砂漠の街 ~その⑧~
目覚めた姫殿下に意思を問う。
「王宮に戻ります」
扉を叩く音がした。
わたしが爺さんに目配せする。即座に、魔術師が首を横に振った。「こちらから知らせぬ限りあり得ぬ」と。
とするならば。我々3人以外の者が知らせた。つまり・・・。
「ご安心を。私の安否を気遣った者です」
そこまで思考を進めたわたしの考えを見抜いたかのように、姫殿下が小さく首肯する。言外に彼女が連絡を取った事を示していた。
はたして。扉の前には頭を垂れた人影が二つあった。頭巾付きの外套を目深に被っているため。その面は判然としない。
「城にて。吉報を待ちます」
御武運を。そう言い残し、貴人と護衛の従者の姿は闇に消えていった。
「お主が庇護する必要は無くなったな」
「ああ。違いない」
わたしは、肩をほぐすため伸びをしつつ。微笑を浮かべた。
「ふーやー。そしてダンと合流しよう」
2人が首肯する。
「して。それとは別に。敵拠点の見取り図はどうする?」
「手段・・・もとい。伝手がある」
わたしは椅子に腰をおろし、机に向かった。羊皮紙にペンで速記する。終わると、背負い袋の側面に括りつけていた鳥籠の中から、一羽の伝書鳩を取り出した。その脚に折り畳んだ羊皮紙を結わえ、一旦籠に鳥を戻す。
「地上に出たい」
「分かった」
拠点を後にし、隧道を進む。わたし達が出口に辿り着いた時には、夜が白み始めていた。朝焼けの空の下、鳩を飛ばす。「ギルドへ行く」。わたしは言葉少なに二人へ声を掛けると、一歩を踏み出した。足元の砂塵が辺りに舞う。
二人が、無言で付いてくるのが気配で分かった。
† † † † † †
今、わたし達は郊外から街の中心部へ身を移していた。石畳の通りを徒歩で進む。
3者一様に外套の頭巾を目深に被り、面を隠していた。幸い、この街では珍しくない装いだったため、悪目立ちはしなかった。
皆、砂が身体に付着するのを嫌う。そのため、薄手の外套で全身を覆う。それがこの街のスタイルだった。
程なくギルドに到着。わたし達は中へ踏み込んだ。
はたして。そこには白い外套に身を包んだ司祭のふーやー。そして、槍を手にした男が待っていた。鎧姿の彼は、ダンだった。
お互い、笑みを浮かべ再会を喜び合う中。魔術師が眼光鋭く「静かに」と、手振りで警鐘を発した。
「囲まれているぞ」
「うぴ」
わたしの意図を酌んだ彼女が、すり足で壁面へ身を寄せた。半身を隠しつつ、窓から外の様子を伺う。
「表の通りに馬車1台。人影は10」
「手厚い歓迎だ」
「どうする?」
決まっている。わたしは「何を当然の事を聞くのだ」と言わんばかりに、力強い笑みを浮かべた。
「正面突破だw」




