49. ある咎人の懺悔
人の気持ちなんざ、結局は誰も理解できやしねぇ。
……だがよ、それは見てくれなんざより……下手すりゃ本人が思ってるよりずっとデカく深ぇもんだよ。
知り合いに、クソ真面目な正義漢がいた。
アイツの正義は歪んだが、そりゃあ当たり前だ。アイツはいつも上っ面しか見てなかったからな。
エネルギーが善意や正義だったら自分は悪行を働いていいってのはなぁ……。……いや、ちっと俺の名前にもなったクソ野郎を思い出しただけだ。
……同じくクソ真面目な奴がいた
生まれ持ったあれそれと、それで寄せ付けたモンに悩んでたが……アイツはとにかく必死に生きてた。立派なもんだと思ってたよ。俺なら耐えられねぇからな。
ああ、普通にゃ耐えられねぇもんなんだよ。
だから想像もできねぇんだよ、俺らにはな。
その憎しみがどれだけ積もったか、
どんなふうに耐えてきたのか、
……それで、どんなふうに弾け飛ぶのか。
忘れんなよ、ロバート。
奴さんは一度も味方になんざなっちゃいねぇ。
いや、そもそも味方になる気すらねぇ。
……絶対に同情すんな。それは、アイツが一番忌み嫌う行為だ。
俺ァそろそろ抜け出してぇんだよ。
……情けねぇ話だが、アンタ以外は頼れそうにないんでな。
ああ、それと、……いや、これはここじゃ言えない。
今夜、また連絡する。
***
医院に向かってる途中に、こんなメールが来た。
アドルフの証言だろうけど……何となくわかってはいる。
僕達はあくまで協力者であって、僕だって信頼されているわけでもない。
……だけど、僕は助けたいんだ。このままにはできない。
彼が復讐心に囚われているのなら、それこそ哀れだ。
──哀れ?
ピシッと、空間が凍る。
その声はどこから?
──哀れだって
──ああ、怒るよ
──彼はそういうモノが大嫌イだカら
何? この、歪な、ひび割れた声。
──復讐ではない
この話し方には、聞き覚えがある。
──ロバート、俺は救われる気もなければ、救う気もない
レヴィくんより低い声で、それでも、「レヴィくん」だとわかる声。
──罪人に罰を。悪には報いを。……その先にこそ、未来はある
あまりにも真っ直ぐで、あまりにもしっかりとしていて、……あまりにも、苦しそうで……
──安心しろ、お前の敵ではない
そうか、僕の目的も過去に向き合って、それで未来へ向かうことで……
──だがな、気を付けろ
それは、確かな怨嗟。
──領分を弁えろ、ロバート・ハリス
それは、確かな苦悩。
──道を違えるな。貴様が救うべきは俺ではない
それは、確かな拒絶。
──俺も、罪人のひとりなのだから
「……ロバート、どうした」
「えっ、あ、いや……何でもない……」
隣を歩く「彼」の翡翠の瞳に、昏い影が差したように見えた。




