[第10話:Bamboo peach]
[第10話:Bamboo peach]
蒼松たち第2部隊のシェアハウスの地下訓練室。
今日もそこで、第1部隊と第3部隊、そしてセルガニョータ・コアラによる、特別訓練が行われていた。
「…ふぅ、今日で4日目か…コアラ!どうだ?進展は…」
獅蘭は、擬似ターゲットとの模擬戦を終え、コアラに言った。
「…そうですね、当初に比べたら皆さん、少しずつではありますが、レベルアップはしています。ですが…まだ弱点というか、課題点は見られる状況ですね。」
コアラの厳しい評価に、一同は深くため息をついた。
「ま、まあ、まだ実践を行っていないので何とも言えないですよ!皆さんの実力は、訓練というよりも現場での即興の対応力。やはり、若さゆえの成長なので。」
コアラは苦し紛れに弁解した。
「俺は若くねぇけどな。」
蓮田がボソッと反論した。
「ま、まあそうですけど…蓮田さんはやはり他の方に比べて、状況把握力は優れています。
自分の相手だけじゃなくて、他の方の相手も把握して動いています。そこはやはり、蓮田さんの人生経験値の高さですよ!」
コアラはあたふたしながら言った。
「若くないのは否定しないのな。」
蓮田は素直に喜べず苦笑いをした。
「みなさ~ん!お昼の時間ですよ~!」
すると、一同のいる訓練室に、1人の女性が入ってきた。
「お、これはこれは実村さん。ありがとうございます。」
彼女の名は、実村 萌奈実。
BOX・FORCE本部に所属する通信員の1人。
「もなみん!久しぶり!」
迅雷寺は彼女の顔を見ると、笑顔を見せた。
「お~!しぃじゃん!元気にやってる?」
実村も笑顔で言った。
「実村さんと知り合い?」
樫間が迅雷寺に言った。
「しぃとは中学からの幼なじみなんです。私としぃは、大学で環境学を学んでました。その後、私は政府直下の環境管理センターで働いていて、BOX・FORCEに呼んでもらったんです。まあ、皆さんとは通信時にしかお話ししないので、あまり顔と名前を一致してもらえる事はないですが…。」
実村は苦笑いで言った。
すると、実村のポケットに入っている携帯が鳴った。
「誰だろう…もしもし?あ、いちろー君?うん、うん…え、本当!?…了解。すぐに向かってもらうわ。ありがとう。」
そう言うと実村は、緊迫した表情で皆に言った。
「目黒区上空に、NAMELESS反応。数は2体…それがちょっと問題で…。」
実村が言葉を詰まらせると、獅蘭は一同に向けて言った。
「とりあえず、目黒ならここから近い。行くぞ!」
「「「了解!」」」
一同は、目黒に到着すると、その光景に目を疑った。
「…何…これ…」
菊野は思わず呟いた。
目黒駅周辺は壊滅的に破壊され、負傷した人々がそこら中にいた。
「遅かったじゃねぇか。」
一同が、声のする方向を向くと、そこには黒いローブの人影が2人、フードを深く被り、静かに立っていた。
6人は、"箱装"を解放して武器を構えた。
「おいおい、初めましてって言うのに野蛮すぎねぇか?」
黒い人影のうち、背の低い方が言った。
すると、もう1人の背の高い方も口を開いた。
「…あいつら、消せば良いんだろ?」
そう言うと、低い方が答えた。
「バキオラからは、消すなって言われてるけど…いいんじゃね?こいつら消しといた方が、後々楽だろ。」
低い方がそう言うと、2人はローブのフードを外した。
背の高い方は小綺麗な青年の顔、低い方は小学生くらいの子供の顔をしていた。
「行けよ。ウルセウス。」
子供の方がそう言うと、青年が姿を一瞬にして消した。
「…ぐはっ…」
青年の姿が消えたと同時に、白峰が思いっきり吹き飛ばされた。
すると、白峰の立っていた場所に背の高い方が姿を現した。
「我が名はウルセウス。"四神"と呼ばれしNAMELESS…」
青年は、そう言った。
「渉っ!」
迅雷寺は叫んだ。
「…NAMELESS…だと…!?」
獅蘭はそう呟くと、一同に言った。
「瑛さん、白峰を頼みます。紘紀!迅雷寺と共にあのガキを頼む。菊野!お前は俺と、あのクソ野郎をやる…」
「任せろ!」
蓮田は、そう言うと白峰の元に向かった。
「継斗、慎重にやれ…。」
樫間は獅蘭に言った。
「抜かるなよ。紘紀。」
2人はそう言うと、それぞれの方向に散った。
「椎菜さん、行くよ。」
樫間は迅雷寺にそう言うと、子供の方に銃口を向けた。
「おいおい、挨拶もなしにいきなり銃向けるかよ…なるほど。てめぇは銃遣い…」
子供はニヤリと笑みを見せ、樫間に向かって言った。
「かっしー、私が接近して攻める。いつも通り支援お願いね。」
迅雷寺はそう言うと、"雷虎徹"に雷撃を集めた。
「…刀遣い…。」
迅雷寺の姿を見た子供の表情は、樫間を見ていた時の軽視した表情とは違っていた。
「女ぁ…てめぇは俺の獲物だ!」
子供は突然そう叫んだ。
そして、迅雷寺のいる方向に向かって、真っ直ぐ突っ込む。
すると子供のローブの袖から、鋭い一本の刀が現れた。
「女ぁ!このヴァリアル様にその刀、寄越しなぁ!」
子供…”ヴァリアル”と名乗るNAMELESSの刀が、鋭い音を立てて迅雷寺の"雷虎徹"とぶつかった。
「…くっ…この子の刀…重い…。」
迅雷寺は、必死に刀を握りしめ、ヴァリアルの攻撃に耐えた。
「女ぁ…刀が一本だと思ったら大間違いだ!」
ヴァリアルはそう言うと、迅雷寺の左腹部目掛けて蹴りを入れた。
「…なっ…。」
すると迅雷寺の左腹部に、一本の刃が突き刺さった。
ヴァリアルが、蹴り出した足を身の元に引くと、
迅雷寺は左腹部を押さえてしゃがみ込んだ。
「椎菜さん!」
樫間はしゃがみ込む迅雷寺に向かって叫ぶ。
「…くそっ、"氷龍豪雨"っ!」
樫間はヴァリアルに向けて2発、弾丸を撃った。
それは、2尾の氷の龍となって…。
一方、獅蘭サイドは…
「…よくも、渉さんをっ!」
菊野は刀を強く握りしめて、ウルセウスに向かって斬り込んだ。
「よせっ!菊野!迂闊に突っ込むなっ!」
獅蘭は菊野に向かって叫んだ。
「…"魔昇拳"。」
ウルセウスはそう呟くと、向かってくる菊野の刀身を避けて菊野の顔に拳を振るった。
「きゃっ…!」
菊野は、ウルセウスの拳を辛うじて刀の鍔で防ぐも、
その勢いに思いっきり吹き飛ばされた。
「だから言っただろうが…"永猿棒"っ!」
獅蘭は、注意を聞かない菊野に呆れつつも
再びウルセウスに襲撃されぬよう、自身の”箱装”を開放した。
「…行くぞ。"斉天大聖形態"っ!」
獅蘭は、両手足と両肩にオレンジ色のオーラを纏い、
"永猿棒"を振り回してウルセウス目掛けて走った。
「…なるほど、貴様が"孫悟空"ってところか。」
ウルセウスは静かにそう呟くと、
獅蘭を睨みながら拳に黒いオーラを纏った。
「"三凱門"っ!」
獅蘭はそう言うと、"永猿棒"をウルセウスに向けて突き出した。
その拍子に"永猿棒"は、ウルセウスに向かってスルスルっと素早く伸びた。
ウルセウスはその攻撃を、素早く姿を消して避けた。
次の瞬間、ヴァリアルの後ろに姿を見せたウルセウスは、小さな声で耳打ちした。
「…ヴァリアル。あっちの女も剣士だ。やるか?」
ウルセウスがそう言うと、ヴァリアルは答えた。
「…そうか。こっちの野郎を倒したら、そっち行く。」
ヴァリアルは、左側の袖から伸びる刀の刃先を舐め、ニヤリと笑みを見せ言った。
すると再び、ウルセウスは姿を消した。
「…"魔堕腱"。」
ウルセウスは、その声と共に獅蘭の後ろに現れた。
そして、獅蘭の背中に黒いオーラを纏った脚で回し蹴りを入れた。
「…なっ…。」
獅蘭は不意を突かれ、その攻撃を真っ向に食らってしまった。
「…"魔昇拳"。」
ウルセウスは、すぐに獅蘭に向けて拳を振るった。
「…ぐはっ…」
拳が当たった瞬間、獅蘭は口から吐血した。
そのまま、獅蘭の身体は地面に落下した。
"斉天大聖"のオーラは消え、獅蘭の横には"永猿棒"がカランコロンと音を立てて落ちた。
「…今だっ!!」
蓮田がそう叫ぶと、爆発音と共に、白峰が炎の拳を構えウルセウスに突っ込んだ。
「混合奥義、"爆炎"っ!」
白峰の拳が、ウルセウスの左頬にまっすぐ撃ち込まれた。
その攻撃がウルセウスに当たると、白峰の拳から爆発が起きた。
「…やったか!」
攻撃を与え、一歩退いた白峰の隣に蓮田が駆け寄って叫んだ。
「…拳の感触は確かに…当たったはず…。」
すると、爆風の中からウルセウスが現れた。
ウルセウス、は膝をついてしゃがんでいたが、スッと立ち上がりローブの埃を払って、真っ直ぐ白峰達の方向を睨んだ。
「なっ…無傷だとっ…!?」
確かに、白峰の拳が当たったように見えたウルセウスの左頬は、何事もなかったかのように"無傷"だった。
「くそっ…俺の"子華火"の爆破を使った白峰との合わせ技、そう数多くは使えねぇぞ?お前のその腕…代償が大きすぎる。」
蓮田はそう言いながら白峰の右腕を見ると、白峰の右腕からはかなりの量の血が流れていた。
蓮田の"箱装"である"子華火"は、いわば「爆弾ネズミ」である。
その"子華火"を拳に持ちながら、拳が相手に当たる僅かなタイミングで爆発をする事で、打撃以上のダメージを与えるという、蓮田と白峰の即席技。
「…白峰…無事だったか…。」
獅蘭は、負傷した体を無理矢理起こしながら、白峰に向かって言った。
「隊長っ!」
蓮田はそう言うと、獅蘭に駆け寄った。
「…渉さんっ!」
菊野はウルセウスに殴られ、落下した衝撃で気を失っていたが、正気を取り戻し白峰の元に駆け寄った。
白峰は、まだ少しふらつきながら向かってくる菊野を腕に抱え込んだ。
「菊野さん!大丈夫…?」
菊野は、そこでようやく正常に戻り
状況を瞬時に把握して頬を赤らめていた。
「…この程度か。生かしておくほどでもない。」
ウルセウスは呆れた口調でそう言うと、両腕に再び黒いオーラを纏った。
そのオーラは、次第に大きくなって威力を増している。
「…自分達の弱さを悔やむが良い。
"魔壊覇"。」
ウルセウスは拳を握った両腕を、
真っ直ぐ白峰達に向けた。
「…終わりだ。」
樫間、迅雷寺サイドー
樫間の放った2尾の龍は、いとも簡単にヴァリアルに斬り砕かれた。
「なんだぁ?この蛇は。舐めてんのか?てめぇ。」
嘲笑うように。ヴァリアルは樫間に言い、蹲る迅雷寺に近づいた。
迅雷寺のいる三歩先辺りに、"雷虎徹"が転がっていた。
「女ぁ、この刀は俺が貰ってくぜ。」
そう言うと、ヴァリアルはローブをフワッとたくし上げた。
ローブの裾からは、無数の刃先がチラついている。
「…させないっ!」
迅雷寺はそう言うと、立ち上がりながら"雷虎徹"を拾って態勢を構えた。
「なぁんだ。生きてたか。心臓を一突きしてやれば良かったぜ。」
ヴァリアルは迅雷寺を見て、つまらなさそうにそう言った。
すると、ヴァリアルに向かって無数の氷の弾丸が飛んできた。
ヴァリアルは、それを避けるために後ろへ身体を退けた。
「椎菜さん、無理しないで。傷が深い…。」
迅雷寺の前に、樫間が姿を現した。
樫間の"箱装"、"青龍銃"から溢れ出た氷が、樫間の全身に鎧のように纏わりついていた。
その姿は、『氷龍』と言うに相応しい姿であった。
「…あ、ありがとう…かっしー…。」
迅雷寺は、出血により意識が遠のく中
樫間の姿だけはしっかりと認識して言った。
「…ってぇなぁ!何しやがんだてめぇ!野郎に用はねぇんだよ。俺の相手は、その女なんだよ!」
ヴァリアルは、樫間に向かってそう叫んだ。
「…うるせぇよガキ。潰すぞ。」
樫間は静かに俯いてそう言った。
そして顔を上げ、龍の目のように鋭い目付きでヴァリアルを睨みつけた。
「…第4形態…"結凍爆龍"っ!」
そう言うと、樫間の背中から2枚の氷の羽が生え、腰からは氷の尾が生えた。
両手の銃は氷の龍の頭部を纏い、2尾の龍は騒々しく吠えた。
「爆氷無限弾っ!」
樫間がそう言うと、両手の2尾の龍は、吹雪のような激しい氷の塊を、ヴァリアルに向けて無数に放った。
その弾はヴァリアルに命中したのか、
ヴァリアルを白い爆発が覆う。
「…ってぇなぁ。でけぇ口叩く割に、大した事ねぇじゃねぇか。」
その爆発の中からは、確かにヴァリアルの声がした。
すると、銀色に輝く刃が爆風を真っ二つに切り裂いた。
「もう終わりか?」
両袖から、鋭く長い刃を見せながら、ヴァリアルが言った。
「…遊びは終わりだ。殺すよ。"∞斬"」
ヴァリアルはそう言うと、裾から無数の刃先を見せながら樫間と迅雷寺に向かって突っ込んだ。
「死ねよ。ド三流人間がぁぁぁ!!!」
ヴァリアルが叫んだ。
すると、2つの鋭く青い稲妻が、
ヴァリアルとウルセウスの右肩を貫いた。
「うっ…」
ヴァリアルは勢いそのまま、地面に叩き落とされた。
ウルセウスも、攻撃態勢を崩されて地面に膝を付く。
「…なんだ、これは…。」
ウルセウスがそう呟くと、戦場に1人の背の低い男が現れた。
「どうやら、間に合ったみたいだネ。」
水色に輝く髪を靡かせながら。その男は言った。
「大丈夫かイ?"リコリス"に"ローズ"のみんナ。」
その男は、右腕にロングスナイパーライフルを構えて言った。
その銃口は、微かに静電気のような小さな電撃が発生していた。
「…あれは…誰なんだ…?」
樫間は、その男を見て言った。
その男は、自分達がいくら攻撃しても傷1つ付けられなかった相手の肩に、弾を貫通させてみせたのだ。
「ボク?ボクの名前は、
ジャッキー・小秋・マイケル。
BOX・FORCE特殊部隊"デイジー"の
…隊長サッ!」




