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5. title: Spring 2016 part3

title: a certain sinner’s memory

from: I

2006/5/17


──ある罪人の記憶。


「なあ、どうすんだよ……! 死にそうだぞ!」

「例の医者には電話したのかよ!」

「手に負えないから救急車すぐ呼べってよ……!」

「それができたら苦労しねぇっつの!」


 床には、まだ少年とも呼べる体躯が転がっていた。虚ろな瞳は空を見つめ、顔には生々しい傷。左目を確実に潰しているそれは、床にできた染みを上書きするようにダラダラと血を流し続けている。


 浅い呼吸を繰り返し、体に力は入らない。彼に残された時間は、もはやほとんどなかった。……彼は聞いていたのだろうか。命を救う方法が、次第に死体を隠す方法に変わっていったのを。


 いとも簡単に、自らの命が投げ捨てられた事実を……


「な、なあ、この倉庫からちょい離れたところに湖が――……




 ***





 その街に来てから1週間、すぐに波乱万丈なことが起こるとは思っていなかったし、腫れもの扱いは覚悟していた。

 けれど、予想していなかったこともある。


「……アドルフさん」

「何すか?」

「書類整理は、僕がやる仕事じゃないんじゃ……」


 ため息が目に見えるほど、部屋の空気は埃っぽい。正直、ここ数日僕がやっていたことと言えば雑用と巡回くらいだ。……巡回すると変なのに会うけど。


「まあ、仕方ないんじゃ……」

「……僕のこと舐めてます?」

「……そんなことないっす」


 今の間は聞き逃してないぞ。

 アドルフというこの片腕刑事は、相手によって愛想のよさが変わる。まあビジネスで当然と言えば当然の範疇だけれど、一般常識として尊敬する相手にこんな態度はとらない。……書いていてまた腹が立ってきた。


「……これ、読んどいてもらえます?」


 突然手渡された書類に書いてあったのは、十年と少し前の日付。いきなり何だろうと思って読むと、少年が被害を受けた集団暴行事件の概要。

 何でも、当時十五歳の少年が傷だらけで湖に浮かんでるのが発見され、一命は取り留めたもののほとんど廃人状態になってしまった……とのこと。


「……胸糞の悪い事件ですね。抵抗できない少年にこんな……」

「抵抗できないから、憂さ晴らししたい奴らにとっちゃ好都合なんすよ」


 彼は、当然だろとでも言いたそうに吐き捨てた。……いくら好都合だったとしても、許されることではないと思う。

 もやもやとした思いに悩まされていると、次の書類が目の前に置かれた。今度は二年前に足取りが途絶えたという、日本刀を使用する殺人鬼の話。


「……はい?」

「一応目を通しておいてください」


 サングラスの奥から、じっと見つめられている感覚。仕方なく二つとも目を通す。特に関連性があるとは思えなかったけれど、とりあえずメモは取っておいた。

 巡回に向かう際、廊下でこの建物にも亡霊がいる、という何度目か分からない類型の話を聞く。うんざりしている僕に、アドルフの呟きが届いた。


「まあ、亡霊って呼ばれてるのは確かにいるんすけどね」


 ここに書いておくけれど、この手記が出版できるかどうかは微妙でもあるんだ。

 数字が振ってあるものは僕が書いている。……そのはずだ。でも、おかしなものが紛れ込んでいたら申し訳ない。


 協力者……と言い切ってしまうのは、今のところ難しい。


 ……ロデリック。僕の言ったことをそのまま書いてくれ。

 君は、僕が信じられないのか?

 書き留めてくれ。これが真実に繋がるんだ。これが僕の伝えたいことなんだ。正義のために、必要なことなんだ。……きっと、そうなんだ。頼むよ、ロデリック。




 ──兄さん、こんなの作り話だったらよかったのに

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