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「お疲れ様です〜。」
休憩室でだらだらと寛いでいると、ドリンクを持ったポニーテールの後輩が入ってきた。相変わらずオンとオフの切り替えがはっきりしている。
「お疲れ様。」
「先輩こそ、おつおつ。今日は忙しかったですねぇ。」
「な。なんかイベントあったっけ?」
さあ〜っとオフモードのゆるさで言いながら、後輩はドリンクを口に含んだ。ガラスのグラスによく似合う炭酸は活きが良さそうで、見ていると僕まで炭酸が飲みたくなった。昼間の足の犠牲を無駄にしてまで飲もうとは思えなかったけれど、それでも欲が出てくるくらい美味そうに飲んでいた。
「あれっ先輩、足の指どうしたんです?私の知らないところでグラスでも割って踏んづけちゃったんですか?あぁなんで見逃しちゃったんだろう。踏む前に、いや割った時点で声かけてくださいよ〜。」
「鬼じゃねえの?ねぇねぇ鬼じゃねえの??」
「いやだなぁ、こ〜んな可愛い後輩捕まえて何を言うんですか?超尊敬する先輩の心配してあげてるんですよ?感謝してほしいですねぇ。」
尊敬されていたのか。そして心配されていたのか。いやはやありがたいと冗談に乗ってやる元気もないし、そもそも全くそうは見えない。なんならそんなはずもない。
「そんな優しい佐々木さんに質問なんだけどさ」
「ええ、ええ。すっごく優しいこの佐々木さん、先輩の愚問に付き合いますよ!」
「ぐも……。まぁ良い……。例えばの話だけど、佐々木さんに告白してきた男が2人いるとするでしょ。1人はモラルのない男。で、もう1人はデリカシーのない男。どっちか1人を選んで付き合うならどっちが良い?」
ツインテール時々ポニーテールの後輩、もとい佐々木さんの訝しげなその表情を見ながら話していると、妙に聡いこの後輩が僕の傷に気付きかねない、なんとも下手な話だなと思った。このコミュニケーションの巧さは積年の努力の賜物だな。さて、僕のこの秘宝と自分の伝説の宝とを交換してくれるような聖人はどこにいるかな……。宇宙の彼方か?
「そうですねぇ……。前提を覆すようですみませんけど、私はどっちも選ばないと思います。」
不定形なものを全て吐き出したグラスが役目を終え、コトンと腰を落ち着けた。
「だって、この私がそんな欠点を抱える男性とお付き合いするほど」
勘の鋭いところもあれば全く見当違いなところもある小鬼で、僕の元彼女の行動についてはあれこれ考察していた無邪気さは何処へやら。
「男に飢えてるはずもないでしょう?」
どことなく勝気なその表情は、ひとを魅了する小悪魔のようだった。