神殺しの魔神テュポーン討伐戦 ~その④~
「まだHP80%残ってるってどんな無理ゲーだよw」
大爆発の後、空中庭園は崩壊。東西南北中央と、5つに砕けた大理石製の庭園の基部が、空中に浮かんでいた。
戦場は飛び地と化していた。
中央の浮き島にいたわたし達を覆うように、赤い範囲マーカが出現。敵からの攻撃予告。
みなが一斉に他の「浮き島」に飛び移る。移動前の中央の浮き島に、テュポーンの範囲攻撃が突き刺さる。浮き島にひびが入った。
どうやら何度か魔神の攻撃が浮き島に入ると、浮き島を破壊。足場が無くなり、ゲームオーバーという事らしい。
「あ」
うぴが一人、PTメンバが移動した方向と違う浮き島に飛び移った。その直後、そこに白い範囲マーカが出現。
赤は敵。青は味方。白は敵と味方双方に攻撃を及ぼす。ここでいう「白」の範囲マーカを出現させたのは・・・ゼウス像!
うぴが危険を察知したのだろう。戦士の固有スキル、「ブリュンヒルデクラトン」を発動させた。10秒間、いかなる攻撃も吸収し、その攻撃の10%を自身の武器に付与する。
テュポーンの巨体が降ってくる。その衝撃でうぴが強制移動。幸い島の端にいたせいか、踏みとどまり、墜落を免れた。
さらにゼウス像から雷が飛来。強烈な雷撃がテュポーンとうぴを襲った。テュポーンのHPが大きく削られる。
「俺の攻撃だと、たいして削れなかったのにOrz」
ダンの呻き声。だが、それが答えだった。神の力を借りねば、この魔神は倒せない。
ここで、うぴがわたしに困ったような表情を見せた。
「このままだと、うち。やばいぜw」
強烈な継続ダメージ(DOT:Damage On Times)が、うぴのHPを奪っている。
「かむさん、スイッチ!」
後方から、ふーやーの鋭い喚起。わたしとうぴが即座に反応する。
「敵視奪取」
「敵視譲渡」
よどみない攻撃対象移動。うぴがわたしに向かって親指を立てる。「良くやった」という事らしい。
「ナイスw」
名前と共に、賞賛された。だが、このキャラの名前ではなく、やけに懐かしい名前でだった。
「ふむ・・・w」
ノスタルジーに浸り掛けたわたしだったが、状況がそれを許さない。
わたしはノックバックを警戒し、事前に「地母神掌中(ノックバック無効)」を発動。
同時に無敵防御。これでノックバック無効かつ、この後10秒間、いかなる攻撃を食らってもダメージを受けない。
直後、うぴのプロヴォークとわたしのインヘリタンスで壁役交代。
これで2人共、無敵技を使い切った。次回使用可能は約5分。
(次の攻撃をどう凌ぐ・・・?)
この時、どういうわけか。啓示がわたしの脳裏に浮かんだ。
先程のうぴの呼び掛けが起因なのか。今となっては分からない。
「うぴ、もしかしたらだが。2受でしのげるかも」
ほぉ、とうぴの口から肯定とも否定ともつかぬ声が漏れる。「仮にそうだとしても」と、猫族戦士が考えを述べる。
「予想外れたら、壁役崩壊でPT全滅だなw」
「まあなw」
わたしは、こくりと頷いた。
その間にも、足元に赤い範囲マーカが発生。「タンクは北。他は東」とちぇきの指示が飛んでいる。
2人の思考時間は、互いに数秒だったに違いない。
戦士の眼差しがこちらに向けられ、わたしも相手を見ていた。
にやりと、示し合わせたようにわたし達の顔に笑みが浮かぶ。
「やるかw」
「うむw」
戦士と騎士が飛ぶ。飛び立った中央の島はもともとテュポーンの攻撃で亀裂が入っていたものだが、2度目の赤マーカ範囲攻撃で崩壊。
それを尻目に、北の浮き島に着地。魔神に相対する壁役2人。白い範囲マーカが出現し、ゼウス像から雷の雨が降り注いだ。
わたしの憶測は現実にものとなり、被ダメージが1/2に低下していた。
2人揃って、防御スキル全開で凌ぎ切る。
この3撃目により、魔神の残りHP5%。
そしてゼウス像の両手に、このフィールドを覆いつくす巨大な岩盤が現れた。それに連動し、フィールド全域が白い範囲マーカとなる。
「ぬあ!?」
「マジカヨ」
「Oh(・∀・)」
思わず硬直するわたしとうぴに、ちぇきが的確に指示を下す。
「2人ともこっち!」
弾かれたように跳躍。東の浮き島に集結する冒険者達。
「ゲージ、たまってるな」
「うちがやるw」
言葉通り、猫族戦士がパーティ戦闘ゲージを使用しての壁役必殺技を発動。冒険者達の前に現れ出でたのは、神話の英雄ブリュンヒルデ。
効果はナイトが使用した際出現した地母神同様、敵の攻撃を10秒間90%削減。
待ち構えていたわたし達目掛け、ゼウス像が岩盤を放り投げてきた。
うぴが顕現させた英雄が強烈な一撃の威力を大幅軽減。だが、それでも防ぎきれなかった打撃がパーティを襲う。
冒険者達が負った怪我を、司祭2人が全力回復。
そして岩盤の圧をまともに受けた魔神が、断末魔の咆哮を上げた。
テュポーン轟沈。戦闘は終結した。




