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61. 2017年 秋

 サーラ・セヴェリーニ。ローマ出身でパリ在住。今年で32歳。仕事はファッションブランドの運営と投資をやってる……と、これでいいもんかね。

 念の為書き留めて電話に戻る。今日は、普段にも増して相手がキョドっている。


「さて、気にしてたことがあるんだけど……今の日付を言ってみな」

『へ? 2015年……の、10月……えーと、19日?』


 協力を頼んできた作家……ロデリック・アンダーソンとの認識はさっそく食い違ってるときた。


「2017年なんだけど、今」

『えっ、マジで!?』


 大丈夫かいこれ。本人の居場所がもう()()()()とかないよね?


『…………あ。……あの、すみません。あの、ほんと怒らないで聞いてほしいんですけど、引きこもりすぎて間違えてたっぽいです……』


 そんなこったろうと思ったよ。パソコンの設定ミスってたとかそんなんだろ!

 ……ん? そういやパソコンの中にもうなんか潜んで……考えんの嫌んなってきた。いや、ホラーとか別に怖くないけどさ。


「それはそうとして、どこまで調べがついてんだい?」

『えっと……ロバートの足跡を書き残して、バックアップも取って……そんだけで、割と必死でした。すみません』

「よくやってるじゃないか。あたしだったらふて寝してるよ」


 と、なると……実際の事件の調査ってのはしてないんだねぇ……。

 ロデリックの文章見る限り、先入観はむしろ要らないノイズになるのかもだけど……それでも、情報は多い方がいい。


「2016年11月23日……この日付が、なんかのターニングポイントなんだろうね」


「未来の日付」だからロデリックには妙なインパクトになったけど、それが「過去の日付」ってんなら、意味合いは変わってくる。


 ……でもさぁ……学生時代の知り合いにこんだけ重たく好かれてたって、もうそれだけで胃もたれしそうだよ……。


「自分の考えも含めてメモっといたらいいんだね?」

『は、はい。なるべく詳細に……』

「分かったよ。任しときな。そんで、アドルフに話は通したのかい?」

『パソコンが真っ黒になっちまって分かんねぇです……』


 何だいそりゃ。ほんとにホラーみたいじゃないか……。

 ……ほんとにホラーなのかもしれないけど……。


「……メールは?」

『送ったけど音沙汰ないです……』


 そんな泣きそうな声で言われたら、こっちまで泣きそうになるだろ……?


『……あの、今こんなこと聞くのも何なんですけど、アンジェロって弟さんいます?』


 不意に、懐かしい名前を聞いた。


「10年前から行方不明だよ。まだ見つかってない。……それで?」


 返事をためらうように、電話先で喉が鳴った。

 それが答えだってことぐらい、すぐわかる。……もう、覚悟はしてたことだ。


「友達が何度も家に来てね、「喧嘩したから謝りたい」って……律儀な子だった。結局、帰ってきたよって連絡もできずじまいさ」

『…………。その子、赤毛でしたか?』

「ああ……綺麗な赤毛だったね。あと、綺麗な顔してた」


 言葉を発することすら、相手はためらっていた。


「あたしは知りたいと思うよ。だから、気にしなくていい」


 それに、これでようやく弔えるよ。

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