砂漠の街 ~その⑦~
「警報発令。Lv5。市民の皆さんは速やかに非難を実施して下さい」
「ぬ・・・有線NWが遮断されたか」
警報が聞こえた直後、通信途絶。ゲーム世界から切り離されてしまった。
安否を気遣う魔術師と戦士に、わたしはボイスチャットで無事を伝える。
ここ数日降り続いていた豪雨。自然災害により、来るべき時が来たという事だった。
「安心してほしい。大丈夫だ。10分待ってくれ」
まさか、本当に使うことになるとはなと、わたしは嘆息しつつ。
PCとディスプレイを担いで、一階へ降り立った。
脱出用のゴムボートが、そこにあった。
わたしは手早く梱包したPCとディスプレイをゴムボート内へ設置。水没した街へと繰り出した。
「かむ。今どこ・・・」
わたしはボイスチャットをオフにする。
「すまない。動き出したら止まれない」
そして、邪魔はさせない。わたしは小声で呟く。
目指すは、一駅向こう。「この日のため」に購入していた、1Rマンションだった。
「ぬ・・・障害物が・・・!」
水圧で押し流された車や建物の破片が山の様に積み上がり、わたしの行く手を阻んでいた。
あと一歩の所で・・・!わたしは歯噛みする。どうする、かむ。考えろ。考えろ・・・!
「よし・・・!」
わたしは揺れるゴムボートの上で素早くPCとディスプレイをセット。そして発動機を回す。個気味良く、モータ音が周囲に木霊した。
そして、スマホで目的地のマンション室内を遠隔操作。ブレーカーを上げ、ルーター起動。
この部屋には100km先の高台にある基地局から専用線を引いている。なまなかな事ではNWは途切れない。
直後、スマホの電波が圏外に。間一髪だった。PCとスマホのNWをマンション室内のWi―Fiに切り替える。
「お待たせ。ゲームを続けよう」
わたしは揺れるゴムボートの上で、ボイスチャットをON。自信満々に魔術師と戦士にNWが復旧したことを告げた。
時間はきっかり10分経過したところだった。




