砂漠の街 ~その①~
砂漠。夜の砂漠を疾走する船。帆いっぱいに風を受け、疾駆する。
大陸南部、砂漠地帯。
蟻人と人族の王国がそれぞれ一つづつ存在する。
その支配地域を一歩外に出ると、凶悪なモンスターが跳梁跋扈する。
今日のわたしは、一人だった。
甲板上に小さな背丈の騎士が佇む。夜風を受け、髪がなびく。
全てが穏やかだった。「このまま目的地に辿り着きたい」と。胸中、想いが浮かぶ。
しかし、運命を司る神がいるとするならば。その神はわたしとは違う想いだったらしい。
大きな振動が船体を揺らす。何事かと、辺りを睥睨する。右舷30m程先に、「それ」がいた。
「いやなのに遭遇したな~」
わたしの眉を顰めさせた「それ」とは、個体名サンドランナー。
この砂漠地帯のみに生息する巨大な芋虫だった。
芋虫だけあって、知能は低い。しかし雑食性で狂暴。感知した生き物は全て「エサ」として認識し、襲い掛かる。体格は個体差があり一概に言えないが、目の前のそれは体長15m程に見えた。
並走する巨大芋虫が、船体に体当たりをかまして来た。先ほどと同じ振動が、船体を揺らす。
このままだと、船がもたない。わたしは剣を引き抜くと、舷側から身を乗り出すようにして身構えた。
サンドランナーの再度の体当たりに動きを合わせ、わたしはナイト固有戦闘スキル「パスカルクリムゾン」を発動させた。
前方への突きを3度。その後ベクトルを中心から2度、-2度と変えた突きを一度づつ。最後に再び中心線目掛けた突きを放つ6連続コンボ。
エフェクトは刀身に朱い燐光を持たせる。効果は通常攻撃+300%。
サンドランナーが痛みから、デザートイエローの巨体を大きくくねらせた。目の色が通常時の青色から怒りを表す赤色に変化している。
だからといって、わたしの心まで波打つことは無い。
巨大芋虫の体当たりに合わせ、機械仕掛けのように正確な「パスカルクリムゾン」。さらに「こいつも付けてやる」と言わんばかりに騎士固有攻撃魔法を詠唱。剣による一撃の2.5倍の威力を持つ「ルビーフレッシュ」が発動。サンドランナーにこれでもかと、わたしは容赦なく攻撃を浴びせ続けた。
ほどなく、サンドランナーの気迫が萎えた。「エサとして捕食するには難し」と本能が告げたのだろう。目の色を文字通り変えて、「それ」は船から離れだし、砂漠の奥へと消えていった。
暫くの間わたしは見張りを続けたが、これ以上危害を加えるものは現れないように見えた。
わたしは舷側から甲板中央付近に身を移すと、座り込んだ。ほっと息を吐きつつ後ろ背にあった帆柱にもたれ掛かる。
再び、わたしは目的地である人族の王国を目指す。そこで待つ、仲間たちの元へ。




