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何の変哲もない公園とベンチに何を思うこともなく腰をかけ、ここに至るまでの一番の働きものを労った。この公共の場を行く人たちからは少しだらしなく映るかもしれないと思いつつ、帰りのことを考えると気休めでもなんでもスニーカーを脱がなければならないと思えたのだ。ひとときの別れだ、我が足のお供よ……。と、ついでに小指の状態も確認しておきたいが、流石に靴下まで脱ぐとなれば、まわりの人に気を遣わないわけにはいかないだろう。圧迫感から逃れたことで出来た余裕を、周囲の確認に充てる。
木々に囲まれていて、入り口に使用ルールが書かれた看板があったから、こうして見回すまでここは公園だと思っていたが、それにしては殺風景だった。純粋無垢な芸術家がほほえましい作品を残しては去っていく砂場もないし、少年法という盾を持つ勇者たちがたむろするような遊具もない。あるのはこのベンチと、向かい側のベンチ。どちらも木陰になっていて、散歩の小休止にはうってつけのようだった。
「………。」
隣に人がいると思うと、どうしても固まってしまうのは僕だけじゃないはずだ。それは大学からの帰り道とか、単に出かける日とかに乗る電車なんかで感じることがある。さっきまでは空席だったおとなりに人が座ると、ちょっと動くだけでも気配が伝わる。ぶつからないように気を付けつつポケットからスマートフォンを取り出そうが、読んでいる本のページを捲ろうが、もう何をしようがおとなりさんが気になるのだ。逆も然り。満員電車でなら全く気にならないが、生憎ここはすっかすかだ。二人しか乗っていない。
「………。」
小指が気になる。あの蒸し蒸し空間から脱した足は、残る唯一の違和感、痛覚をより際立たせる。とはいえ、お隣が同士でも同性でもましてや顔見知りでもない以上は確認することはできない。それをしたが最後、彼女に不愉快な思いをさせること間違いなしだからだ。どうだ、この発想はデリカシーに満ち満ちているだろう、と、あの後輩に連絡でもしようかと思ったところで、風鈴とか、氷がグラスにぶつかったときの音のような、なんだか短くてきれいな音を拾った。
「足、どうかされたんですか?」
その音が彼女の声だと考え至るに時間はいらなかった。
「いえ、なにも。すみません……。やっぱり、いくらなんでもこれは寛ぎすぎですよね。」
「あ、いいえ、そんなことが言いたかったんじゃなくて……。」
言葉を探す表情が、なんだか絵になる人だなと思った。
「もし靴擦れをしているなら、絆創膏を差し上げますよって言おうと思って。」