
迅雷寺はそう言うと、樫間の顔に自分の顔を近づけた。
樫間の唇に何かがフワッと触れると、迅雷寺は急に立ち上がり訓練室を走り出た。
事故により負傷した矢島と蒼松は、集中治療室から各々個室の病室に移された。
未だ意識が戻らぬ2人。
(ここは…)
蒼松は、広い草原に生えた一本の大木に寄りかかり座っていた。
蒼松は、意識の中の世界で目を覚ました。
「…やっと起きた。いつまで寝てんだよ。聡悟。」
蒼松の目の前に、1人の女性が現れた。
「…えっ…由梨さん…何で…!?」
蒼松は、驚いたようにその女性を見た。
彼女の名は、由梨 千保。
初代第2部隊隊長を務めた、凄腕スナイパー。
「何でって…もしかして寝ぼけてる?聡悟が誘ったから、何もない自然の中に来たんじゃん。忘れちゃった?」
由梨は優しく微笑みながらそう言うと、蒼松に近寄り、蒼松の正面にしゃがんだ。
「聡悟、あんたその目どうしたの?」
由梨は、不思議そうにそう聞いた。
「…これは…NAMELESSとの第一次大戦の時にやられて…え、由梨さん覚えてないんですか??」
蒼松は、未だに生きているはずのない由梨が目の前にいる事が信じられなかったが、自分に起きた事実を淡々と話した。
蒼松は第一次大戦の際、由梨を庇いNAMELESSの攻撃に直撃。右目を失った。
そして今は特殊な義眼により、その目を補っている。
「そうだっけ?…そっかぁ。私のせいで…ごめんね。」
由梨は、悲しそうな表情をして蒼松に謝った。
「そんな!由梨さんのせいじゃないです!俺が…勝手に飛び出してったから…」
蒼松は俯きながら弁解した。
すると、由梨は蒼松の頭に手を置いた。
それは確かに、由梨の手の感触だった。
「聡悟。あんたは優しく強い子だよ。時に、その優しさは誤解を生むかもしれないけど、あんたはあんたの生き方に自信を持ちな。何てったって、私の部下なんだから。私の部下であって、私の優秀な一番弟子なんだよ。」
由梨はそう言って、蒼松の頭を撫でた。
そしてその手を、蒼松の右頬に動かした。
「私の力でよければ、聡悟に貸してあげる。聡悟。いつまでも後ろばっか気にしてちゃダメだよ。あんたの隣には、優秀な仲間がたくさんいるじゃない。その仲間たちと、前向いて進みな。」
由梨はそう言うと、手に青いオーラを纏い、それを蒼松の右目に放った。
青白い閃光が、一瞬辺りを包んだ。
「ほら、みんなが待ってるよ。聡悟。」
そう言うと、由梨は蒼松の腕を引っ張った。蒼松がふらつきながら立ち上がると、由梨の姿は薄く、青白い光に包まれていた。
「聡悟。私もあんたの事、割と好きだったよ。」
由梨は、ニコッと笑みを見せた。
「由梨さん…!」
「…ほら、最後ぐらい"ちーさん"って呼んでよ。そーちゃん。」
由梨の姿は、みるみる薄くなり、今にも消えそうになっていた。
その目には、薄ら涙が浮かんでいた。
「…ちーさんっ!」
蒼松の目にも、涙が溢れていた。
蒼松は力の限り、そう叫んだ。
「そーちゃん、あとは任せたよ…」
すると、そこに由梨の姿はなく、辺りの景色は真っ白に輝いていた。




