2. title: Spring 2016 part1
──これは、ある警官の告発
最初に、僕の素性を告げておく必要があると思う。キース・サリンジャー。職業は警察官。これから綴ることは、紛れもなく僕が見てきた事実で……現実だ。
そのつもりで、受け止めてほしい。
信じてもらえないのは仕方ないけれど、伝えなければならないと思っている。
この、不条理に満ちた現実を。
あれは、まだ肌寒い時期のこと。突然の辞令にかなり凹んでいた僕は、最後の告白をしようといつものバーに向かった。久しぶりに会う相手は一時間も遅刻してきたが、まあ、彼女はいつもそんなものだ。
「アンタ馬鹿だね」
「えっ」
辞令のことを告げると大げさにため息をつかれる。愛の告白なんか、どこかへ吹き飛んだ。
「くだらない正義感なんか役に立たないって言っただろ」
僕の正義感を下らない、青臭いと言うのが彼女……サーラ・モンターレの口癖だった。
学生時代からの付き合いではあるが、僕からの告白に頷いてくれたことは一度もない。
黒髪のショートヘア、鋭くも凛とした眼差し、健康的な小麦色の肌、すっぱり物事を切っていく態度……全てにおいて魅力的な女性だと思う。
……完全に話が逸れた。元に戻そう。
「……でも、納得がいかない」
「だから、上が決めたんなら仕方ないだろ。割り切らないやつだね。サツなんか向かないっつの」
苛立たしげにグラスがテーブルを打つ。僕だって頭では理解していた。どれだけ正しくても、通用しないことは世の中には山ほどある。
きつめにアイラインを引いた目元が悲しげに細められた。やがてためらいがちに、予測していた言葉が飛んでくる。
「……あの街、良くない噂があるって聞くけど」
非営利団体の利権が大きすぎるとか、過激な差別思想の土壌があるとか……そういった類の噂なら、山ほど聞いていた。
「うん……同僚もみんな、哀れんでてさ」
自嘲気味な笑みが零れたと、自分でも分かる。サーラはしばらく黙って、ぽつりと呟いた。
「……死ぬなよ」
「……死にたくないさ」
悪い噂のある街なんか、どこにでもある。けれど、あの街は格別に息苦しいと知っている。だからこそ、「敗者の街」なんて名前で呼ばれるんだろう。
長々と書いたが、「青臭い正義感でへまをした若きエリート警官が、悪い噂のある街に左遷される」なんて、作り話ですらよくある話だ。……僕自身は、作り話なら良かったのにという気持ちでいっぱいだったけれど。
愛の告白はできなかった。だいたいろくなことにならない……そんな、お決まりの展開がはっきりと頭に浮かんでしまったから。
──そして、ある罪人の証言
赦さない
***
──あれ、おかしいな。僕って……
「キース」なんて名前だったっけ……?