32. 調査
「えーと、とりあえずSangって絵描きについて……」
素性を明かさない芸術家はざらにいる。
Sangも、その1人だ。
現代アーティストの中では知られていないわけでもないが、そもそも現代アートに興味を示す一般人自体そこまでいない。
立体や映像を使わず、シュールレアリスム的でもポップアート的でもなく古典的な画法からのアプローチってのは、まあ、現代アーティストの中ではそこそこ珍しい。だからこそ、ボルタンスキーやクサマなどに比べるとインパクトが薄いんだろう。
まあ……俺はそもそも絵画にそこまで興味がない。Amazinで画集がヒットするあたり、その筋ではかなり有名だったりするのかもしれない……。
「死体遺棄……?」
ネット検索で、とある記事がヒットした。フランス語だから読めないが、翻訳機能で何とかする。
フランスの端の方、ストラスブールにフルール・ド・コルボって町がある……らしい。
そこの廃屋で、首と四肢を切断された死体が見つかったらしい。まあ要するに、胴体と服だけが残った死体ということになる。
で、部屋の壁際に血で「Sang」のサインがあった……と。
「まあ……立体彫刻かなにかしてたら疑われたろうけどな」
当然、警察は偽造として扱ったらしい。筆跡がよく似ていても、似せることぐらいはできるし、壁に書いたとなると尚更だ。
「で……死体の身元は……」
Camille-Chrétien Barbier(37)
…………思考が止まった。
慌ててロバートに電話を……しようとして、向こうからかかってきた。
「ロッド兄さん、カミーユの首が取れたんだけど……ど、どうしたらいいかな……?」
……そんなの俺が聞きてぇよ……。




