砂漠の街 ~その⑥~
「よく眠られておいでだ」
姫殿下の静かな寝息に、魔術師が優しい笑みを浮かべる。
食後。姫殿下は部屋の奥。寝台にて就寝され。かたや冒険者一行は、円卓を囲んでいた。酒とつまみのソーセージを食しながらの作戦会議。「奴らは必至で我々を捜索しているとして」と、わたしは話しを切り出した。
「そもそも襲われた理由も知りたいところだが。これは優先度は落ちる。知らなくとも。奴らを殲滅出来れば良い」
つまり、最優先は難局からの脱出。我々の命だ。
「良かろう。で、それを実現するためにどうする?」
「我々は寡兵だ。寡兵で敵を叩くとなれば・・・」
「中枢へ潜入し、敵の頭を叩く」
ただの敵ならば、そうだな。わたしは頤を上下させ、魔術師に対し肯定の意を示す。
「狂信的な集団が相手の場合、もう一捻り欲しい。個でも残っていれば後の禍根に繋がる。先も言ったように、下から上まであまねく全てだ」
「ふむ・・・殲滅なれば。敵潜伏先の建造物の破壊も必要になって来そうじゃの」
「なあなあ。これ、使うか?」
猫族戦士が雑嚢から、シガレットケースを取り出す。木箱の蓋を開け、中身を見せてきた。葉巻の代わりに青黒い液体を満たした試験官が、整然と収まっている。
「ん・・・なんだ、これ?」
わたしの知らない物だった。説明を求め、目線を向ける。戦士が顔に笑みを張り付かせ。身を乗り出しながら答えを返す。
「爆薬だw」
わたしは「ほう」と、頷きともそれ以外とも取れる吐息を漏らした。
「威力は?」
「この試験官一個で。戸建て一軒が吹っ飛ぶ」
クレーターが出来るぜと、物騒な事を喜々として宣う猫族戦士。
「これ使う場合。建物の見取り図が欲しいw」
他の建物へ爆発の余波が届かないようにどこに爆薬を仕掛けるか。考慮必要だからな。一息に説明し終えると、満足したのか。うぴは尻を椅子に戻し、得意げに腕組みをした。
なるほど。建造物の破壊という目的上、効果的に思えた。
「わしのは。これだ」
次にじいさんが、巻物を鞄の中から取り出し、卓上に置いた。
「異界へ全ての物を飛ばす」
「ふむ・・・効果範囲は?」
「街の1/4区画を一面として。その立方体だ」
1区画は縦横ともに、約120m。その1/4ということは、30m✕30m✕30m。「殺戮兵器だな」と。わたしはぼそりと呟いた。
「わたしのは、これだ」
「薬草?」
「毒草だ」
火を付け、燻る。
「特に毒に対して耐性のない一般人ならば。煙を吸い込んだ時点で昏睡状態に陥る。その後上部呼吸器系が麻痺し、呼吸困難で死に至る」
「お前・・・」「かむ・・・」
「「ゲスい」」
「で、結局どうする?」
「全て使おう」
わたしは即答し、杯の残りを勢いよく呷った。「建造物が地上にあるものと仮定して」と、わたしは言葉を紡ぐ。
「じいさんの巻物を使って、建物地下の空間を除去。建物を文字通り落下させる。その後、追撃として爆破。さらに、毒草の煙で生き残りを殲滅。あらかじめ爆薬と毒草の仕掛けが必要だからな。うぴの希望通り、建物の見取り図は入手しよう」
無論、仮定と事実が異なる場合、都度修正する。そう付け加え、わたしは話しを締めくくった。
「お前・・・」「かむ・・・」
「「ゲスい」」
「だが、そこまでしても。我々の面が知られている以上。禍根は残るぞ?」
敵は建物内だけとは限らぬからな。じいさんが、渋面を作る。
「思うところがある。だが、その次の策を用いるにしろ。まずはここまで実行しよう」
「最もだ」
異口同音に、戦士と魔術師は頷いた。
「姫殿下はどうする?」
「本来は、居城へ送り届けるのが筋だろうが」
わたしは、ちらと奥へ目線を向けた。
「すでに襲われた以上。わたし達から遠ざけるのは逆に危険と考えるが。どうだろう?」
「我らの目の届かぬところへ置くわけだから、か。それはつまり。我々の力が、敵対する勢力より勝り。国の。おそらく近衛と考えるが。敵対勢力が近衛より勝る場合だな」
己の力を過信しすぎでは?と。魔術師の目がわたしに問いかける。
「それとも・・・」
「暗殺を恐れている」
わたしの言に、魔術師は背もたれに深く身体を沈ませた。
「わたし達が敵の中枢に潜り込むのを考える様に。敵が宮廷の中枢へ潜り込む事を考えないとは言えまい。巻き込まれただけの『娘』と敵が考えていたとして、わたし達と一緒にいたところは目撃されている。遠からず姫殿下という答えに辿り着こう。殿下の国政への影響力がどれ程あるか分からないが。敵は過大評価するだろう。その場合、無関係で済むとは考え難い」
「しかもすでに潜り込み。潜伏中の可能性あり、か。その場合は、敵の魔手が殿下に届き得るが・・・」
魔術師は僅かに瞑目した後。瞼を静かに開いた。
「やめておけ」
思いのほか強い言葉を受け。わたしは弾かれたようにガイを見つめた。「話しが発散しておる」と、彼が付け加える。
「お前の悪い癖だ。出来る事。出来ぬ事。すべき事。すべきで無い事。線引きが出来ておらぬ」
鋭い呼気と共に、魔術師がわたしを叱咤する。
「任すべきところに任せ。それでも玉の緒を散らされたならば。それがその人にとっての天命だったという事だ」
「姫殿下が望まれたならば?」
魔術師の杖が、わたしの小さな右肩に勢いよく落ちた。鋭い痛みに、わたしの顔が歪む。
「悩むのと考える事。違う事ぞ。幾度言ったか?そして、安易に答えを求めるは即ち。他人に考える事を任せ。自分の意思を放棄している」
わたしは自分のスタンス(生き方)を振り返り。思い出し。現状に照らし合わせ。そして、答えを絞り出した。
「わたしは・・・わたしの意思で、庇護する」
「そうだ。その通りだ」
それで良いと。ガイが顔を綻ばせる。ひどく男くさい笑みだった。結論は同じでも。明確な理由と意思の有無を、彼は問うていたのだ。
「お前は騎士なのだろう。人に頼られるは誉れ。一度頼られたならば。力を尽くし。御守り差し上げろ」
わしらは、そのためにお前の傍にいるのだ。言い終わるや否や。魔術師が面を隠すように、帽子を目深に被った。芝居じみた言葉が、そうさせたらしい。ガイの耳が、僅かに赤く染まっている。
人生の目的は。自らの魂を磨き、高める事。いつかの言葉が、わたしの心に浮かんだ。
「二念で消せよ。かむ」




