「経過」をどのようにコントロールするか ④
さて、前々項で「逆風」がなかった人、お待たせしました!
ここでは物語を長くするために絶対に必要な「逆風」についてお話しするよ!
さて、「逆風」とはなにか……これは主人公を「解決」から遠ざけようとするものすべてをさします。
「逆風」は物語に対する迂回路の役割を果たすので、「経過」の中にこれを意図的に配置することで物語の長さを調整することが可能になります。
桃太郎のお話には、実はこの「逆風」が存在しません。
だからこそシンプルかつ簡潔にお話をまとめることができるのですが、逆に桃太郎を十万文字の物語として書けと言われたら「逆風」をいくつか組み込まないと、「発生」と「解決」の間に十分な距離を作ることはできないでしょう。
このとき、どのぐらい強い「逆風」を吹かせるかという問題もあります。
桃太郎の少し長いバージョンでは「鬼ヶ島に渡りたいが舟がない!」という「逆風」が置かれていることもあります。
ただしそこは絵本であるという特性上、次のページでは「雉が船を見つけました」と、あっさり「逆風」が「解決」してしまっているのですが。
ですから、この程度の「逆風」では物語を引き延ばすには全く役にたたないのです。
「逆風」は「解決」から主人公を遠ざけようとするように吹くものであること。
そしてこの逆風が強ければ強いほど迂回路は長くなり、物語を長く書くことができるようになるのです。
簡単でしょ?
どんな「逆風」をどこに置くのかによって、物語は形が変わってきます。
ですから「これをここに置けば絶対に間違いなし!」というアドバイスは私にはできませんし、そもそも、そんな絶対的な正解など存在するわけがありません。
それを決めることができるのは作者であるあなたと、あなたの物語だけなのです。
ですからここでは具体的な「逆風」の作り方をすこし解説するにとどめます。
まずはなぜ「逆風」と呼称するかについて。
それは物語には進むべき方向があるからです。
つまり物語は「解決」に向かって進んでいく、その通り道の途中で「解決」の方向から吹いてくるから「逆風」。
物語の横っ面や「発生」側から吹く物は、それがどれほど出来のいいエピソードであっても「逆風」としては機能しないのです。
ゆえに「逆風」とは「解決」に向かうために必要な迂回路だと言い換えることができます。
具体的に、桃太郎の文字増しを検討してみましょう。
今回私が用意したのは「A:旅の途中、犬の出身地がピンチになってこれを助けに行くエピソード」と「B:犬を仲間にしたいが、犬は野犬団の群れのボスであり、簡単にこの群れを抜けるわけにはいかないエピソード」です。
このどちらが「逆風」になっているか、わかりますか?
A案は、一見すると長い物語が作れそうですよね。
つまり旅を中断して犬の村へ行き、村のピンチを「解決」してから本筋である鬼ヶ島への旅に戻る。
それに感動のエピソードがいくつか作れそうですし、お話はきっと面白く膨らむでしょう。
しかしこれ、一つも「逆風」じゃないですよね。
逆にB案は、このエピソードをクリアしないと「犬を仲間にする」という本来の本筋を進むことができない。
それ故に「逆風」として十分に機能するでしょう。
さて、「解決」を決めずに書いている人、まずはこの点を見直してみてください。
「解決」が決定していない場合、物語の進む方向が不明であるため、主人公にどれほど厳しい課題を与えたとしても、それが「逆風」として機能するとは限らないのです。
そうした書き方をしているとA案のようなこぼれ話をつなぎ合わせた、つぎはぎの物語が出来上がりがちです。
この場合の修正方法としては、とりあえず「解決」を仮でいいから決定して、こぼれ話の形になっているものをきちんとした「逆風」として微調整してやるという手があります。
例えばA案、犬の村の危機というのが「鬼ヶ島から逃げてきた鬼による襲来」だとしたらどうでしょう。
しかもその鬼が幻の島――ONIGASIMAへ向かうためのキーアイテムを持っているとか、そこまで組んだらパーフェクトです。
――鬼が出たぁ? そりゃあ、このMOMOTAROさんの出番だなぁ、おい?(武闘派)
のように、桃太郎が「どうしてもその迂回路を通過しなければならない理由」もつけられるってぇわけです。
これにより物語には統一感が生まれます。
つまり「発生して、なんやかんやあって、解決する物語」ではなく「発生して、艱難辛苦の末に、解決する物語」になるわけです。
さて、B案ですが、こちらにも落とし穴がないわけではないのです。
このエピソード自体の「発生→経過→解決」が短すぎる場合、これは尺増しに対して効果を及ぼさない――そうです、「鬼ヶ島に渡るには船が必要→船を見つけたよ」になってしまうのです。
こちらの問題の解決は少し複雑で、エピソード自体の「発生→経過→解決」が短すぎないかを検討する必要があります。
実はいま検討しているのは物語の「主軸」の部分であり、ここに「発生→経過→解決」があるのと同じように物語を章に分割したならば章ごとに、エピソードに分割したならエピソードごとに「発生→経過→解決」があるのです。
しかし今回は「解決」までの距離を決めるための主軸の話なので、この解説は後に回します。
まずは「主軸」を見直してみましょう。
さて、あなたの物語にはいくつの「逆風」がありましたか?
実は公募目当てで十数万文字の物語を書く場合、「主軸」の段階では「逆風」は二つもあれば十分です。
「逆風」があるのと同じように「順風」もあり、特に苦難もなく解決に向かう出来事というのも「過程」に含まれるのですから、「逆風」ばっかりみっちりと十個も二十個も詰め込んでしまうと、物語はとんでもなく大長編になってしまいますよ。
いま手元にある物語の中から「主軸」となる「発生」と「解決」を割り出して、その道筋にどうしても必要な「経過」だけを選び出してください。
この時、作者にはすべてが必要なものに見えてしまうかもしれない。
たしかに作者は自分が必要だと思っている物語を書くのですから、この作業はとても苦しいものとなることでしょう。
しかし大事なのは物語を「読む」のは作者ではなく読者だということです。
いまここでやっている作業は読者が「読む」ときに迷子にならないようにわかりやすい道を作ってあげる作業でもあるのです。
ですからこの段階では作者のこだわりは一度捨てて、あくまでも「作業」としてこなしてしまいましょう。
さて、ここで作者のこだわりを捨てることができた人の手元には何が出来上がるか……それが「自分が書くためのプロット」です。
いま、あなたの物語は「発生」があって、逆風と順風がいくつか配置された「経過」があって、そして明確な「解決」に向かう形になっているはずです。
この段階で「経過」が最低限三つもあれば、まあ、十万文字程度の物語は書けなくないんだけど……逆にこの段階で「経過」が十五個以上ある人はこれを7~8個に減るまで整理するか、五十万文字越えの物語を書く覚悟をしてくださいね。
さて、「主軸」の立て方はこれで終わり。
次回からは、実際にこれを物語に書き起こすときに必要になる「パーツごとの発生→経過→解決」についてお話しますね。




