神殺しの魔神テュポーン討伐戦 ~その②~
戦闘を開始して1分。敵のHPゲージが5%ほど削られた頃だった。
テュポーンからMTに対し強攻撃が行われた。攻撃はその場での圧殺。うぴのHPゲージが1/5まで減少。
「うひー」
うぴが悲鳴を上げる中、よく見れば、魔神は追撃技を放とうとしている!
「対象者防御」
わたしは対象にした味方に対し、敵からの攻撃を庇うナイト固有スキルを発動させた。魔神の追撃技、尻尾による薙ぎ払い攻撃「ソニックテイル」を受けきる。だが、魔神の攻撃はまだ終わらない。肩から生える竜達の咢が一斉に開いたかと思うと、火炎攻撃を放ってきた。全面120度。放射状に炎が迸った。
「あっつう~~!?」
「いて~~!?」
「強烈だな(/・ω・)/」
ダン、ぴろ、わたしがそれぞれの感想を口にした。司祭二人は、それどころでは無いのだろう。必死で回復魔法を唱えている。
この間、戦闘職の4人は間断なく攻撃を行っていた。近接のダンとぴろが槍を振り回す中、遠目から攻撃する魔導士のガイ。火炎玉、雷、凍結魔法といった魔法を詠唱。敵に浴びせ掛ける。
そしてちぇきもまた、魔力を載せた矢を撃ち続けていた。複数の矢を敵の頭上から雨のように降らせる「オータムフォール」。魔力のエネルギーを込めた矢を放つ「ホワイトエナジー」。そして通常放つ矢の5倍の威力を持ち、全てを穿たんとする「ダンシングヴァルキュリエ」。
これらの攻撃を嫌ったのか、魔神が突如咆哮を放った。
それに呼応するかのように、わたし達の周りに竜巻が発生。数は3。巻き込まれまいと避ける冒険者達一行を、追尾する形で襲ってきた。
「台風・・・」
わたしは、魔神の名が語源となった自然現象を人知れず呟いていた。
(見た感じ、ハリケーンの方が適格かな)
言葉が浮かぶと共に、冷静な自分がいる事を認識。「かむ」が無駄の無い動きで竜巻を避けつつ、魔神に剣を突き立てる。
その目の端で、わたしは一人の逃げ遅れたプレイヤーを捉えた。
「・・・」
戦士だった。この友人は自分がミスを犯した時、決して騒ぎ立てない。無言で回復策を模索する。その事を、わたしは長年の付き合いから知っていた。
そしてその中でも、自身ではどうしようもない状況にいる時の「無言」なのだと、わたしは理解していた。竜巻が抗う戦士を弾きながら、端へ端へと追いやっていく。
この空中庭園の先には、足場など無い「空」が広がる。最後に待つのは墜落死のみ。
「キュベレー」
わたしはうぴを助けるべく、一つのスキルを発動させた。効果はその場からの強制位置移動無効。効果時間は20秒。
その状態で「対象者防御」を発動。うぴとわたしの間に、緑色をした光の線が現れた。
そう。この技は先も述べたように、対象者の攻撃を身代わりとなって受け止めるスキル。ノックバックも例外ではない。
そして自らの意思で効果を解かない限り、今のわたしは20秒間、いかなる事があろうとも微動だにしない。
状況を理解したのだろう。戦士が、その命綱を伝ってわたしの元まで戻ってきた。
「助かったぜw」
「ほいw」
短いやり取り。だが、互いの意思を伝えるのには、それで十分だった。
わたし達は再び、魔神へと向き直った。




