敵地へ
わたしは席を立つと、少し離れたところに座っていた禿頭のじいさんアバターに声を掛けた。
「ロー。チェキは?」
彼はわたしを認めると、「広場のはずじゃ」とリーダーの所在の心当たりを教えてくれた。
わたしは店を出て、王都の目貫通りを南下しだした。石畳の道路脇には、同じく石造りの建築物が並ぶ。
人通りは多かった。プレイヤーとNPC含めて。
彼らとすれ違う中、ほどなくして、わたしは「広場」に辿り着いた。そこは都の南に位置する「旅立ちの広場」。噴水が中央にあり、それを遠巻きに囲むように出店が立ち並ぶ。自然と、喧騒が耳に入る。
目当ての人は近くのベンチに座っていた。
リーダーことチェキ。彼女はラクーシャ(ネコ族)の詩人。ジョブは遠隔物理DPSだった。
てくてくと近寄り同じベンチに腰掛け、依頼内容を伝える。
彼女の開口一番の返答は「いいんじゃない?」という肯定の言葉だった。
「人、集めるわね」
「お願い!」
集ったPT構成は戦闘職(DPS)4人。壁役2人に司祭2人という陣容だった。
「よし。それじゃ、みんな準備良ければ突入しましょう」
時間は23時。チェキの号令一下、わたしたちは王都郊外へと歩き出した。
街道沿いを東に進む事半日。小道に入るとすぐに獣道になった。
すでに人の領域では無い。人の背丈のゆうに2倍はあろう草木。それを山刀で切り分け、足で踏みしめ前進していく。
先頭を進んでいたチェキがぴたりと足を止め、掌を水平にした。パーティで事前に定めていた警戒の合図だ。後続の面々が、無言で得物を手にする。
指が順に上がる。都合3。わたしは頷くと、先頭を交代。斧を構えた。
はたして。ひどい獣の匂いと共に重量を感じさせる四足の音がし出した。
得体の知れない四つ足の獣。厚い毛皮に鎧われていることと動きの速さ。また、周りの樹木の影と相まって正体が分らず、カテゴライズが出来ない。
数は3。
わたしが正体不明の獣を十分に引きつけ、間合いに捉えたところで。それは起こった。
「ライトニングボルト」
「スーパー武僧パーンチ」
元気なじいさん達による瞬殺劇。
魔導士のガイが「わしこそが大魔導士」だとか「わしの魔法を味わえい」とイキリ散らす。
もう片方の禿頭は鼻息荒く、ひたすら筋肉を誇示している。
そして息を合わせたかのように「老人を労われい!」と唱和する。
承認欲求が強く。迷惑なじじい達がそこにいた。