タブーを映した瞳
「私の目はねえ、特別製なんだよ!」
「知ってるさ、俺が入れたからな。じゃあ、あれは見えるか?」
俺は、遙か遠くの丘の上に、豆粒のようにしか見えない物体を差す。
「もちろん!」
リーナは、じっと目を凝らした。特注のカメラアイがめまぐるしく動き、センサーに像を結ぶ。
「見えた!って、え、あれ、何してるの……?」
「おい、何が見えた?」
「えっとね、たくさんの人がむりやり家に入ろうとしてる……」
「!、リーナ、この端末に写してくれ!」
「わかった!」
リーナは、耳の後ろからケーブルを抜き出し、端末のコネクタに接続した。
「なんだこいつら!」
つなぎを着た数人の男たちが、手に持ったバールや鉄パイプを民家の窓に叩きつけ、次々に中へ進入していく。
「リーナ、俺らじゃどうにもならない、警察へ通報しろ!」
「うん!……もしもし、警察ですか?民家に押し入ろうとしている人たちがいます。住所と写真を送ります。……はい?わかりました。そのまま待ちますね」
リーナは、現場をみつめたまま連絡を取っている。回線をつないだまま待機を命じられたようだ。
「あ、はい、すぐ来られますか、ありがとうございます。私たちはどうすればいいですか?……このまま待つ、わかりました。え、まだ何か?……、………」
突然、腕を触られた。
俺の腕に触れたリーナの手はがたがたと震えていた。リーナの手は、俺の腕に一瞬当たった後、力なく垂れる。
「おい、リーナ、どうした?」
リーナの身体はがたがたと震え、頭部から白煙が上がっている。
「…ピッ………ガ……にげ……………て………………」
頭が真っ白になった。
が、そんな場合じゃない。助けなければ。
後頭部に指を差し込もうとする俺の手を、リーナが掴む。
「………ここ、か、ら、にげ、ガピュ………て………」焦点が定まらない瞳を向け、必死に訴える。
リーナを抱え上げ、クルマへ走る。リーナを後部座席に寝かせると、運転席に転がり込んでエンジンをかけた。
駐車場へクルマを止め、後部座席のリーナの元へ向かう。
震えるリーナの後頭部へ指を差し込み、電源ボタンを長押しする……が、止まらない。
「なんだこれは……バッテリ!」
両耳を引き、後頭部を解放。胴体のメインバッテリーにつながるケーブルと内部に積んだ補助バッテリー本体を素早く引き抜く。
「……ぴ、………う…………ん」
リーナの頭部は電源供給を絶たれ、沈黙した。
「……」念のため、胴体に取り付けたメインバッテリーも外しながら、静かになったリーナを見る。
「どうか、無事で居てくれよ」後部座席へ寝かし、開いたままの瞼を指で下ろした。