砂漠の街 ~その⑨~
わたし達は戦場と定めた街路を駆け回っていた。
「馬車を奪う!」
路上にあった人影をナイト固有スキル「パスカルクリムゾン」― 6連続コンボ ―で切り伏せ、剣の間合いの外にいた敵には「ルビーフレッシュ」― 攻撃魔法 ―で応戦。2人を瞬殺。
程なく。残敵8人も骸と化した。その場を制圧した一党が、車内へ滑り込む。
間髪入れず、当たりに轟く車輪の音と馬の嘶き。目線を向ける。後方から猛スピードで2頭立ての馬車がこちらへ迫ってくるのが見えた。
御者台に座っていたダンが、馬へ鞭をくれる。追跡者から逃れんと、馬が走り出した。
ふいに、奇妙な風切音が耳朶を打った。それをトリガーに、自動的に身体が動く。
わたしは飛んできた黒い物体 ― 手裏剣だった ― を二本の指で捉え、手のひらを返す要領で投擲していた。全く同じ軌道を辿り、敵の眉間にそれが吸い込まれる。
もんどり打って敵の一人が走行中の馬車から転げ落ちた。
やにわに、ダンの叫び声が聞こえた。
「別の馬車の音がするぞ!」
彼の言葉は正しかった。と言うのも、わたし達の馬車が逆Y字路に乗り入れた刹那。左側面からもう一台の敵の馬車が突っ込むように走り込んできたのだ。
勢い、馬車2台に挟み込まれる形となった。
わたし達がいる荷台が軋む。このままでは遅かれ早かれ、潰される。
わたしの決断は早かった。
「ふーやー、御者頼む」
念のため「ダンと交代だ」と、口早に付け加える。
「分かった!任せて!」
「うぴ、ダン!右を任せた!」
言うやいなや。わたしは御者台横に安置してあった彼の槍を、斜め後方上空へと放り投げた。彼は追い掛けるように(事実、焦った顔をしていた)中空で得物を捕まえると、敵馬車天蓋へ急降下。
その動きと呼応し。うぴが斧を片手に、同じく屋根の上へと飛び移る。
戦士が斧で馬車の天蓋を叩き割り。その裂け目から槍使いが長物を突き入れる。
「じいさん!」
「来い!」
飛び跳ねたわたしを。魔術師がバレーのレシーブの要領で、さらに勢いを付け左側の敵馬車へとかち上げた。
わたしは中空で剣をくるりと回し、逆手に握り直す。そしてそのまま落下スピードに任せ、一気に馬車の天蓋を突き破った。
目前には男達が4人。急な出来事に戸惑っている。この機を逃す手はない。
超接近戦。わたしは自身のトゲ付き兜で、手近の敵の腹をカチ上げた。力量差のせいもあってか。男の腹から臓物が溢れ出す。敵が痛みのためくず折れようとするが、わたしはそれを許さない。
カチ上げの際の回転運動を利用し、右回し蹴りを相手に放つ。男が鞠の様に弾け飛ぶ。後ろ背にいた3人と身体が重なった瞬間。全体重を乗せた突進突き「コルテラタ・アファンド」を放った。
4人を串刺しにし、荷台を覆っていた木の板に縫い付け。ようやく突進の勢いが止まる。男達は即死だった。
「鏖殺!圧殺!」
場を制圧するための咆哮。わたしはこの手の状況下でそれの重要性を十二分に理解していた。
「ワイルド・・・!」
思わず司祭の口から呼気が漏れた。
「どけい!」
いつの間にか飛び移っていたじいさんが、敵御者を足蹴りで滑落死させる。そのまま御者台へ体を滑り込ませる魔術師。
「どうどう」
馬車の勢いが弱まり、停止。その間に右側面の馬車は、民家へ激突していた。
「うぴ、ダン。大丈夫か?」
問いかけに対する返事は無い。彼らはそれどころでは無かったためだ。
荷台の上。槍使いはどういう技量でか。発勁の如く間合いの無い状態で、眼前の男へ槍の一撃を叩き込み無力化。隣の猫族戦士は斧でもって、一人の男の首を跳ね飛ばしていた。
彼らの眼前にいるは、今叩き伏せた者達に守られていた壮年の男のみ。摺り足で、肉薄する戦士達。
突如、敵が自身に着火。それと共に敵だけでなく馬車も炎上。炎に包まれる。
二人が間一髪。車内からまろび出てきた。
「自決か」
この時。わたしの首筋に悪寒が走った。強い違和感が、自ら発した呟きを言外に否定する。
はたして。わたしの予感は的中した。
焼け崩れ、いまだ炎と煙が立ち込める馬車の残骸。その中に、異形の人影が揺らめいている。
そう。顕現したるは。八つの目と八本の腕を持ち、獄炎にその身を包んだ炎の魔人。
「イフリータか・・・!」
魔術師が隣で呻き声を上げる。敵は自身の命を代価とし、魔神を召喚したのだった。
次回、イフリータ戦、開演




